第188層 思いを込めて
この作品の作者は、文章表現レベルが現時点で4/無限です。
様々な名称、場面が出てますが、作者は全てオリジナルだと思っています。
作品も作者も成長過程ですので、あまり期待はしないでください。
ミライは通路の大きな扉を引き、次のフロアへと足を進めた。
王の間。グラムが居座る大広間だ。
「ほう、2人を打ち破ってきたか」
目上の遠くの方からグラムの声が掛かった。
その声は間違いなく、王、グラムの声だった。
グラムは、このフロアの最上段に作られた玉座に足を組んで座っている。
それが見たくも無いのに見えてしまう。
ミライは一瞬だけグラムを見てから、大きく目線を左に逸らした。
その直後、ミライは見えた彼女の姿に思わず叫んだ。
「ミチ!」
このフロアの左端。王の玉座と全く平行な位置。
特別に新しく作られた鉄柵の牢屋がそこにはあった。
そして、その中にうつむく彼女の姿が会った。
……ミチは呼びかけに何も答えてくれない。
ミライは何も考えず、ただただミチの名を言葉に出し続ける。
「ミチ! ……ねぇミチ? ミチってば!」
「……目障りだ、消せ」
そうグラムが口で指示を出すと、グラムの左右に並んでいた女兵6人が細い剣を構える。
そして6人が同時に、ミライに襲い掛かった。
……6人が同じ動きで恐ろしいが、全員が全員無表情だから尚更怖い。
ミライはギリギリまで彼女達を引き付けて、間合いを見計らってから呟くように魔術名を吐いた。
「魔術氷結」
ミライが魔術名を言い切る頃には、ミライは彼女達の背後へと回っていた。
ミライの背後で、女6人が見る見るうちに凍りつき、そして完全に動かぬ氷像と化した。
「使えぬ奴らだ! ……もうお前に用は無いんだ、死ね!」
グラムは尖った口調でそういい、細く鋭い水撃をミライに向かって放った。
前回苦戦した、このレーザーのような水。
……今回はハッキリと動きが見える。
ミライはグラムの攻撃をすれすれのタイミングで首だけ動かしかわした。
が、その瞬間あることに気づいて、慌てて氷壁をグラムの水撃目掛けて放った。
瞬時にグラムの放った水撃は氷となり、地面に落ちて粉々に砕け散った。
……ふぅ、危ない危ない。
ミライはグラムに背を向けて、氷付けになった彼女達を見つめる。
「解除。……魔術氷結」
そして彼女達とミライとの間に、大きく分厚い氷の壁を作り上げた。
……これで大丈夫だ。
ミライは再びグラムの方に体を向ける。
グラムは片肘をつき苦い表情を浮かべ、こちらをじっと見つめている。
そんなグラムから目線を牢屋のミチに向け、ミライは叫ぶ。
「ミチ、ミチ! まさかもう操られてしまったのか!」
ミチは俯いたまま動こうとしない。
ミライは牢の方に向かって、歩み進める。
「ミチ、返事してくれ! ミチ!」
「黙れ黙れ黙れ!」
グラムは気が狂ったのか、慌しくミライの方に向かって水撃を放つ。
ミライは歩みながら最小限の行動でそれをかわし、ほぼ真っ直ぐミチの下へと進んでいく。
「くそっ、何故当たらん! 何故反撃をしない」
「ミチ! 目を覚ませ! 頼むから……」
グラムの水撃は、どんどんと数と威力を高めていく。
だが、ミライの行動は全く変化しない。
「調子に乗るな! 水中の縛世界!」
その魔術名が叫ばれた瞬間、ミライを水が被い、その水は凄まじい早さで膨張していく。
そして、完全にミライを包み込んでしまった。
「今度は生かす気などさらさら無い!」
グラムは薄笑いを浮かべ、大声で叫んだ。
ミライは、空中に浮かぶ水中空間でもがく事無く、冷静にグラムの方を向いた。
……瞬間裏移動。
「どこ狙ってるんだ? 完全に的外れだぞ?」
ミライはグラムの玉座の左側で言葉を放つ。
グラムの表情から完全に笑みが消えた。
そのグラムが振り向きざまに声を発する。
