仄暗き冷たさの中で、破壊は覚醒す
寒い寒い、暗い暗い、痛い痛い、寂しい寂しい、憎い憎い、そして恨めしい。神様、何故ですか?僕には何もない。人並みの幸せも人並みの喜びも人並みの生活も人並みの家族も何もかもがないんです。僕が何かしましたか?僕が人を不幸にしましたか?僕の存在が世界の理に反してでもいるんですか?ただ、寒くて暗くて痛くて寂しくて憎くて恨めしい。人並みでいいから、ほしい、ほしいよ、神様!!!幸せが喜びがほしいよ!!こんな苦しい世界は嫌だ。いっその事、僕を殺してくれればいいのに、こんなにも辛いのに、どうして僕を生かすんですか?どうして殺してくれないんですか?誰からも必要とされない僕なのに、取るに足らない存在なのに、惨めで無力なただの小僧なのに、どうして殺してくれない。僕が苦しむのが楽しい?僕が傷つくのが面白いの?もう嫌なんだ。こんな冷たい世界は嫌なんだ。こんな狂った世界は嫌なんだ。こんな狭い世界は嫌なんだ。広いようで狭いあの屋敷の敷地の中だけの世界なんて嫌なんだよ!!
それはフィルの、十歳にもならない少年の悲痛な訴えだ。仄暗く冷たい世界の中で彼は叫ぶ。そこは彼自身の精神世界なのかもしれなかった。精神世界はその人物の思い出や経験という名の絵の具で彩られる世界。しかし人間社会の負の部分にのみ接してきた代償、本来様々な色に彩られた明るい世界のはずが、彼のそれは影が落ちたように暗く暖かさの欠片もなかった。
殺してくれないのなら、お願いです。僕を助けてください。僕に救いをください。このまま生かされるなんてもう耐えられないから、お願いだから、助けてください。救ってください。
少年の叫びは運命の神には届かない。神により定められし個人の運命はその人物以外に改変できない。祈るだけでは駄目だ、願うだけでは駄目だ。運命の改変、それには強き意思がいる。強い強い意思が、その方向性は問われない。少年フィルの選択は同年代の子供のそれでは決してなかった。負のみを内包してきた結果、心に闇を負う少年は決意する。奮起する。けれど、既に遅いのだ。
助けても救ってもくれないなら、僕は壊す。全部全部、壊す。壊して壊して壊して壊して壊して壊し尽くす。あんな下衆どもの所為で僕の人生を棒に振るわされるなんて冗談じゃない。だからね、もういいよね。壊してもいいよね。僕は頑張ったから、我慢したから、いいよね。
とうの昔に少年は狂っていたのだから。もう遅いのだ。慟哭し続けた彼の魂はボロボロで狂わずにはいられなかったのだから。なればこそ、やはり彼には救いが必要だろう。かくして、フィルの意識は再び現実へと浮上していく。彼だけの力を、破壊と再生、表裏一体のその力を身に宿して。