序
遙か昔から、忘れた頃に現れる者。『日月の巫女』
日巫女は触れる者に生を与える。その額には丸い日輪の痣が、その力を発揮する時に浮き上がるという。日巫女の証は右の肩甲骨の、三角の翼の形をした痣。
月巫女は触れる者に死を与える。その額には下弦の月の痣が、その力を発揮する時に浮き上がるという。月巫女の証は左の肩甲骨の、三角の翼の形をした痣。
二人を合わせて日月の巫女と今は呼び慣わしている。日月の巫女とは本来、何であったのか今はもう、知る者はいない。
平和な国の王城の中。仲睦まじい王と王妃。
王妃は子を産んだ。女の子の双子。双子の背には、巫女の証の痣があった。
姉が日巫女。グレイスと名付けられる。つややかな黒髪と、人懐っこいすみれ色の瞳の明るい娘。
妹が月巫女。セフィと名付けられる。絹糸のような銀髪と、穏やかな淡いピンクの瞳の静かな娘。
二人は定めの通り、美しい森の奥の聖域、その神殿で育った。
生を与える日巫女は誰からも愛される。愛らしい笑顔、くるくると変わる表情、奔放で自由な心。
死を与える月巫女は、敬われつつ、遠ざけられる。物静かで、穏やか、優しい瞳は常に寂しげな笑みを浮かべている。
双子を生んだ国の国民は、日巫女をグレイス王女と呼び、親しんだ。月巫女は月姫と呼び慣わされた。