「貴様っ! 一体何を……」
グラムがミライの声のした方向を見る頃には、ミライの姿は無かった。
今度は瞬間的にグラムの元へと近づいたミライは、グラムの胸倉を掴み、おもいっきり玉座の背もたれに押し付けた。
「ぐあっ……」
グラムの口から声と唾が同時に飛び交う。
ミライはグラムを玉座に押し付けながら、大声で言葉を発した。
「お前こそ、ミチに何をしたんだ! 言え!」
「……ふっ、俺はただ丁重に振舞ったさ。ただ彼女は食事も何もかも拒絶した。それだけだ」
ミライは押し付ける力を強め、再び問いただす。
「本当だろうな。魔術等をかけた訳じゃないんだろうな!」
「そんなの言ったところでお前が信じるのか?」
グラムの返答を聞いたミライは力を抜き、グラムの胸倉から手を放した。
……グラムが嘘を言ってるとは思えない。
だが、それなら彼女はなぜ……。
ミライはグラムの元を離れ、ミチの方に足を進める。
「ミチ! 目を覚ましてくれ……。気づいてくれよ……ねぇ……」
ミライの足取りは少しずつ重くなっていく。
その間に、グラムは更なる行動にうつる。
ミライを360度全方位を取り囲むように水の球体が作られる。
……あいつ、まだ何かしでかそうとしている。
ミライは足を完全に止めて、若干顔を俯かせた。
そして、小さな声で呟き始める。
「凍てつく命の破片たちよ。我が命じに答え、天に氷期を舞い上がらせん……」
正直、この魔法は使いたくなかった。
見せる事無く、ミチを救い出したかった。
だが、向こうも恐らく本気だ。……ここで使わなければ、負ける。
ミライの足元に強大な青白い魔法陣が出来上がっていく。
グラムも準備が整ったのか、ミライを言葉で罵る。
「いい加減諦めろ。そいつは俺のものだ! オールスプラッシュ!」
グラムが呪文名を叫んだ瞬間、ミライを取り囲む無数の水玉はミライに向かって水撃を放った。
一点に伸びる針のような水撃が、ミライに届く寸前だった。
ミライは溜めに溜めた魔力を、一気に言葉と共に舞い上げた。
「舞上変成氷!!」
ミライが叫んだ瞬間、足元の魔法陣から大量の細かい氷の粒が、天井目指して飛び交った。
そして、ミライを貫こうとする数々の水撃が、一瞬にして動きを止めた。
そう、まるで魔法陣上の空間の時が、完全に止まったかのように……。
美しい氷のオブジェに囲まれたミライは、右手の箒を高らかに上げ再び声を発した。
「氷破!」
その言葉が辺り一面に広がった瞬間、完全に凍った水撃は鈍い破壊音と共に粉々に砕け散った。
あたり一面を氷の微粒子が飛び交い、ミライ周辺に冷気を帯びたたせる。
ミライの足元と天井は完全に氷結し、鏡のようにミライの姿を映し出す。
……なんとか、上手くいった。
グラムはその光景か何かによって、完全に言葉を失っている。
そんなグラムを尻目に、ミライは声を発しながらミチの方へと足を進めていく。
「ミチ、もう何もさせない。何もかも守ってやる! だから……だから、こっちを向いてくれ!」
氷の粒子で澄んだ空気になった場内一面に、その声が響き渡る。
そして……。
死にそうな瞳をした彼女は、こちらをゆっくりと見て、薄っすら頬を緩ませた。
「瞬間裏移動ッ!」
一言ミライは叫び、牢屋の中へと強引に入り込んだ。
ようやくミライはミチの下へと辿り着いたのだ。
……だが、まだ終ってない。
ミライはミチ及びミチの周りの状況を確認する。
牢の周りには、ミチに向けてだと思われる食事が無残にも散らかっていた。
ミチは手足共に鉄の鎖に繋がれて、完全に動けないような体制になっている。
彼女の特徴だった緑の肩だしワンピースも所々引き裂かれ、左肩紐は切られてだらんと手前に垂れている。
そして、体に出来ている無数の痣や傷跡。
ミチの残り体力も100を割り切っていた。
……何が丁重に振舞っただ。……くそがっ!
