特防戦隊アースソルジャー 学の戦いの始まり
私の作品を既に読んでくれた人には、見覚えのある名前がちらほらあるかもだけど、どうか気にしないでね(^_^;)
ある夏の終わりに、僕はあれと出会った。
僕は夏休みに友達の家に泊まり掛けで遊びに行った。
少し遠くに住んでいる友達で、そこそこお金持ちらしく、僕の送り迎えもしてくれた。
友達、といっても、別に一緒に遊ぶほど仲がいい訳でもない。元々、クラスの中では目立つ方でもなかったし、他の人より少し多く話しているかなって程度の仲だ。
「学くん、夏休み、僕の家に来ない?」
だから、普段は喋りすらしないその子からそんな誘いを受けたことに驚いた。
僕は誘いを快諾した。夏休みに特にこれといった予定もなかったし、家にこもって1日中ゲーム、というのもつまらないと思ったからだ。
さて、その子の家についてだが、いや、広い広い。一戸建ての僕の家なんか10戸は入るんじゃないかってくらい。
庭も広い。公園じゃ済まない。遊園地が2つは入るんじゃないか。
僕は先程[そこそこお金持ち]と言ったけれど、訂正しよう。[大金持ち]だ。
「学くん、来てくれて嬉しいよ」
その子があまりの広さに唖然としている僕を出迎えてくれた。
「ああ、こっちこそ……こんなに広いとは思ってなかったよ。招いてくれてありがとう」
「ははは、みんな家に来ると広いって驚くよ」
その子とは他愛のないやりとりをした。学校にいる時より多く話した気がする。
学校にいる時より、その子は少し明るい気がした。だから、話しやすかった。
僕は夏休みの間中その家にいることにした。家に帰っても、親は仕事でいないし、祖父母は一緒に住んでいない。こっちにいる方が断然楽しい。
毎日その子の家の中を歩き回るのも楽しかった。何か探検でもしているみたいだった。
その子とも仲良くなったし、退屈なことは何一つなかった。
そんなこんなで10日くらい過ぎた頃だったか。僕は、家の裏手にある古い建造物の中に入った。
家という訳ではなさそうだ。屋根はついているけれど、壁がない。ただ、家同様広く、その真ん中辺りにちょこんと白い箱があった。それの番をしているかのように、人の形をした石像が聳え立っている。
石像は物々しい槍を持っていた。蔦が巻きついたような凝った装飾をしている。刃の部分は大きく、大人の顔くらいの大きさだった。石像だから動きはしないし、刃に殺傷能力はないだろうが、ちょっと怖い。
しかしながら、それでもその前にある箱の中身が気になってしまうというのは、子供らしい好奇心というか、男のロマンというか……とにかく、僕は近づいて箱を覗き込んだ。
「あ、蓋」
何もない、と思ったら、蓋を開けていないという凡ミスをしていた。大人1人が余裕で入りそうな箱だったが、意外と蓋はかる
「開けるな!」
突然、低く、大きな声がした。驚いて蓋を取り落とす。
「だ、誰……?」
僕は辺りをきょろきょろ見回した。誰もいない。
「私はその箱の番をしている。お前の目の前におろう」
「えっ、まさか……」
石像を見た。目が合う。すると、石像の首が縦に動いた。僕の認識が間違っていなければ、頷いている……
「え、ええっ!?」
「お前は何者だ」
いや、そっちが何者だよ!?……と突っ込みたい衝動を堪えて答える。
「僕は、緑川 学。友達の家に遊びに来てて、たまたまここを見つけた。あなたは?」
「私はその箱の番をしている者。名は特にない。人は我々をソルジャーと呼ぶが、好きに呼べ」
「じゃあ、ソルで」
戦士とはまたお誂え向けな。
僕の安直なネーミングにソルは何も言わなかった。本当に何でもいいらしい。
「ところでソル、さっき箱を開けるなって言ってたけど、中身は何なの?」
「種子だ。この地を守るアースソルジャーの力となる」
