第187層 主人への思い
この作品の作者は、文章表現レベルが現時点で3/無限です。
様々な名称、場面が出てますが、作者は全てオリジナルだと思っています。
作品も作者も成長過程ですので、あまり期待はしないでください。
ミライは必死に頭を巡らせ、この状況をどうにか脱出する方法を考えに考える。
そして、一つの可能性が頭に浮かんだ。
……だがしかし、もう手遅れだった。
火の鳥と化したタットは、もう目の前まで来ている。
魔術反射が追いつくとは思えないし、追いついたとしても相手が物理だったらまるで意味が無い。
「くっそおおおぉぉおおおおおぉおおおお」
ミライは叫び、バリア発動のイメージを固める。
くっ……駄目だ。間に合わない……。
目の前の光景と熱さに目を瞑る事しかできない。
「バッ………………」
ミライの声は、バチバチと燃える火の音でかき消された。
ミライは顔横すれすれを何か熱い物が通り過ぎるのを感じ取った。
……あれ、そんなに痛くない。
ミライは瞑っていた目をゆっくりと開いた。
目の前には、巨大な火の鳥のモニュメントがメラメラと燃えていた。
まだ届いてなかった……だと……。
そう思ったが、火のモニュメントは全く動く気配が無い。
時間でも止まったか……と思ったその時だった。
「カーッ、カーッ、カーッ」
バサバサと言う羽音がミライ後方から聞こえてきた。
羽音はだんだんとミライに近づき、そしてミライの頭の上へと見事に着陸した。
何故だかよく分からないが、タットがこちらに来たのだ。
……もしかしたらこいつ、操られてないのか?
「お前……これ、どうやったんだ?」
「カーッ、カーカーカーカァーッ!」
目の前の炎のモニュメントについて必死にタットは説明する。
うん? ……なるほど、分からん。
……お前と言葉をかわせれば、よかったのだけどな。
「で、タット。俺様に力を貸してくれるのか?」
「カァー」
「……ご主人様に歯向かっても良いのか? って、イテテテテ……分かったって!」
おもいっきりタットはミライを頭を突きに突いた。
歯向かうという言葉が気に食わないらしい。
「本当に痛いって、お前も彼女を救いたいんだろ!?」
「カーァアッ!」
タットはミライの頭を突くのを止め、鳥胸を張って鳴き叫んだ。
なんて言葉を返したか分からないが、鴉にしては凛々(りり)しい良い声だった。
……タットが人間だったら、間違いなく良い奴だろうな。
「その気持ちは俺様も同じだ。……勝負は一瞬! お前の作ったこのチャンス、必ず生かして戦いを終らせてやる!」
「カァー!」
タットの残した炎のおかげで、向こうからこちらの光景は見えない。
そして、彼女らは全く動く気が無いのが、情報強制公開で表示されたステータスが動く気配がない。
……今なら、いくらでも2人の隙を作れる。
「俺様は今から、2人の丁度中間に攻撃を仕掛ける。タットはその2人の開いた隙間を飛びぬけてくれ。
そして通り抜けたら俺様の目を見つめろ! そこまで出来れば、絶対勝てる。分かったか」
「カァーッ!」
良い返事だ。
言葉は通じなくても、他に通じる何かがあれば何だって共にやって行ける。
それは性別や種族なんて関係ない。共通の思いがあれば、何だって同じだ。
ミライは足元に薄っ広くバリアを敷いた。
……頭に浮かんだ考えが上手く行かなかったら、何もかもが無駄だな。
ミライは若干苦笑いを浮かべつつも、作戦実行に移った。
「いくぞ! 圧縮の水撃!」
ミライ前方の空間に魔法陣が形成され、そこから勢い良く水撃が放たれた。
その水撃は目の前の炎を消し去り、2人に凄まじい速さで向かっていった。
「……スケイシス」
すぐさまネクが例の魔法陣をミライ足元に形成する。
だがしかし、ミライの放った水撃が消える事はない。
予想通り、魔法陣自体が魔法だったか。
それなら、その効力がバリアを越えて来るのは難しい。
しかし2人は、予測通りミライの攻撃を素早くかわした。
「頼んだぞ、タット!」