ミライは背後に居るグラムに気をとりながらも、ミチの手足を拘束する鎖を必死に解こうとする。
だが、そう簡単に取れそうも無かったのでミライは小さな声で呟いた。
「……魔術反射」
ミライは、ミチの両足を結ぶ鎖の中間を目掛けて薄い透明な板をを落とした。
ドスッとなる音と共に左右の足を結ぶ鎖は完全に切れ、切った薄板は地面に重く突き刺さった。
これで手の鎖を切るのは危険か……。
ミライはその場をしゃがみ、ミチの顔の正面へと座り込んだ。
ミチは俺様のどこを見つめてるのか分からない。
分かる事は、彼女の瞳には以前あった輝きが無くなっている……。
ミライは複雑な表情を浮かべながら、ミチの切れた2本の肩紐を摘み、丁寧に肩に架かる様に蝶結びをしてやる。
……そんな姿じゃ、行動しにくいからな。
ミライはジッとミチの姿を同じ目線で見つめる。
彼女は笑っているのか、悲しんでいるのか、喜んでいるのか、怒っているのか判らない。
それは目を逸らしたくなるような、嫌な無表情だった。
ミライはミチの両肩をグッと掴み、彼女を揺さぶりながら声を放った。
「なぁ、ミチ。目を覚ませよ。覚ましてくれよ! 頼むから、頼むから…………笑ってくれよ!」
ミライがそう叫び、ミチをずっと見つめる。
……ミチが少し笑った気がした。
彼女を救い出さなければいけない。
それは、王からの束縛から救い出すことが全てではない。
彼女の心を、笑顔を、感情を取り戻さなければいけない。
……ふと、恩師ナトレの最後の言葉が頭を過ぎる。
― 攻めなさい。何事においても、それが一番大事よ ―
攻める?
何をどうやって攻めれと……。
攻める? 攻める。攻めれ、攻めろ!
次の瞬間、ミライは攻めという名の行動に移った。
ミチの顎を、優しく手の平で軽く持ち上げる。
そして、彼女の顔へ斜めから滑り込むように入り込み……。
彼女の唇を俺様の唇で奪った。
ミチとミライの唇はくっ付き合ったまま離れようとしない。
「貴様っ! 何をする!」
グラムの叫びはミチは愚かミライにも届かない。
自分でも何がしたいか分からない。
何がしたいか分からないからキスをしてるのかもしれない。
これに対して彼女が何を思っているだろうか。
悲しんでいるだろうか。
怒っているだろうか。
……そんなのは何だって良い。
とにかく、感情が動いてくれればそれで良い。
……伝われよ俺の思い!
ミライは唇の先に何か暖かい物を感じ、ミチの顔を横目で見た。
……ミチの輝きの閉ざされた瞳から、一筋の涙が流れていた。
その涙の量は、次第に溢れていき……。
彼女らしい明るい瞳が姿を現し始めたのだ。
ミライはミチとの永き接吻をやめた。
「…………………………」
ミチが口をもごもごと動かし、ミライに何かを伝えようとする。
だが、言葉になってそれが出てこない。聞こえない。
ミライはミチの両肩を持ち、その場を立ち上がらせ、ミチの頭に軽く右手を置いた。
「ミラィッ……ハァッ……ッハァアッ………」
突然ミチの言葉が途切れ、呼吸が大きく乱れ始めた。
それは突然の過呼吸だった。
……なんだ、どうすれば……確か、空気を送り込むだったっけ。
ミライは再びミチの苦しそうに開いた口にキスをする。
その瞬間、ミチは大きく目を見開いたのが分かった。
そして、今度はミチの吐息に合わせて息を吹き込んでやった。
「貴様ぁああっ、ふざけた事を!」
グラムはミライに向かった水撃を放つ。
その瞬間、ミライの背元に突然氷の壁が現れ、一瞬にしてグラムの水撃を凍りつかせた。
それどころか、凍りついたグラムの水撃から巨大な氷の結晶が大量に現れ、グラムの目の前まで鋭い結晶が襲い掛かった。
「うぐっ……」
そう完全に怯みを見せたグラム。
こと細かく入ってきたミチの吐く息も、だんだん安定してきた。
もうそろそろ、落ち着いたのかもしれない。
そう思い、ミライは2度目の口付けをやめた。
「ミライ……」
ミチは徐にミライの名前を呼んだ。
ミチの頬が少し染まってるのは、お互い様だと思っておく。
……嬉恥ずかしいのはこっちも同じ。
「どうした? ミチ」
「……うぅ、ミライぃいいいいいいぃいいいい、うああああぁああん」
ミチが俺の胸元に飛び込んできて、大泣きを始めた。
……以前にもこんな事があった気がするが、その時よりもミチは頭をグッと押し付けてくる。
だから、俺も以前よりも強めに抱きしめてやる。
「貴様っ! ミチは、俺のものだぞ!」
グラムからそのような言葉が放たれた。
その言葉を聞いた瞬間、ミライは自分の何かが切れるのを感じた。
……俺のものだと。ふざけやがって!