「アースソルジャー?この地を守る?どういうこと?」
急にわからない展開になってきた。
ソルは答える。
「うむ……まあ、箱に手をかけることのできたお前になら教えてもよかろう。ただし、他の者に話すでないぞ?」
「うん、もちろん」
「では、話そう……」
ソルの話を要約するとこうだ。
この自然豊かな美しい地球を、悪の組織、メガバンクというのが狙っているらしい。
過去にも実はメガバンクが襲来していて、ソルは他の仲間とそれを退けた。
しかしその戦いで力の多くを失ったソルジャーたちは残った力を5つの種の形の結晶にして、後世に現れるであろうアースソルジャーの為に残したのだという……
「つまり、メガバンクがまた来て、その時に現れる筈のソルジャーたちへの贈り物をソルが守ってるってこと?」
「その通りだ」
ソルが頷く。みしみしという音がする。
「……もしかしたら、お前のような者がアースソルジャーなのかもな」
「突然何を言うんだよ?ソル」
「今までこの箱にここまで近づいた者はいない。無論、私が守っているからというのもあるが、箱自体が人を選ぶのだ。多くの侵入者は箱が拒んできた。なのにお前はここまで来て、箱に触れることすらやってのけた。だからだ」
僕はソルの言葉に苦笑いで答えた。
「そういうの、がらじゃないよ」
そう言ってその日はソルと別れた。
夜、裏手のあの建物について訊いた。するとその子は嬉しそうに言った。
「もしかして、学くんも会った?」
「会ったって?」
「ソルジャーに」
僕は驚いた。
「ってことは、君も会ったの?」
「うん。ボクは……秘密」
「ええ?なんだよ、それ」
しかし、その子と共通の話題ができて、ますます楽しくなってきた。
「まさか、あの子がミリィだったとは」
大人になった僕は、ソルが言った通り、アースソルジャーの一員になっていた。
あの時の友達は、アースソルジャーたちを導く妖精のミリィだった。
「ふふふっ、学くん、驚いたでしょ?学くんって動揺することがあんまりないから、本当はボクがあの建物に連れて行ってびっくりさせようと思っていたのに、先に見つけちゃうんだもん」
「はは……でも、懐かしいな」
…………。
「よくできてるじゃないか、優。僕より演技上手いんじゃない?」
そう言ったのは、俺の兄貴で俳優の金田 秀。
俺はテレビのスイッチを切る。今は兄貴の出ている特撮ヒーローもの「特防戦隊アースソルジャー」のとある一話。兄貴演じるグリーンソルジャーこと緑川 学がアースソルジャーになるに至った経緯を語っているところだった。
「金田くん、すごい!演技も上手いんだね!」
一緒に見ていた同級生の藤原が手を叩く。
……というのも、回想シーンで学の子供時代を俺が演じていたのだ。
「……でも、本当に俺でよかったのか?子役なんてごまんといるだろうに」
「んー、よかったんじゃない?監督も他のみんなも気にいってたよ」
「……はあ」
どこがよかったのかねぇ、と思いつつ、俺は再びテレビをつけた。ビデオなので続きを見る。
「今日も天気がいいな」
外に出て、僕は日差しの眩しさに目を細めた。
「そうだね……ボク、太陽は苦手……」
その子はぶかぶかの麦わら帽子をこれでもかというくらいまで目深に被る。ほとんど顔が隠れてしまっているけれど、大丈夫だろうか。
「……でも、もしかしたら、この天気……」
「ん?まさか、メガバンクが襲来するとか、そんなことじゃないよね?」
「いや、まさしくその通り」
「ええっ!?」
メガバンクは地球の豊かな自然を奪い、地球を枯らしてしまおうとしているのだ。そのため、強烈なG波という日照りをもたらす波動を放っているらしい。
「そいつらが来たら……一体どうすれば……」
「決まってるだろ。戦うんだよ!」
その子はきっぱり言った。
