第2層 騙されましてようこそ
この作品の作者は、文章表現が現時点でLv1/無限です。
様々な名称、場面が出てますが、作者は全てオリジナルだと思っています。
作品も作者も成長過程ですので、あまり期待はしないでください。
僕は横穴内部の壁を右手で伝いながらゆっくりと辿っていく。
横穴内部は真っ暗で、いかにも何かが出てきそうな雰囲気があった。
空気はどこか重く、触れた土壁はどこか冷ややかに感じる。
あの子に中々巡り会えないが、彼女は無事なのだろうか……。
一抹の不安が過ぎるなか洞窟内を歩み進めていくと、前方に薄っすらと光が見え始めた。
「……出口か?」
呟いた声が洞窟内を反響する中、僕は小さな希望を抱きながら歩く速度を上げていく。
頼むから外に繋がっててくれよ。……そして頼むからあの子が無事でいてくれよ!
見えた光の方向に進むにつれ、光は大きさと輝きを増していく。
そしてついに、光の奥の世界に僕は行き着いた。
光の奥の世界。そこは半球状に広がる巨大空間だった。
地面は黒石で平らに整地されていて、天井を見上げればテレビのモニターのような物が大量に配置されていた。
僕はそんな不思議な空間に見とれて、歩きながら周り全体を見渡していた。
しかし、見渡す中である異変に気づき、僕は思わず足を止めた。
「……入口が無い」
そんなわけないと僕は自分の目を疑った。しかし、どこを探しても先に進む横穴のようなものは存在しない。入口というか出口というか、それらしき場所がどこにも見当たらないのだ。
「ハハッ……ハハハハハハ……」
僕の口から変な笑い声が漏れ出してくる。
……完全に閉じ込められた。
変な汗が全身を伝い、妙な寒気がしてきて震えが止まらない。
ああ、これが死ぬと分かった時の状況なのか。
僕が絶望の底にいるその時、突然気味の悪い声が聞こえてきた。
「フフフフフ……」
女性の笑い声、しかも高らかで若々しい。
僕はその声が耳に入った瞬間、骨を抜き取られたかのように足に力が入らなくなり、その場で座り込んだ。
そして声のする方向――天井の方向へ目を向けた。
1人の女性がゆっくりと地上に降りてくる。
どんな原理で浮いているのかはさっぱり理解できない。
女性は、しなやかな長い髪を揺らしながらこちらに歩いて来る。
服装は胸元がざっくりと開かれた黒の艶のある服。
体がすらっとしている分、その胸の膨らみが嫌でも目に入ってしまう。
彼女の見た目を一言で表すなら……。
「魅惑の黒き露出者」
「あら、初めて言われたわ」
そう謎の女性は笑みを浮かべた。
ミスった! 思わず口にしてしまった!
僕は顔を上げると、露出者がニコニコと微笑んでいた。
……絶望の淵にいる人の姿が、そんなにもおもしろいのか?
それともこれから人を死に追いやるのが、そんなにも楽しみなのか?
そんな事を考えていたら、ふとここに入っていった女の子の存在が浮かんだ。
そして、気がついたら僕は無意識に言葉を放っていた。
「僕を殺すなら好きにするがいいさ! ただ、ここに来た女の子は見逃してくれ! いや、おねがいします!」
人生で初めて土下座をした。
汗と涙が止まらない。
「……ッフフフフ、アッハッハッハッハ」
しかし聞こえてきた返事は、とてつもない笑い声だった。
僕は地面に顔を付けるのをやめ、腹を抱えて笑う女性を見た。
「な、何がおかしいんだ!」
「ごめんなさーいお兄ちゃん、騙しちゃいました。てへっ」
そう女性が口にした言葉は、まさしくあの時の女の子の声だった。
……まさか、俺は初めから騙されてここに来たのか。
気が付けば体全身が震えている。
怒りなのか恐怖なのかは分からないが、震えでまともに体が動かない。
僕が全く動けない中、露出者は再びふわりと宙に舞い、僕の頭上まで近づいてくる。
そして僕が怯えきった視線を向ける中、彼女は徐に口を動かした。
「おほん。……えーっと、騙したのは悪かったけど……そう恐れないで」
「……え?」
彼女の突然の言葉に、僕の表情は一変した。
あんなに震えて動かなかった体も、妙な脱力感に襲われる。
僕が困惑した表情を浮かべる中、女性は少し高い位置まで浮かび、高らかに声を上げた。
「ようこそ!『ホール・ダンジョン』ヘ。123455人目の挑戦者よ!」
彼女が放った言葉は、洞窟内を反響する。
……本人の声も反響してきた声も、10万回以上口にしただけある、堂々とした声だった。
しかし、そんな言葉を急に言われても全く訳が分からない。
言いたいことも説明してほしいことも山のように頭の中に浮かぶ。
しかし怒りも恐怖も完全に消え去った僕の口からは、あまりにも単純な言葉が飛び出てきた。
「挑戦者じゃないから、ここから帰してくれぇえええええええ!!」
そんな僕の心からの叫びも、彼女の言葉と同様に洞窟内に大きく響き渡るのだった。
2012/5/13
Lv5で書き直しました。