ミライは胸元ですすり泣き変わったミチを強く抱きしめ、胸元から引き剥がした。
そして、少し戸惑うミチの目の下を優しく指でなぞり、涙を拭いてやる。
「少し待ってて来れ。もう1つだけ、やる事ができた。とりあえず、これでも飲んで待ってて」
そう言って、ミライはミチの両手に回復ビンの蓋を取って渡した。
それをミチは2口ほど飲んで、それからミライに満面の笑みを浮かべて一言言った。
「……うん、分かった」
ミチの笑顔を見た時、今までの戦闘などの苦労、疲労が全て吹き飛んだ気がした。
ミライは目線をミチから少し逸らし、大声で語り始めた。
「……ミチはお前なんかの物じゃない。ましてや、俺のものでもない。でも……」
ミライは顔だけ振り向き、鋭い目つきでグラムを横目で見る。
そして、グラムと完全に目線があった。
……瞬間裏移動。
ミライは移動中にしまっていた箒を取り出し、両手で力強く握った。
「俺の大切な仲間であって……」
ミライは、グラムの顔面目掛けて思いっきり箒を振りかざした。
それをグラムは右手で受け止める。が、ミライの勢いは治まらない。
「ぐっ……」
グラムが少しずつ押され、足が少しずつ地面を引きずる。
グラムは両手で箒を押さえ、どうにかミライの猛攻を受け止めた。
だがミライはそれを見計らったように地に足をつき、そして箒を片手で持ったまま……
「……大切な俺の人なんだ!」
思いっきり回し蹴りをグラムの左頬に浴びせた。
鈍い音が鳴り響き、グラムは地面に倒れた。
「ミチ!」
ミライが叫ぶと、ミチはミライの方をハッと見つめた。
その瞬間、ミライはミチの背後に回りこむ。
「さて、帰るぞ。俺達の帰りを待ってる人達がいる」
そうミライは言って、ミチを軽々とお姫様抱っこした。
急な展開にミチは少し戸惑いながらも、ミライに言葉を向けた。
「うん……帰ろ」
そして上目遣いで、薄っすら笑ってみせるミチ。
その笑顔にミライも不思議と笑みがこぼれる。
ミライは完全に目を開けて気を失っているグラムの方を向き、叫ぶ。
「瞬間裏移動!」
そして、横たわるグラムの目の前へと瞬間移動した。
ミライはミチを抱きかかえたまま、この部屋の入り口へと走る。
走りながら、ミライは叫ぶ。
「魔解除!」
そう言った瞬間、目の前の氷の厚壁も、背後に出来た凍った世界も、水撃の結晶も完全に消えてなくなった。
ミライは床で眠る6人の女性を飛び越え、足を止め、グラムの方を振り向いた。
そして、少し哀れな目線を送りながら言葉を吐いた。
「ミチは返してもらう。……もう手渡す事なんてしないからな」
ミライは再び入り口の扉の方を向き、ゆっくりと歩き出した。
下を見つめれば、ミチが照れくさそうに笑っている。
……俺は勝った。勝てたんだ。
ミライは薄っすら笑みを浮かべ、足を進めて宮殿を後にする。
こうして結婚披露宴は、一人の男の大騒動によって中止になったのだった。
おかげさまで、総合評価が300を超えましたので、作者さんのレベルが1上昇しました。
今回の章で1番書きたかったシーンです。まさかこうなるとは、1年前の私も思ってなかったでしょう!
今のレベルで満足できるような文章になったのでもう後悔はしません。後半は特に印象に残るシーンに仕上げました。
残るは結末だけです。2月前半には、2章(上)が終れたらなと思います。……1冊じゃ収まりきらなかったんです。申し訳ない、では次回!