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ア・ホールド・ダンジョンズ!  作者: オレン
第二章(上) 束縛された水の街
150/217

第150層 逃走、奇跡、思力、強化

この作品は、文章表現レベルが2/1000Lvの作者の書いた作品です。

様々な名称出て、他作と被ったりしますが、作者はオリジナルだと思っています。長編物ですので、話の内容と、作者の成長を優しく見守ってください。

 「ハァ……ハァ……くそう、どこに行けば良いんだ……」


ミライは、何処なのか判断出来ない通路を、ひたすら逃走していた。

 通路の横幅は、人二人が通れるか通れないかの細い通路だ。

 ミライは牢獄脱出後、上りの階段を掛け上がり、様々な選択肢の別れ道を勘で曲がって今に到るのだ。


「まっ……待て!」


少女の様な甲高い声が、ミライの背後で放たれた。

 僕の背中を追って走るのは、本当に短めの黒髪の女の子だ。

 もちろん僕と同じ挑戦者だったが、こんな小さい子まで……。

 そう思いながら逃走していると、再び通路の分岐点が目先に姿を現した。


「…………左だ!」


ミライは通路を左折して、後ろを確認しながらも走り続けた。

 気がつけば追っ手の少女との距離が離れていたらしく、少女の姿も声も確認できなかった。

 その後は誰にも遭遇そうぐうする事無く走り続けた。

 そして、ついにミライは1つの扉に辿たどり着いた。

 大きめの扉の左右には、松明たいまつが激しく燃えている。

 ……もしかしたら、この先にミチが居るかもしれない。

 ミライは扉の前で立ち止まり、乱れた呼吸を整え、つばを飲んだ。

そして、扉の円形の取っ手を掴み、ゆっくりと扉を引き開けた。


「……倉庫?」


ミライは、扉を開けっ放しで部屋内を見渡した。

 少し高い位置にある柵窓から夕日が差し込んでいて、今までの通路より明るい空間。

そこに、剣や斧といった様々な武器が雑に置かれていた。

 部屋内がほこりっぽくない所を見ると、この部屋はそれなりに使われている部屋らしい。

 そんな部屋で、ミライは見覚えのある形のほうきを目でとらえた。


「あれは、もしかして……」


ミライは少し足を速めて歩み寄り、地面に落ちている竹製の箒を手に取った。

 この箒のの折れたのを直した跡……間違いなく僕の箒だ。

という事は、ここはグラムに敗北した者の私物置き場と言った所だろうか。

 ミライは部屋内の武器を興味津々に眺めていた。その時だった。

 この部屋の唯一の入り口である大きな扉が、もの凄い物音を立てて開いたのだ。

 そして、全開きになった扉から流れ込むように女兵達が部屋内に入ってきた。


「観念しなさい、脱獄者!」


恐らくあの少女からの言葉だった。

 ざっと見て数十人だが、これだけ多いと誰が発言してるかさっぱりわからない。

 ミライはその圧倒的な数で、気がつけば柵窓際の壁に追い詰められていた。

 数十人の先頭に、一番最後に出会った少女が歩み出て、ミライに向けて言葉を放った。


「あなたがあの通路を左に曲がったのを確認して、私は通路内の全ての兵を呼び集めたの。ここで行き止まりなのが分かっていたからね」


 少女は不敵な笑みを浮かべている。

 ……道理どうりで、後ろに振り向いたときには居なかった訳だ。

小さいながらも、良い判断する子だな。

 ミライは感心の目を女の子に向けていると、少女から再び声が掛けられた。


「何、ジロジロ見てるのよ」


「いや、頭のえる女の子だなーと……」


ミライは、体をかがめて少女に言葉を返した。


「……私を身長だけで判断してるでしょ!私は、もう20を越えた成人なの。バカにしないで!」


 馬鹿にした覚えは無いのだが、女の子……ではなく、彼女を相当怒らせたようで……。

 小さき女兵は怒りを静めると、ミライにゆっくり歩み寄り、声を張らせて言葉を向けた。


「さあ、脱獄者。早いとこ捕まって貰うわよ。抵抗しなければ、痛い目にはあわせないから」


そう言う少女の表情は、今から甚振いたぶりますよと言わん限りに目が見開いていた。

 ……しかし、この数相手では抵抗しても無意味だろうな。

どうすれば……。

 小さき女兵はゆっくりとミライを捕らえに歩み寄る。

そして、女兵の顔に橙色の眩しい夕日が照りつけた。

 その瞬間、ミライは何かを思い浮べて柵窓の方をチラリと見た。

 ……一か八か、これしかない!

