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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あなたの命はあと何秒?

作者: うどん

「突然ですが皆様には今から転生をしてもらいます。」


突如よくわからない空間にで俺を含めた顔を合わせたことも無い大量の人たちの前で、

何処かの映画で聞いたような台詞の物まねのような言い方をして、

得体のしれない胡散臭い笑いの男が話し始めたのは荒唐無稽な話だった。


荒唐無稽と言えば今この空間も、

今ここにいつの間にかたくさん集まっている下は小学生、

上は自分の2本の足で立つのも困難なご老人。


何故ここにいるのか、なぜここに集められたのか、

その全てが荒唐無稽だ。


「質問していいか。」


俺と同じように集められた男の一人が声を上げる。


「少しDA☆MA☆RE。」



声を上げた男はいきなりこの空間から消えてしまった。

騒ぎ立つ周りの人間達。

もしくは呆然としたり震えだす人もいる。


かくいう俺も呆然としているクチだ。


「お前達もDA☆MA☆RE。」



更に騒いでいた数人が消えた。

会場は静まり返る。

その静寂が嫌になったのか男が再び喋り出す。


「皆さんご心配なく。

今、消えた人達は皆さんより早く転生してもらっただけです。

大丈夫です何も問題はありませんノープロブレムモーマンタイ。」


とても不安になる言い方だが、既に不安だらけで、

それを不安に思う余裕なんてもはやここにいる人たちには無い。

勿論俺にもない。



「と☆こ☆ろ☆で、

どのような世界に転生するのか不思議な方も多いでしょう。

というか、転生って何?

って人、いますよねー。

いますよねー、

いますよねー……ってゆーか反応悪いと、ムカついちゃうよ?」


流石に消されてはたまらないので、

皆うんうんと頷いている。


「では、ご説明してあげますよ~。

転生ってゆーのはつまり生まれ変わることです。

ついでに言えば、皆さんは今回生まれ変わるのは、

蜂やミミズではありません、人間だよ。

やったね?

やったね?

…ねえ、やったね?」



機嫌を損ねないように皆少し嬉しそうな顔をしようとしている。

その表情が気に入ったのか、

その表情を作ろうとしていることが気に入ったのかはわからないけれど、

男は再びにこやかに話し始めた。



「そして、この転生の後のことについてご説明します。

転生する世界についてですが、

巷ではファンタジーな世界に転生するお話がどうも流行っているようです。

勇者とか天使とか魔王とか、

現実を見つめられない人っていやですね~。」


この状況が既にファンタジーに片足を突っ込んでいることは、

男が恐いので誰も口にはしない。



「あぁ、安心してください。

皆さんが転生する先は元の世界、

つまり現実の世界です。

魔法もモンスターも無い、

お金や、学歴が大事な皆さんもよく知っているあの世界です。


そして――――――ここからが大事な話です。

皆さんの寿命は、あとだいたい一週間です。

生き返っただけも儲けもの。

更に1週間のロスタイムですよ。」


周囲が再び騒ぎ出しては再び何人か消え去っては再び静かになった。



「大事な話は聞いててくださいよ~。

で、す、が、私達も鬼じゃありませ~ん。

どっちかと言うと神です。

なんと、元の世界で人を殺せばあなた方の寿命が1日伸びます。

更に殺すための凶器は出現させたり消したり自由な包丁も付けちゃいます。

更に更に、寿命のストックが6日以上ある人は、

ある例外を除いて、死ぬことも掴まることもありませ~ん。

けれどもここで死んでしまった場合、

次はあなた達はここにはきません。完全に死にます。」


恐ろしい話だが、消されるのが恐いのか、誰ももう喋らない。


「そしてその例外は、自殺した場合、自首した場合、

そして、あなた方の誰かによって他のここに集まった方が殺された場合。

ちなみにこのことを先に向こうに行った人たちに言わないで下さいね。

あなた達だけへのせっかくのさあびすなんですから。

じゃないと、

―――――――――消しますよ?」


初めて見せる笑い顔ではない表情に周囲が凍りつく。






そんな、夢を見ていた気がする。

気が付いたら家にいた。

というか自分の寝室にいた。


俺の家族構成は妻一人、

クワガタ1匹。

子供はまだいない。鋭意制作中だ。

暫く待ってほしい。



ふと机の上を見ると、

御飯と味噌汁と書置きがあった。


『冷蔵庫には昨日のカレーもあります。

福神漬けはありません。

出しっぱなしにしていた物はかたづけました。

帰るまで良い子にしていてね。


P.S. あなたのすきなあの500円のケーキを買って帰ります。』



…俺は子供か。

完全に子ども扱いな書置きを眺めながら、

飯を食べる。

ふとテレビを付けた。


ニュースをやっていた。


テロップは、『大量殺人事件多発。犯人は全くの不明。』


キャスターが喚いている。

「大変です大量殺人犯が大量に出ています。

もう意味が分かりません。犯人もわかりません。

その場にいた誰も犯人には勝てずに殺されました。」



キャスターと警察の無能と、世の乱れを嘆きたくなるニュースだ。

一体なぜ人は人を殺めてしまうのだろう。



……

…………

……………………



心当たりが酷くある。

まさか、アレは夢じゃ、ないのか?