「た、戦うって……一体、どうやってさ?」
「アースソルジャーになるんだ!残念ながらボクはなれないけど、キミならきっと強い戦士になれる!」
力いっぱい言われても……
まあ、その時は僕はその話をさらっと流した。本当にメガバンクがくるなんて思っていなかったから。
夏も終わりだというのに、全く涼しくならない。
夏休みが終わって1ヶ月が経ったのに、太陽は元気だ。同級生はみんなぐったりしている。
おかしい。
そう思い始めた僕のところにあの子がやってきた。
「今日も暑いね……」
神妙な面持ちでその子は言った。
「僕、暑さ寒さは彼岸までって聞いたんだけど、あれって嘘だったのかな……」
彼岸なんてもう過ぎた。
「いいや。これは間違いなく……」
その時
「ふはははは!我々はメガバンク!地球よ、我らは帰ってきた!」
スピーカーからそんな声が聞こえた。
「やっぱり……!」
その子は言うが、まだ本物のメガバンクと決まった訳じゃない。暑さで頭がいってしまった生徒の仕業という可能性もある。
しかし。
「ははは、ソルジャーよ、なんだ?今回は出て来ないのか?ふん、邪魔者がいないのはちょうどいい。うん百年前の雪辱を晴らしたいところだったが、地球を征服すれば同じこと!」
これはさすがに聞き逃せなかった。
「メガバンク……」
「とうとう現れたみたいだ。……学くん?」
僕はいてもたってもいられなくなった。
みんな、メガバンクが悪いやつだなんて知らない。だったら……
いや、僕に一体何ができる?僕はただの中学生だ。僕は……
「現れたな、メガバンク!」
その時、スピーカーから聞き覚えのある声がした。
「ソル……!」
みしみしと音がする。その方向に行くと、石像のソルが怪人と向かい合っていた。
「む、貴様は……あの忌々しいソルジャーの」
「この地球をお前たちの好きにはさせない!」
「はっ、笑わせてくれる!そんな石の体で我々に勝てると思っているのか!」
ソルと怪人の戦いが始まった。ソルはあの物々しい槍で攻撃する。怪人はそれをすんなり避け、ソルにビームを放つ。ソルは避けきれず、胴を撃ち抜かれてしまう。
「ソル!!」
「はっ、他愛もない。時が経って耄碌したか。これならば、地球の征服など容易い」
怪人が笑う側で、僕に気づいたソルの口が微かに動いた。
たねをよべ、と。
僕は決意した。そしてーー
「種よ、僕に力をーーあいつを倒すための……ソルを助けるための力を!!」
「僕はあの時、力を背負いきれなくて、でもなんとかあの怪人に[ソルジャークラッシュ]を撃ったんだ」
「無茶をしたよ、学は。でも、あの時からグリーンソルジャーになったんだ」
…………。
ソルジャークラッシュとは、アースソルジャー最大の必殺技である。アースソルジャーたちの地球を思う力をありったけ込めた一撃は、メガバンクのG波を打ち消し、恵みの雨と緑をもたらす。
「よく考えると学ってすごいな。中学生なのに1人でソルジャークラッシュ撃ったんだぜ?」
「うん、すごいよね。私達と同い年ででしょ?」
「現実にこんな中学生いないよ」
「そんなことないよ」
俺の台詞に藤原が返した。そっと俺の右目に手を触れる。
「目が見えなくなってまで、女の子を守ってくれたヒーローが、ここにいるよ」
て、照れるじゃないか……
これはただののろけ話だったのかって?
……ほっとけ!
「学はそんな頃からグリーンソルジャーだったんだ……」
ピンクソルジャーが学の話を聞き、呟いた。
「ごめんな、学。俺達、迷惑かけてばっかで……」
グリーンソルジャーの話を聞き、アースソルジャーの面々はしょんぼりした。しかし、学は静かに答えた。
「気にしなくていい。僕だって君たちに助けられてる」
学は微笑んでいた。
「僕らは5人でアースソルジャーだ」
感想、お待ちしていますm(_ _)m