第189層 表情たち
この作品の作者は、文章表現レベルが現時点で4/無限です。
様々な名称、場面が出てますが、作者は全てオリジナルだと思っています。
作品も作者も成長過程ですので、あまり期待はしないでください。
宮殿の階段を降りきって、ミライは街中をゆっくりと歩く。
ふと様子を見てみたら、スースーと眠ってしまっていたミチ。
……彼女の相変わらずの気持ち良さそうな寝顔を見れて良かった。
ミライは薄ら笑みを浮かべながら歩いていると、裏路地の様な細い道からひょいと1人の女性が現れた。
「その様子だと、無事にミチさんを助ける事が出来たのですね」
その声の主は、間違いなくクロネだ。
ミライは目線をクロネの元に下ろし、言葉を掛け返した。
「なんとかね。……でも、どうしてそれを?」
「今やあなたの行動は町中の噂や宴話になってますよ」
ミライは真顔で話すクロネから目線を逸らす。
そんなの初耳だぞ。一体何所から情報が……。
そう考えを深めていたら、それを見透かしたかのようにクロネが話し始めた。
「『一人の男があの宮殿から脱走した』と、その情報は瞬く間に町中に広がったんです。それがミライさんなのかを知ってる人は少ないですけどね」
「……やっぱり分かった?」
「何がですか?」
キョトンとしながら聞き返すクロネ。
クロネにまでも心を読まれたかと思ったが、俺の見当違いか……。
「いやいや、何でもない何でもない」
ミライは笑って誤魔化し、街を囲む水壁を眺め言葉を続けた。
「じゃ、俺はそろそろ行かなくちゃだからね」
「泊まっていかないんですか?」
「うん、外で待ってる人達がいるからね」
「そうですか」
そう言ってクロネは少し残念そうな表情を浮かべた。
泊まって欲しい理由でも有るのだろうか。
有るとしたら……情報?
「ま、その内また顔出すから、その時にゆっくり英雄伝でも話すよ」
「ふふ、期待してます。ミライさんも心を読めましたね」
「『も』って……」
ミライは苦笑いを浮かべ、それに合わせてクロネも口に手を当て「ふふふ」と笑う。
やっぱりさっきは読まれていたんだな……。
そうミライが思う中、クロネはミライの元へ3歩で歩み寄り、ミチの方へ手を翳した。
ミライが不思議そうにその行動を見ていると、クロネはミライの方を向き、笑顔で言葉を向けた。
「私からのささやかなプレゼントです」
その言葉の後クロネは目を瞑り、口を小さく動かした。
すると、ミチを繋いでいた両手両足の鎖が青白く光りだした。
そして跡形もなく鎖は消え去り、ミチの手足には縛られた跡だけが残った。
クロネはにっこり笑い、目線を上げてミライに言葉を向ける。
「皆さんには内緒ですよ?」
「……一体、何を?」
「ふふ、秘密です」
ミライが素直に戸惑う中、クロネは自信満々な表情を上目使いで浮かべる。
クロネはその目線のまま4歩後ろに大きく下がった。
そして別れの言葉をミライに掛ける。
「……女の子は優しく、大切にしてくださいよ。それでは、宿で待ってます」
「あぁ、必ず顔を出すよ」
「お待ちしております」
その言葉の後に、クロネの輝かしい営業スマイルが露になった。
笑顔の違いが何となく分かるようになったな……。
ミライはクロネに笑顔を返し、再び街の外側に向かって歩き出した。
そんなミライの姿を、クロネは深々とお辞儀をして見送るのだった。
※ ※ ※ ※
街を囲む水壁前。
ミライは眠りにつくミチに言葉を掛ける。
「ミチ。今から水の中を通るんだけど……起きろ!」
しかしミチは起きない。
水壁は息を止めて通らないと、とんでもない事になるんだが……。
「知らないぞ? 水思いっきり飲み込んでも……」
色々言おうと思ったが、ミライは溜め息で言葉を押し殺した。
ミチの寝顔には、どんな言葉も逆らえない気がしたから。
でも、このまま水壁を潜らず立ち往生してるわけにも行かない。
「行くぞ! ……通るぞ! 3・2・1……ゴー!」
ミライは10秒を3でカウントして、水壁に向かって一気に走った。
ザブーンっと水しぶきを上げて、そして一気に水壁を通り越した。
「げほっ、ごほっ、ごほっ、こほっ……うー……」
ミチが最悪の形で目覚めを迎えたようだ。
咽込むミチに、ミライは苦笑いを浮かべながら言葉を掛けた。
「俺は起きろって言ったぞ? 注意したから攻めるなよ」
ミチは少し微笑みながら、徐に言葉を向ける。
「あ、ミライ。……今、ちょぉ……とっぉ…………スゥー……」
「眠った!?」
ミチの思わぬ行動に、ミライは声まで驚いた。
いやいや、嘘だろ……。
水潜って、さらに咽てまた眠るって。
……どれだけ眠かったんだ。
まさか俺と同じで3日間寝てなかったりして……。
相変わらずのミチの寝顔に、思わずミライは笑みを浮かべる。
そんな平和な2人に気づいて、彼女がこちらに向かってきた。
ミライも向かってくる彼女に気づき、足を進め始める。
セーナだ。相変わらず無防備な1枚の白シャツで……。
そして2人は少し間を空けて立ち止まり、ミライは自慢げな表情を浮かべ声を発した。
「無事に帰ってきたよ」
その言葉の後、少し時間に間合いが出来る。
少しもじもじしていたセーナは、ミライに上目で目線を向け、満面の笑みを言葉と共に向けた。
「……おかえり!」
「ただいま」
セーナの笑顔は、この砂漠を掛ける風と同じで心地よく、温かいものだった。
また今日か、明日の朝早くかに更新したいと思います。
2月に入るまで、猛更新です。……の予定です。