あの夢が実際にあったことで俺は後たった7日で死ぬのか。


だが、俺は人殺しはしたくない。

妻を残して逝くのは嫌だが、

妻を犯罪者の夫にはしたくないし、

それに子供もまだいない。

そして一番の理由は、俺は妻に十分生きる楽しみを教えてもらった。


どうしようもない親にも神様にも見捨てられた屑野郎の俺を、

世間知らずなりに一生懸命手を引っ張って更正させてくれた。

大人にしてくれた。無論、色んな意味で。


まあ、夫婦だし、やることぐらいはしっかりやってるさ。

愛し合って誓い合った仲なんだし。






そんな気持ちが続いていたのは、

キャスターがある一文を読み上げるまでだった。



「産婦人科でまた大量殺人事件が起きました。

被害者は、△△ △△さん、◇◇歳、

○○ ××さん、□□歳、――――――――」


…妻の名前だった。

続きをキャスターが喋ってはいるが、

聞こえてこない。

不思議と何を言っているかがわからない。

まるで外国語の様だ。




おいおいおい、

嘘だろ?

何だよ、見間違い聞き間違いの類だよな?

それか同姓同名の可哀想な誰かだ。


そう思っていた。

そう思いたかった。



だがそれは一本の電話に無情にも裏切られる、

「もしもし、○○さんの御宅ですか?」


「はい、確かに○○ ●●ですが…、何か御用ですか?」



「あの、●●さん、こちら警察の◎◎署ものですが、

非常にお伝えしにくいのですが、

奥さんの××さんが、お亡くなりになりました。

つきましては御遺体のご確認を―――――」





ガチャ。



つい電話を切ってしまった。


なんだよ、

おいなんだよ、

一体あいつが何したんだよ。


あいつは何一つ悪い事はしてねえし、

今日だって味噌汁を作ってくれた。


それが産婦人科にあそこにいた奴の一人がいたってだけで、

それだけで……くそっ。


産婦人科……、

子供が、出来ていたのか?

それとも不妊の原因が自分にあると思って一人で診察に行ったのか?

俺に相談してくれていれば…。


俺がそこに一緒にいれば、

…そうだよ、他の誰でもない、

あそこにいた俺なら犯人を殺せた。

無敵で絶対に掴まらない犯人を殺せた。


俺が…、そこにいれば……。





プルルルルルル


また、今時珍しくなってきた置き型の電話が鳴る。

どうせ警察だろう。さっき勝手に切ったからな。

俺なんかにかけてくる暇があったら犯人を捕まえてとっとと縛り首にしてくれ。


まあ、無駄なんだろうな。







その日から俺の犯人探しは始まった。

簡単な事だ。あの時いた奴がいたら絶対に殺す。

関係ない人には絶対に殺さない。

俺はそんな殺人犯になる。


今は警察が凶器を持つ人間を探しているが関係ない。


アイツらも、俺も、凶器なんて絶対に見つからない。




けれど、いざ犯人を捜すとなかなか見つからなかった。

あの時にあの場所にいた奴ではっきり思い出せるのなんかほんの数人。

そしてこの周りにいる人間はもっともっと多い。


後6日、



後5日、



後4日、




着々と日が過ぎていく。




後3日、



後2日…。

だんだん死ぬのが恐くなってきた。

今頭をよぎっているのも、妻の事でもなく、

犯人の事でもない。

自分があと2日で死ぬという事だ。


死ぬのは怖い。

…どうせバレることはないんだ。

罰せられることも無い。

他の奴らがやってる様に俺もやってしまっても、

罰は当たらないだろう。



相手はどうしようか。

あの、老い先短そうな老人にしようか、

それともあの独り身のような男にしようか?


なんだったら、ヤクザやチンピラみたいな犯罪者を殺して、

治安に貢献してもいいかもしれない。

昔有名な週刊誌の漫画で映画になったやつでそんな主人公もいた。


だが、いざとなると殺せない。

この日は包丁を服の中で出したり消したりする無駄な事ばかりを続けていた。





なんとなくテレビを付けた。

また、ニュースをやっていた。


テロップは、『大量殺人犯立てこもり中』


またキャスターが喚いている。

「大変です大量殺人犯が立てこもっています。

既に警官が周囲を包囲しています。

犯人は、おれ達は変な奴に人を殺さないと殺されるんだ、

脅されてるんだ。とわけのわからない事を叫んでおり―――――――

あっ、今、警官隊が突撃しました。

発砲音も聞こえています。」


予想通り犯人は死んでいた。

死因はきっと秘密を洩らしたからなのだろう。

俺は死にたくない。





あと1日。

最後の日だった。


死にたくない。

ああ死にたくない。


死にたくないならどうする?

殺すしかないだろう。


俺に、人が殺せるのか?

