第207層 手抜き攻撃
この作品の作者は、文章表現が現時点でLv5/無限です。
様々な名称、場面が出てますが、作者は全てオリジナルだと思っています。
作品も作者も成長過程ですが、期待してください。
「ぜぇ……ぜぇ……。中々しぶといな……」
「それは……お互い様でしょ。……早く諦めて降参しなさいよ」
そうミチは、荒い呼吸の中で言葉を返した。
今戦闘が始まってから、どれ位の時がたったのだろう。
俺はものすごく長い戦いに感じるが、実際はまだほんの数分しか戦ってないのかもしれない。
でも一瞬一瞬が濃密すぎて、もう体も長く持ちそうにない。
俺の体力は残り3分の2を切り、後1,2撃のダメージで確実に負けてしまうだろう。
それに比べて向こう2人の体力は、まだ半分以上残っている。
言い訳では無いが、別に本気を出してダメージ5000ダメージ近くの魔法を放って、その10分の1のダメージを2人に与えるという戦いの終わらせ方もあった。
でも、それには一抹の不安があった。
「どうしたのミライ? どんどんダメージ量が減っているわよ?」
攻撃を受けたミチは、ステータスを確認しながら言う。
そのミチの挑発に近い言葉には、ミライは何も言わない。
だってミチの残り体力が減っているんだ。そりゃ、ダメージが減るのは仕方ないんだよ……。
「そんな事言って調子に乗っていると、あっという間に体力が無くなるぞ!」
そうミライは、言葉と共に火の玉をミチに向かって放つ。
ポピュラーな大きさの魔法の炎だが、この火の玉は……スピードを瞬時に変えられる。
途中まで空中に漂っていた火の玉は、急激に加速し、ミチに向かう。
「……うそっ!」
余裕を見せていたミチの表情が固まった。
火の玉の急な高速化に戸惑うミチと火の玉の間に、セーナが割り込む。
「ミライの攻撃の見た目に騙されたら駄目よ!」
そうセーナは言って、ミライの攻撃を素手で受け止めた。
……なぜ剣ではなく、素手で受け止めた?
そう思う中、セーナは自分のステータスを確認した後、何か不満そうにこちらを見つめる。
「……ねぇミライ。本当にそれで本気なの?」
如何わしい物を見るかのような目つきにミライは思わず苦笑い。
……流石にセーナにはばれてしまったか?
「それは、俺にだって行動範囲の限界はある。ダメージを受けるときは受けるさ」
ミライは様子見で言葉を返す。
「違う! 私が言ってるのは、ミライが私たちに対する攻撃で手を抜いてると言うことよ!」
「セーナ、それは一体……どういう事?」
セーナの言葉にミチは思わず聞き返した。
観戦者達もざわつき始める。
……これは完全にばれてるな。
セーナはともかく、対人戦を好むミチや、ナトレにばれるのはまずい……。
「ミライは私たちの体力を……」
セーナが声を張り上げて説明しようとした、その時だった。
ミライは瞬時にミチの目の前まで移動して、ミチの持つ2本の短剣を箒の柄で弾き飛ばした。
「えっ、そんな……」
驚きの声を上げるミチの手を取り、ミライは再び瞬間移動をする。
瞬間移動先はセーナの目の前。
ミライはセーナの刀剣も、ミチの短剣と同様に弾く。
そして、2人に反撃の隙を与えることなく、ミライは2人を腕ごと強く抱きしめた。
ミライの行動に、ミチは頬を少し染める。
「ちょっと……突然なに?」
「は、離しなさいよ!」
そうセーナはもがくが、ミライの手が2人から解けることはない。
ミライは抱きしめた格好のまま、2人を地面に押したおした。
「きゃっ!」
「悪いな、こうでもしないと逃げられるからな。魔術反射!」
そうミライが叫ぶと、3人が転がる地面から湧き出すように半透明の床が現れ、見る見るうちに縦に伸びていった。
そして気が付けば、ナトレや観戦者が見えなくなるほどの高さにまで達していた。
「バリア! バリアバリアバリアバリア!」
さらにミライは半透明の壁と天井を作り出し、完全2人を閉じ込めた。
そこで初めてミライは2人を自分の腕の中から解放した。
「ちょっと、これは一体どういうつもり?」
セーナはその場で立ち上がり、壁越しに下の方を見ながら言った。
ミライは自分の作りだした床に座り、口を動かし始める。
「いやね、少し休戦して話でもしようかと。……戦いに疑問を持った人もいるようだしね」
そう言ってミライはセーナを見つめる。
セーナは少しツンとした表情を残しながらも、座るミチの隣に腰を下ろした。
「それで、セーナの言っていた言葉の意味は?」
ミチはその場にいる人すべてに問いかけるように言った。
その言葉の返答は、セーナが不満げに返した。
「……言葉のとおりよ。ミライは私たちの残り体力を見ながらダメージを与えていた。一撃で倒そうと思えば倒せるのに、遊び半分でこいつは手を抜いてたのよ!」
「……あってるけど、少し語弊があるぞ」
とうとうセーナにこいつ呼ばわりされるまでに至ってしまった。
なぜ俺が一撃で倒さないかの真意までは分かってないようだな。
セーナの言葉の後、ミチの表情も少し複雑になってしまった。
「だったら、納得いくまで説明しなさいよ!」
セーナは怒りの沸点がギリギリのラインまで来ているようだ。
それだけ俺との戦闘を待望していたんだろうか。
「分かった。分かったけど、一つだけ話す前に頼みがある」
「負けを認めてくれ、とかだったらお断りよ」
「それでも良いんだが……まずは、その……穴だらけの服を着替えてくれないか……」
そうミライは指摘をした後、目線を大きく2人からそらした。
ミチとセーナは、自分の姿をまじまじと見つめ、顔を真っ赤にする。
……戦闘の途中から、ずっと2人の服のことを気にしていた。
こちらの攻撃の手数が多くなった分だけ、2人の服も破れたり燃えたりした。
そして気が付けば、ちらちら2人の肌や下着の部分が見えて、冷や冷やしていた。
……今回は観戦者も沢山いたし、男の姿もちらほら見えたから、どうしても服からの露出だけは何とかして欲しかった。
そんな思いを抱きながらミライは2人の返答を待つと、思わぬ言葉がミチから返ってきた。
「ふふん。ミライの話が終わったら着替えてもいいわよ」
「……そう来たか。……分かったよ」
2人には戦闘で勝てても、思考や言動には勝てないな……。
そう思いながら、ミライは自分の考えを2人に主張し始めるのだった。
引き伸ばしに引き伸ばして、次回ついに! ミライの戦闘行動の真意が明かされる!
ついでに、長きに渡る戦いも終わればいいな。
……戦闘なんてついでです。