第216層 薬と嘘
この作品の作者は、文章表現が現時点でLv6/無限です。
様々な名称、場面が出てますが、作者は全てオリジナルだと思っています。
これから戦いに出向く2人を見送りに、街の水壁前では沢山の人が集まっていた。
「本当に行くのね」
ナトレは心配そうな面持ちで2人に言葉を掛けた。
「大丈夫だよ。どうにかしてここまで戻って来るから」
ミライは真剣な表情で答えた。
確かに色々な問題点はあるけど、そんな事に怯えて動かない訳にもいかない。
グラムを止めない限り、平和なんて訪れない。
「ミライもミチも、必ず戻ってきてね。必ず」
そう言うセーナの表情は強張ってる。
それとは対照的に、ミチの表情はどこか清々(すがすが)しい。
「私たちは大丈夫。作戦も立てたし、準備も万全だし」
ミチはこの状況でも笑顔は絶やさない。
そんなミチを見て、ナトレは安心して笑みを浮かべる。
「……とにかく、ミライはあの薬を服用しないと何も始まらないから、もう使ってしまいなさい。何か異変を感じたら、今すぐにでも行くのを諦めてもらうわよ」
「分かったよ。無理はしない」
ミライはそう答えて、掌に一錠のカプセル薬を出した。
その場にいる誰しもが、その薬に目を向ける。
……この薬を飲めば、最低3分は性別を女性に変えられる。
それがどんなふうに変化するかはわからない。
そしてどんな副作用が襲ってくるかもわからない。
……それでも使う。そう決めた。
皆のためにも、ミチのためにも、だ。
ミライは意を決して薬を素早く口の中に頬張った。
「ミライ、水」
「ありがとう」
ミチから水の入ったコップを受け取り、それをいっきに流し込んだ。
飲んですぐは……なんともない? そう思った次の瞬間だった。
「うぐっ……」
「ミライ!」
ミライはその場で蹲り、ミチ、セーナ、ナトレの声が被る。
体が……熱い。
いたるところが変わっていってるのだと思うが、熱りのせいか全く感覚がない。
「大丈夫。俺は……」
ミライは立ち上がるも、途中で言葉を詰まらせた。
声が瞬間的に高くなったのだ。
「……大丈夫。少し変な感覚だけど、なんとか耐えれる」
ミライは息を荒くしながらも、セーナとナトレの顔を見ながら口を動かした。
そんなミライを見て、セーナは眉を顰める。
「嘘つき。……どうなっても知らないんだから」
セーナの言葉にミライは苦笑いを浮かべる。
「まぁ、発熱だけ済んだならまだいいわよ。ほら、急がないといつ効力が消えるか分からないわよ」
ナトレは口元を吊り上げながら言った。
「……分かった。それじゃ、行ってくる」
「行ってきます」
ミチとミライはそう言って、水壁の方に振り向いた。
「行ってらっしゃい」
「ミライ、ミチをしっかり守ってよ」
ナトレとセーナの声に、ミライは片手を振って反応を返す。
街を囲む水壁。
以前と全く形の変わってないのに、効力は格段変化した。
本当に俺は通れるのだろうか。
ミライは少し表情を強張らせながらも、ゆっくりと水壁に向かって歩いていった。
そして、水壁に吸い込まれるように入って行った2人の姿は完全に見えなくなった。
「……行ってしまったわね」
「2人なら大丈夫だよ。きっと」
ナトレとセーナは2人の消えた水壁の箇所を見つめながら言葉を交わす。
大丈夫だと信じているセーナも、表情は少し曇っている。
「本当はあなたもついて行きたかったんじゃないの」
ナトレはセーナを横目に呟いた。
その言葉に、セーナは苦笑い。
「別にそんなことはないわ。今回は2人の問題だし、私仲間じゃないし」
「……あなたも嘘つきね。まぁ、2人を信じて待ちましょう」
ナトレはそう言葉を残して、その場から大人数を連れて水壁から離れていった。
ナトレは歩きながら、ある一人の女性に囁きを入れた。
「悪いけど、前みたいに2人の盗聴をお願い。……一応、念の為にね」
そんなナトレの言葉がセーナの耳にも入る。
「……ナトレだって嘘つきじゃない」
そうセーナは呟いて、水壁に背を向け歩き出すのだった。
今後の日程は活動報告で。