殺せるさ、自分が生き残るためだ。

正当防衛だとか緊急避難だったりとか言うようなやつだ。



だが、結局この日の昼も何もできなかった。

人が疎らに歩く近所の公園でさっき買ったコートの中で、

包丁を出したり消したりしていただけだ。



夜になった。

もうすぐ俺は死ぬのか、

怖い。怖い、コワイ…。

死にたくなんかない。




そう思いながら特に見る気も無いテレビを付けていると、



また、ニュースをやっていた。


テロップは、『大量死亡事故多発。関連性は全くの不明。』


またキャスターが喚いている。

「大変です大量死亡事故が大量に出ています。

もう意味が分かりません。原因もわかりません。

その場にいた他の誰も巻き込まれず、単独で死亡する事故が多発しています。

近くの誰も助けられませんでした。」


遂に、来たか。

俺の死もすぐそこに来ている。

誰かを殺さなきゃ。


そう思って外に出た。

夜の公園にはきっと誰もいない。

ある意味それを期待しながらもそれでも俺はそこに人を探していた。


結論から言うとそこに人は直ぐに見つかった。

小学生低学年くらいの女の子だった。


巷で言われる放置子、というやつだろうか?

こんな危ないご時世に、

親は何をしているのだろうか。

…俺が言えた義理ではないが。


「お嬢ちゃん、こんなに暗い時間まで遊んでいると危ないよ?」


どの口が言うかという位の呆れを自分に吐き捨てながら、

少女に警戒させないように話しかけながら近づいた。

その背中に包丁を隠し持ちながら。


「だって、わたししんぱいしてくれるひといないもん。」



可哀そうだ。

そう思う自分と、

誰も心配しない子供なら、その…、してしまっても、

いいんじゃないか。

どうせつかまらないんだ。


生きるために他の生き物を殺すのは当然じゃないのか?

スズメバチだってライオンだって他の生き物を殺して生きているじゃないか。

そうさ、そうに違いない。


そう、自分に言い聞かせる。


「それともおじちゃんがあそんでくれるの?」


ああいいよ、

思いっきり遊んで、後で親御さんの所に遅くなったことを誤りに行こう。


普段なら、普段なら…そう、言っていただろう。

だが今は、話せば話す程、彼女の存在を認めてしまう程、

殺しにくくなる。


少女はその沈黙を否定と受け取ったんだろう。

「…だよね、わたしいらないこだし。」



思わず叫んでしまった。

「違う、そうじゃない。

俺みたいな屑野郎にだって誰かの大切になれたんだ。

きっと君も誰かにとって大切なんだっっ!!」


「…ほんと?だったらおじちゃんにコレ分けてあげるからあそんで?」



物をあげて相手の気を惹く。

哀しい処世術だ。断じて小学生の少女が身につけていいものじゃない。

そう言う風な社会を大人が作るべきじゃない。


先程まで、

いや、今も彼女を殺そうとしている男が考えていい事ではなかった。

余りにも偽善的でおこがましい。



その、少女からのプレゼントを見るまでは、

彼女を確かに殺す気でいた。



そのプレゼントは、ワンコインで買える■■スイーツの人気ケーキ。

通称500円ケーキだった。

妻と俺が大好きだったものだ。



きっと妻が再び獣に成り下がろうとした俺を止めてくれたのだろう。

まだ人間でいさせてくれたのだろう。

妻とこの少女とケーキ屋に感謝したい。

人間でいさせてくれてありがとう、と。

俺はこの子を殺さない、と。


しかし俺の命は500円かよ。

やっすいな。美味いけど安いな。

500円で死ねるのかよ、俺。


そう思いながら、時計を見る。

日にちが変わるまで後数分。


それまでには俺は死ぬのだろう。




その時だった。

包丁を持った男が歩いてきていた。

間違いなくあの時一緒にいた奴だった。


どうみても男は大人の俺ではなく、

か弱い少女を狙っていた。

男が走りだす。


「危ないっっ。」



咄嗟に少女の前に立ちふさがった俺は、

腹部に猛烈な熱さと冷たさを感じた。

凶器は見なくても判る。


間違いなく包丁だ。

刺した男の前に俺も包丁を出して見せる。

向こうの世界に言った人間を殺せるのは同類だけだ。



それに気が付いたのか男は急いで逃げだした。


「誰がお前なんか殺すかよ馬鹿野郎。」





逃げた男と入れ替わりに少女が駆け寄ってきては何かを泣きながら叫んでいた。

俺も何を言っているかわからないがうわ言のように少女に何かを言っていた。

泣いている少女にはトラウマを作って悪いから、せめて誰かを愛して誰かに愛される人生を歩んでくれと言っておく。

人死にのショックの前では自己満足に過ぎないだろう。


人間として死ねて、俺は満足だ。

俺は長引く痛みから逃げる為、最後の止めを自分でさした。















胡散臭い男は何処かで笑う。


あー今回もおかしかった。

それにしても最後の最後で自殺した男は面白かったな。

どうせ死ぬなら最後じゃなくてもいいのにとは思うけど、

よくよく考えてみれば、

あれであの男を自分で殺したと思った犯人が、

残り寿命計算間違えて、結局事故で死んで奥さんの仇も取れたわけだし、

これも一つのハッピーエンドってやつかな?



ああそうそう、この神々の遊びに巻き込まれる人選は完全にランダムです。

次は、あなたをお呼びするかも知れませんよ?

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