第7時限目 運命のお時間 その2
額を突き合わせるようにして、私たちは結果の用紙を見ているのだけど、どうやら誰かが見ている白昼夢でもなければ、視界がぼやけて数字を読み違えているわけでもないみたい。
間違いなく、私と岩崎さんの友情運に『0%』の文字が踊っていた。
「凄い……0%とか初めて見ました」
「あっはっは、アタシもだよ。ここって0%とか設定あったんだねえ」
正木さんと片淵さんの反応からして、0%は珍しいみたい。
当の本人その1である私としては、正直なところちょっとショックではある。だって、0%ってことは「キミら、超仲悪いよ!」みたいな最後通告に見えるし。
でも、当の本人その2である岩崎さんはというと。
「0%って!」
肩を震わせているから、甚く結果が悲しかったのかと思ったのだけれど、すぐにぶふっ、と吹き出しながら自分の体を抱きしめたから、実は笑っていただけだったと気づくのにそんなに時間は掛からなかった。
「……0%とかヤバくない!? ぷふふ、小山さん、あたしたちの友情運0%だって、0%!」
くすくすを通り越してくふふとかくははとか、そんな笑い方になっている岩崎さんは、
「わ、笑いすぎてお腹痛い……!」
とか言い出すくらいには面白い結果だったみたい。ひとしきり笑った岩崎さんは、
「あたしも何回かくらいは来たことあったけど、これはなかなか無い、無い無い」
などと感慨深げ。
「100%最大で1%ずつ刻みなのに0%って凄いと思うねえ。ある意味これ見ただけで友情運上がるんじゃないかなー、にゃっはっは」
「あるある! ま、今0%ってことはもう上がるしか無いじゃん?」
「だよねー」
「そうですねっ」
私以外の3人は全く意に介さない様子で笑っているし、ううむ、気にしているのは私だけ?
「小山さん、どうしたの?」
そんなに気になるくらいに落ち込んでいたつもりは無いのだけれど、岩崎さんが私に声を掛ける。
「いえ、あの、0%って……」
「あー、大丈夫大丈夫。友情運って、その日のバイ……バイ……えっと、バイなんだっけ? バイリンガル?」
「バイオリズム?」
岩崎さんの質問に正木さんが回答する。
「ああ、それそれ。バイオリズムバイオリズム」
今のだけで良く分かったなあ、と思う。そんな阿吽の呼吸な正木さんと岩崎さんの友情運も57%とさほど高くはない。
「で、その日のバイオリズムにも依るらしいよ。こう、お互いのビビビッとバイオリズム同士が合うとか合わないとか、そういうので数値も変わるみたいだし」
「まー、つまりあれだよね。占いだし、当たるも八卦当たらぬも八卦ってヤツさー」
片淵さんがこのテーマパークの存在意義をちゃぶ台返しするみたいな言葉を放つ。でも、確かにそれはそうかな。考え過ぎても仕方がない。
「それに、これからのアトラクションで友情運を上げればいいだけだよ、小山さん」
「んだねー。何と言っても、このテーマパークはそれが目的だしねー」
「そういえばそうでしたね」
むしろ悪すぎた結果のせいでノリノリの岩崎さんがタッチパネルを操作しながら、
「んじゃあ、友情運アップのアトラクションはあたしと小山さん、紀子と都紀子で良い?」
と聞いてくる。
「にはは、良いんじゃない? あ、後で0%のときのアトラクション、何だったか教えてねー」
「オッケー」
にはは笑いの片淵さんに岩崎さんが答える。そういえば、友情運の状態によってアトラクションが違うって話をしていたっけ。
私と正木さんも頷いたのを確認して、岩崎さんが再度タッチパネルを操作すると、今度は2枚の小さい紙が出てきて、その内1枚を片淵さんに渡す。
「どれどれ……えっと、こっちのアトラクションはA-5か」
「A-5ってなん……あー、あれか」
片淵さんの読み上げた『A-5』というのはどうやら地図に載っているエリア名のこと。岩崎さんはそのエリア名を聞いて一瞬だけ疑問符を作り、直後それを全力投球して宇宙の彼方に放り投げた。
「紀子、アレ苦手だったよね」
「うん……」
「まあ、仕方がないねー。で、真帆ちんと準にゃんのは?」
既に暗い表情の正木さんを励ましていた片淵さんが、同様にアトラクションの向かう先が書かれた紙を持っている岩崎さんに言う。
「あたしたち? えっと……Z-99……99!?」
「え?」
岩崎さんの言葉に、また皆で額を突き合わせて小さい紙を覗き込むと、
『アトラクション場所:Z-99』
と確かに書いてある。
「普通、アトラクションって10番くらいまでだよね」
「それにアトラクションエリア名ってAからCまでじゃなかったっけ?」
改めてテーマパークの地図を確認しても、Zなんて付いているのは無い。うーん……?
「こうなったら、受付で聞いてみるしかないねー。いやあ、自分自身がやらないのにワクワクしてきちゃったよ!」
笑みが溢れる片淵さん。いや、それはどう考えても――
「むしろ自分がやらないからじゃない?」
岩崎さんが私の心を読んだように……って誰でも同じことを考えてるかも。
「なっはっは、バレちった」
「もう、片淵さんったら。……でも、大丈夫ですよ、きっと。ちょっと怖いかもしれないですが、危ないアトラクションはないと思いますし」
あまりフォローになってないです、正木さん。
兎にも角にも、私の脳は「あわわわ……」と震え声を上げていた。やっぱり0%って別格なんだ。
5/14 修正
アトラクションの場所の名前が何故か「B-99」のところと「Z-99」のところがあったので「Z-99」に統一しました。
思いつきで書くとこういうのがあるのでいかんですね……。
それではまた。




