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闇を背負う者、破壊を有す  作者: 松佐
破壊の使徒
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破壊の使徒は学び舎へ


一閃、横薙ぎに振り切られた黒光りする禍々しさを漂わせた刀身を持つ東洋の島国伝統の工芸品であるところのいわゆる刀を模倣した魔力剣はフィルに対し鋭利な爪の切っ先を今にも振り下ろそうと両手を大きく掲げた大熊のがら空きとなった腹部を切り開く。生暖かい血潮が噴水のごとく噴き上がり、フィルの着用している一般的な旅人の外套を真っ赤に染め上げる。


大熊と一言で切って捨てたが、その実態は人間に危害を加える害獣認定された血赤の大熊〈ブラッディー・ベア〉という八段階ある危険度指標中、第四級にカテゴリーされる怪物だ。何の特徴もない平凡な村程度なら一個体のみで壊滅させられる戦力を保有している。


通常では害獣討伐を主な職とする冒険者または狩人の中堅レベルの者達が十人以上での対応を余儀なくされる難敵である。討伐報酬はそれ相応に高額だが、自らの命と報酬を天秤に懸けてさえも討伐を目指すほどのものでもない。上級レベルなら多少苦戦すれども危険なく討伐できる程度である。しかし、上級レベルならもっと割の良い討伐対象相手を狩るので、最近は討伐数がめっきりと減り、個体数に増加傾向が見られる厄介な害獣として過疎化の進んだ山村や保有戦力に不安のある村などの住民を恐怖に震え上がらせている張本人だ。人ではないため、張本人という表現はいまいちしっくりこないが。


先に述べておくとフィルは別に討伐依頼を受注したわけではない。危急の用があり、王都へ向かう途中で遭遇しただけだ。普通なら絶体絶命のアクシデントに発展しても可笑しくない。箱庭からの脱走を企て、実行してから早八年。十六歳になったフィルは昔の自分を思い出して失笑を漏らした。なんとも情けのない幼少期だった。まあ、力のない八歳時には荷が勝ちすぎるたと思い直す。自分は本当に変わったと変われたと狂いに狂ったままの十六歳のフィルは笑う。


ひとしきり笑ったフィルは魔力剣を霧散させ手馴れた動作で腰のベルトに隙間に差し込んだ剥ぎ取り用のナイフを抜き出し、未だに血を噴き上げる血赤の大熊の成れの果てから手早く換金できる部位を切り取る。血赤の大熊は強さが肉の美味さに比例するなんて認識があるほど、その肉は旨味成分のみを濃縮した高級食材として知られる。


慎ましく暮らせば売れば五ヶ月は働かないで済む値になる。もっとも、やはり上級レベルの者が狩る害獣よりも儲けは少ない。ところで。血赤の大熊を一刀で仕留めた魔力剣とは何なのか説明する。魔力剣とは読んで字のごとく魔力で形成された剣である。


切れ味・強度・硬度・付属効果などの要素は使用者の魔力を一点に収束する技術と明確にイメージする思考力、魔力をどれだけ上手く属性変換できるかに比例する。形成工程はまず、魔力を属性変換し望みの属性へと変える。そして、変換後の魔力を体外に放出、一点に収束させ、イメージにより形を一気に纏め上げる、大まかにこの三工程。


付属効果については変換した属性により異なる。例えば、火属性なら火を刀身に纏った剣になるわけでフィルの場合は当然、破壊属性だ。彼の魔力剣は下手をすると掠るだけで致命傷になりかねない物騒極まりない効果を保持している。


それはともかく、フィルは急いでいた。現在時刻は凡そ午前九時、彼は王都の高等魔法学園に午後二時までに到着する必要があった。今日はなんと、入学式なのだ。フィルは入学式当日だというのにギリギリまで冒険者及び狩人に依頼を斡旋する仲介屋的な面が大きいギルドという組織からの直接的な依頼で王都から遠く離れた国の端にいた。入学式当日に何やってんだという突っ込みは控えて欲しい。彼にも依頼を断れない理由があったって体で納得してほしい。


それにフィルには入学式に間に合う確信があった。幼少期は生死を分ける追いかけっこを生き抜いた走ることに関しては世界屈指だ。王都まで走り続けるなんて造作もない。驚くべき持久力と走力だが、それを培った背景が年齢の割にえぐい。あまり触れるべきではない。


そんなこんなで時に商団を襲撃中の盗賊を壊滅させ、時に迷子の子供を村まで送り届けながら、走り続けたフィルは見事、入学式に間に合った。余裕でと頭につくが。


フィルが入学するのは魔法大国の誇る世界屈指の高等魔法学園で大陸中の国々から多種多様な人種・種族の者共が集結する偏った見方であれば、ある意味魔窟であり、どうでもいいが全寮制である。入学式当日は手続きなどの関係で寮は使用不可のため、それなりの値がする宿で部屋を取り、フィルは事前購入済みの制服を羽織る。着るではなく羽織るだ。


この世界屈指の高等魔法学園では学園指定のローブさえ羽織っていれば、ローブの下は何でもいい。過半数の生徒が志望学科に適する服装だ。まあ一応なのか上下とも白のブレザーとズボンという組み合わせの制服もある。学園においての制服はローブか上下白のブレザー&ズボンの組み合わせの二通りだ。学科については魔法科一択と思われがちの学園だが、魔法科・剣士科・騎士科・創具科などがあり、それぞれの学科でも多様な選択肢が存在している。例を挙げると、魔法科は主に攻撃魔法・防御魔法・付与魔法など生徒が得意な系統の魔法を習えるようになっている。得意な分野は個々で違うのだから、当然だ。


けれど、伊達に高等魔法学園と銘打っているわけではない。剣士科や騎士科などの学科でも魔法及び魔力を併用した戦い方を学ぶ。フィルの魔力剣がいい例だ。物理戦闘でも魔法を絡めれば、それだけで攻撃力や防御力が飛躍的に上昇するのだから。


フィルはというと一応は魔法科の攻撃魔法志望だ。ここ数年で努力を重ねたフィルは新たに闇属性を行使できるようになった。破壊や再生の属性は効果だけ見ればほかの属性など比較にならず、圧倒的な力で捩じ伏せるにはぴったりであるものの、応用性に欠けるのだ。


フィルは今日からスタートする新たな生活への期待を胸に抱いて、入学式に臨む。若干、面倒くさがりなフィルは上下白のブレザーとズボンを着用していた。極細の繊維と繊維の隙間に破壊と再生の魔力を張り巡らせ、擬似的な鎧化する程度には面倒くさがりではないが。


結局、流麗な黒く長い髪を背で束ねた灼眼の少年は暇過ぎて入学式を学園長の挨拶を除いて眠り過ごしていた。それを咎める生徒はいなかった。大半の新入生も寝ることを実行するか否かの些細な違いはあるが、ひどく眠気を誘われる入学式だった。陽気な天気に心地良い風が流れていく風通しの良い講堂内は昼寝に適した環境過ぎたし、疲れはないが仮にも王都まで走ってきたフィルは精神的には疲れていた。それも眠気をさらにひどくした要因である。何はともあれ、フィルは魔法学園の生徒となった。

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