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闇を背負う者、破壊を有す  作者: 松佐
破壊の使徒
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破壊の使徒は初心に帰る

生徒であるフィルとリオンの二人に保護(?)された魔法科攻撃魔法系闇属性の担当教員の独身三十歳女性は一昨年・去年と闇属性の生徒がおらず、暇を持て余しおり、思いつきで怪しげな格好をして怪しげな研究を開始したが、研究に夢中になりすぎて背後から迫り来る人間には絶対に必要不可欠な自称を無視し続けた故に起こる身体の不調に気づかなかった。


研究に夢中になっていた独身三十歳(笑)はそのまま空腹と寝不足のため倒れ、以来ずっと人型の物体として数ヶ月間、逞しく生命活動を繋いできたそうだ。二人にしてみれば単純に馬鹿なんだな、この人という至極簡潔な認識なのだが、一方で生命を数ヶ月も維持し続けた人型の物体の生命力に素直な驚きを感じた。大多数の奥様方に敬遠され、時にはぷっちんと潰されてきた台所の悪魔、俗にいう(ゴキブリ)並みだと思われる。


それにも限界はあるようで、独身三十歳(中笑)は二人に自分を保健室か食堂に連れて行くことを要求した。二人は鬼でも畜生でもない。根は優しい良い子だ。色々な意味で不憫な独身三十歳(大笑)を闇でバクンとくわえ込み、ズルズルと引きずっていく。後ろで教師の扱いが雑過ぎると漏らす独身三十歳(爆笑)の言葉は無視し尚も引きずっていく。分かってほしい。根は優しい子達なのだ。


二人は鬼でも畜生でもなくただの鬼畜なのだから、分かってあげてほしい独身三十歳(失笑)の扱いはこれで問題ないのだ。魔法学園の教師という高給取りのくせにサボる人間ほどムカつく存在はそうそういない。大工さん達は独身三十歳の数倍の労働を日々こなすのに月収は魔法学園の教師の月収の半分にも満たない。不条理だよなぁと語った大工のあんちゃんの言葉で思わず熱いものがこみ上げてきたのを二人は思い出す。これは一種の贖罪だ。不条理だと言って、落下してきた木材の下敷きになってしまったあんちゃんへの、二人なりの贖罪なのだ。


この時、二人の思いは同じだった。見てるかい、あんちゃん。サボりの高給取りにバツを与えているよ、と。ちなみに大工のあんちゃんはちゃんと生きている。フィルがいたのだ、瀕死状態でも息があれば再生できる。あんちゃんは体の頑丈さが取り柄の人だったのもあってか割と軽傷だった。


とりあえず、食堂に駄目教師三十歳を放り込んだ後、一応野外学習の開始時集合場所に指定されている校舎裏側にある裏門前に集合する。裏にも昇降口があるが改造され依頼を受注する受付になっている。野外学習については学年を問わず、選択者が一堂に会する。


血気盛んなSクラスの九大公爵家に連なる坊ちゃん嬢ちゃんは全員いるようだ。他のクラスの生徒を見下す傲慢な態度と選民意識に濁りきった瞳は呆れを通り越し、いっその事哀れだ。力がなくあんな連中を恐れていた過去の自分が情けない。あれらは単なる小物だ。


授業の始まりを伝える鐘の音が響くと同時に我先にと受付に走り込むSクラスの生徒を滑稽だなと思いながら二人は落ち着いた態度で受付に群がる生徒が捌けるまでゆったりと待つ。上級生達は懐かしげにその光景を眺めている。過去の自分達と重なって見えて微笑ましいようだ。まるで競争であるかのように裏門から元気良く走り出ていく姿はまるっきり子供。彼らに大人の対応を求めても仕方がないのは火を見るより明らかだ。


ほとんどの新入生が裏門から外へ姿を消してから上級生は行動を開始する。その中にはフィルの姉であるミウラルネ・フェル・ヴァラレイの姿もあった。短く距離をおいて後に続く集団は取り巻きだろうと二人は推測した。ミウラルネは分家筋の当主を軒並み倒し次期ヴァラレイ家当主は確実と俄かに噂されている。さすがに現当主を倒すには至っていないが、それも遠い未来ではない。単純な魔力量なら現当主の比ではないのだから、後は積み重ねてきた経験の違いだけ。


ふとリオンはミウラルネ御一行から視線を外し、隣に無言で佇むフィルを伺う。それに気付いたフィルは柔らかく笑う。付き合いの長い故に友人が自分を心配していることが手に取るように分かった。


「大丈夫だ。あの人は攻撃の威力こそ高かったが頻度も少なかったし、何よりも血縁者の中で唯一優しくしてくれた人だからな」


だから、友人を心配させないように本心を語る。あの時のレイ・インパクトは強烈だったが、と一言付け加えるのも忘れない。あれのお陰でフィルは力に目覚めたのだ。あれのお陰でフィルは狂えたのだ。今の自分になれた要因を作ってくれた姉にフィルは感謝していた。


「なら、いいよ」


フィルの言葉に偽りがないと察したリオンは意識を切り替える。二人は上級生の邪魔にならない程度に人混みを掻き分けながら依頼用紙が大量に貼り付けられている掲示板の場所まで辿り付き、初心者用の薬草採集とその薬草の群生地に棲息する低級の害獣討伐の依頼を数個受注してペア申請を行った後、早速出かけた。二人の実力からするとピクニック気分で行ける地域だ。


ペアとは単純にチームや相棒といった意味合いである。そしてペア申請だが、主に二種類に分かれる。一つは臨時ペア申請、これはその時だけ一緒に依頼をこなすもの。もう一つは永続ペア申請、卒業まで依頼を一緒にこなすもの。要は期間がその時だけか卒業までかの違いだ。ちなみに二人は臨時の方だ。一人で受けたい時もある。永続の方は面倒なことにペアと一緒ではないと依頼を受けられないのだ。徹底してると言えば聞こえはいいが、本当に面倒だ。


さて、二人が受けた依頼だが薬草採集が二つ、害獣討伐が三つだ。それぞれ薬草は十個ずつ、害獣は十体討伐が達成条件となる。害獣は何れも第十級で肝心の報酬は薬草採集が個数×十ギルと個数×百分の一単位、討伐は討伐数×十五ギルと討伐数×百分の一単位だ。そして卒業に必要な単位は五千単位だ。多いが学科の授業をちゃんと受ければ、三年間で二千単位になるので、選択授業で残りを稼げばいい。ちなみに学科授業による単位の取得について、どれだけ受けて何単位なのか基準を知る者は学園長を含め数人のデスクワーク専門の教師陣だけらしい。そして、給料はデスクワーク専門の教師陣と授業担当の教師陣を比べると管理職と平社員並みの差があるとかないとか。


生徒数が大体全学年で千を超える。全ての生徒の成績・授業の出欠や態度と言ったものを十数人で数値化する作業をするのだからデスクワーク専門の教師陣の給料の高さはむしろ正当かもしれない。仕事量は半端でないはずだ、と裏事情を赤裸々に脳内で語る二人であった。周囲が長閑過ぎてすることのない二人にとって、学園の裏事情を語るのは良い(?)暇潰しになった。本当になっているか定かでないが。


二人が目指すのはヤッキリ草原という長閑さ全開の草原だ。昼寝する場所としては最高とだけ記しておく。今回の依頼は共に下級レベルの冒険者や狩人がお世話になる下級回復薬の材料となるリッキ草とネク草の採集と第十級の害獣である野犬、大ネズミ、ゴブリンの討伐。二人からすれば冒険者に成り立てだった頃に数度受けた程度の依頼である。初心に帰る気分だった。



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