 ミライは小さな可能性を一瞬で頭で固めて、行動に移した。

 歩み寄る女兵に、ミライは右手を突き出し、手を広げた。

その行動に、部屋内の女兵が動きを止めた。


「何?この数に抵抗する気?」


小さき女兵は不敵な笑みを浮かべて言った。

 その言葉に返答する事無く、ミライは女兵たちに背を向けた。

そして、壁際に目線を送りながら、両手に1本の箒を持って手を上に上げた。


「そう。それで良いのよ。……確保」


小さき女兵の声で、大量の足音がミライに向けられた。

 ミライは、大きく息を吸い、夕日を差し出す柵窓に向かって叫んだ。


「ミチ、僕は必ず助けに戻るからな!待ってろよ!」


ミチに聞こえるように叫んだと言うより、自分のいましめのために叫んだ。

 ミライの突然の咆哮に、女兵は動きを止めた。

 ミライは、左手を箒から手放し、呪文名を叫んだ。


燃盛る変化球フゲネス・フレイム!」


 部屋内を一瞬明るく照らし出したミライの魔法は、すぐ目の前の壁を崩壊させた。

 部屋内を砂煙が包み込む。


「ケホッ……ケホッ……一体何を……」


 苦しそうに片目を開く小さき女兵に、ミライは不敵な笑みを浮かべて、声を掛けた。


「またね。二十歳はたちの少女さん」


 ミライはその言葉の後、壁に出来た明るい穴に向かって、勢い良く身を投げ出した。


「待ちなさいよ!」


女兵の呼び止めの声は、ミライに伝わることは無かったのだった。





 「……魔術反射バリア


ミライは、空中で3枚目のバリアをミライの落下する方向に作り上げた。

そのバリアに、空中で叩き付けられるミライ。

 そして、ミライを受け止めたバリアを解除して、再び地面に向かって落ちていく。

 最初のエリアの大樹からの落下の時に使用した落下速度低下術だが、魔力消費の少ない割にはもの凄く便利な技術である。

 しかし、前回は作り出したバリアと共に落下を繰り返していたのだが、今回は毎回解除する事にした。

そうしたのは、1枚目のバリアが鳥系統の飛行生物に衝突してしまったから。

 あの時慌てて解除をしたから良かったものの、下手すれば無害の生物が死んでしまうところだった。

 ……今考えてみれば、バリア落下地点に人でも居たら、それこそ大惨事だいさんじだ。


「バリア」


ミライは4枚目のバリアを造り出した。

 そして、造ったバリアに叩き付けられる。そして解除。

 これを繰り返すだけの簡単なお仕事である。

これをしないと死んでしまうわけだが……。

 ……そして、繰り返す事、数十枚目。ついに着地点の地面が見え始めた。

街で見た、砂を固めたような地面だ。


「バリア……ってあれ?……バリア!……」


 ミライは、淡々と繰り返してた通りにバリアを発動しようとした。

しかし、ミライの言葉でバリアが発動される事は無かった。


「バリアッ!…………バリア」


声を張り上げても、集中して唱えても、バリアは出現しない。

 ミライの落下速度は、今まで以上に上昇していく。

 ……このままじゃ……まずい。


「ぬぅぁぁぁああああああああああああああああああああぁぁ!」


ミライは風圧を大きく受けながら叫んだ。

 地面との距離。

……推定100mを切った辺り。

どんどん地面がせまってくるのが嫌でも分かる。

 このまま地面に着陸すれば大惨事。

……下手すれば死にねない。

 何故、急にバリアが……どうすれば、どうすれば……。


「ああああああああああ……ぁあ?」


ミライの落下地点に、偶然にも人が通りかかった。

 人が通りかかったのと同時に、ミライの希望の光も脳内を通りかかる。

 ミライはそれをいち早く発見して、声の出る限り叫んだ。


「そこの人!上だ!上を見て!上!上!上……」


ミライは上と言う単語を連呼した。

 その叫びが聞こえたのか、通りかかった人がふと上を見上げた。

その瞬間、通行人の銀色の瞳が、ミライの瞳と一瞬だが交わった。

 そして、その瞬間を逃すまいと、ミライが全力で魔術名を叫んだ。


瞬間接近アプローチャーァア!」


ミライが叫んだ瞬間、ミライは地面の上に立っていた。