ミライは叫び、2人の間を指差してタットに指示を出した。
タットはそれに応えるようにミライの頭を飛び出し、2人の元へと飛んでいった。
その勢いは、火の鳥への変化も向かっていくスピードも先ほどとは比べ物にならないぐらい速い。
さっき向かってきたときは、鴉ながらに手を抜いてくれていたらしい。
……あんなの食らったら、生き残る希望すら薄いな。
「スタースライサー!」
当然、危険な攻撃を消し去ろうとクリーが先ほどの攻撃を仕掛けてきた。
その光景に、タットはチラリと光の玉の方向に目線を向ける。
「お前は一直線に進め! 援護するから! 燃盛る変化球!」
ミライは叫ぶと、足元の2枚の魔法陣を上書きする様に大きな赤い魔法陣が作り出された。
そして火の玉、と言うより火の光線がクリーの造り出した光玉と天井を貫き、破壊した。
「……ダークフレイム」
ネクが呟くと、あの階段で見たときと同じような青き炎の塊が3連発で放たれた。
「バリア!」
ミライは透明な氷壁を作り出し、それを思いっきり前方に飛ばした。
1つ、2つと炎の塊を弾き返し壁と言う壁にぶつける。
凄まじい爆破音と共に、地面と右側の壁に焦げ跡と大穴を残した。
しかし、3発目の炎の塊をバリアで捉える事はできなかった。
……まずい、しくじった。
タットは一撃を食らい、大きな爆風と共に纏っていた炎を吹き飛ばされた。
「タットぉぉおおおおおっ!」
その光景にミライは大声で叫んだ。
だが、通常の姿に戻ったタットであったが、高度は落としてもスピードはまだ落とさない。
……ちくしょう、無茶しやがって……。
「いっけえええええぇぇえええぇええ!」
ミライの叫びに応えるように、タットはスピードを上げてそして……。
クリーとネクの間を通り過ぎた。
だが、通り過ぎると同時に地面に落ち、そこから大きく転がった。
タットは地面で痛々しい4回転半をきめ、そして約束通りこちらに目線を送ってきた。
……ありがとう、タット。それだけ頑張れば十分だ。
「……瞬間裏移動」
ミライが呪文名を言い終わる頃には、タットの目の前かつ2人の目の前に立っていた。
そして、2人の女性を肩から抱き込むように両腕を押し込んで、小さな声で一言呟いた。
「魔術氷結……」
ミライの両手元から、小さな氷の破片が作りだされた。
そして、その氷の破片は見る見るうちにミライの両腕と、2人の女性を包み込んでいく。
「悪いな、少し眠っててもらうよ。何所まで凍るか操作できるのは俺様だけなんでね」
その言葉を言い終わる頃には、2つの女神の氷像が完成していた。
……正直、氷の操作はバリアに触れてから凍るまで時間なので、放っておけばそのうち自分も凍り付いてしまう。
さらに言うと、完全に素早く凍ったほうが楽。……凄く手が痛い。
「……氷結解除」
ミライが呟くと、瞬く間に3人を覆っていた氷が消え去った。
残ったのは氷のように冷たい自分の手と、氷のように眠る2人の女。
なんとか勝てたわけだ……。
「……ありがとうな」
改めてタットに感謝の言葉を言い、口元に回復薬を流し込んでやる。
この薬は動物にも効果があるのだろうかと言う疑問が出来たが、今は考えている余裕など無い。
ミライは2人と一匹を、何も壊れてない壁際に優しく寝かせた。
……気がつけば、後ろに有った数々の魔法陣は姿を消している。
そして、ミライは戦いに燃え尽きたタットの目の前に2本の回復薬ビンを置いた。
「ここに回復薬を置いていくから、2人が目覚めて正気に戻っていたら渡しておいて」
「クァー……」
小鳴きながらも、タットは返事を返した。
返事が出来るなら、きっと大丈夫だろう。
そう信じて、ミライは自分用に一本回復ビンを取り出し、口の中に一気に流し込んだ。
158の回復。相当辛い戦いだった……。
「さて、待ってろよ……ミチ」
ミライはしっかりとした口調で呟き、ボロボロになった通路を進んでいくのだった。
地味に好きな感じになりました。
……いよいよですね。本当にいよいよです。