 咄嗟とっさの判断は、無事に成功したようだ。


「ありがとう。助かった……よ?」


ミライは、その通りかかった人にお礼を言おうとしたが、辺りを見渡しても誰も存在しなかった。

 ……あれ、あの子は一体どこに……。

そうミライが思った瞬間だった。

 空から何かが落下してきて、ミライに直撃した。

 ミライは、その落下物と共に地面に倒れこんだ。


「…………っつ……んん!?」


ミライは仰向けのまま、ミライの上に乗りかかる重い物に目を向け、言葉を失った。

 ミライに乗りかかったのは、綺麗な瞳の赤い髪の女の子だ。しかも馬乗りである。

その子の赤髪は長く、地面に付いているミライの手を毛先でくすぐるほどだ。

 そして、服装の黒いマントとローブを見る限り、同じ魔法使いだろうか。

 黒い服装に反比例している白い肌の表情は、これと言って落ち着いているようだ。

 しかし、今の体勢たいせいで落ち着かれても困るので、ミライは優しい口調で言葉を向けた。


「あの……えーっと……降りてくれる?」


「あっ……ごめんなさい」


そう言って、女の子は落ち着いてその場を立ち上がり、ミライとの距離を少しとった。

 ミライもその場を立ち上がり、服を軽くはらい、赤髪の女の子に目を向けた。

 立ち上がってみてみると、身長はミライとそこまで変わらない様だ。

 2人の間を時間だけが過ぎていく。

気まずい空気の中、最初に声を掛けたのはミライの方だった。


「あのー怪我は無い?大丈夫?」


「……大丈夫」


女の子から返ってきた言葉は、それだけだった。

 再び気まずい空気の中、一羽のからすがバサバサと飛んできて、女の子の肩にピタッと止まった。

 ミライはその肩に止まった鴉に目線を送り、再び女の子に声を掛けた。


「その鳥、君の?」


「そう。タットって言うの」


そう言いながら女の子は、鴉の首元を人差し指でくすぐった。

 そのタットと言う鴉も、気持ち良さそうな素振そぶりを見せる。


「ふーん、可愛いね。君の名前は?」


「……ネク」


ミライの質問に、ほほを赤めかせながら小声で返すネク。


「ネクか……。僕はミライ、職業クラスは魔法使いをしてるよ」


「……ミライ」


小声でミライの名前を復唱ふくしょうするネク。

 ミライは、すぐ近くに落ちている黒の魔法帽に気がつき、手に取った。

そして、その帽子に目線を送るネクに声を掛けた。


「そう、ミライ。……僕は急がなきゃいけないから。はいこれ」


ミライは黒の魔法帽を、ネクの頭にポンと乗せてあげた。


「……ありがとう」


「こちらこそ。それじゃあね」


ミライは、その言葉を最後に走り出した。

 ……とにかく目指すのは、この水で囲まれた街の外。

ナトレに合わなくては……。

 ミライは様々な思想の中、水の壁に向かって、夕焼けの街中を走って行った。

 ……一人、神殿の横で残されたネク。


「タット……鳴かなかったね」


「カァー」


ネクの呼びかけに答えるように鳴くタット。

 そして1人と1匹は、不思議なオーラをかもし出すミライの背中を、見えなくなるまで見届けたのだった。





 街中を全力で走り抜けて、ミライはこの街の入り口とも言える、水で出来た壁前に来ていた。

……前に来たのも、これくらいの夕暮れだっけか……。

 安全だと分かっていても、水をくぐるという緊張感から息をむ。

 実際に水で死にかけたのだから、無理も無いかもしれない……。

 ミライは心を落ち着かせたから、勢い良く水の壁を通り越した。


「……どうにか脱出は出来たな」


ミライは街の宮殿の方を振り向いて、一人呟いた。

 さて、ナトレを探さないと……。

そう思い、ミライは辺りに広がる大砂漠を見渡した。


「……何あれ」


大砂漠には相応ふさわしくない光景をミライはの当たりにして、思わず声をらす。

 ミライの目線の先には、もの凄い長さの女性の行列だった。

 そして、その行列の先端で何かをしているのは、ナトレとセーナの姿だった。

 ……一体何がると言うんだ……。

ミライは、何か嫌な予感を感じながらも、2人の方に向かって走っていくのだった。





 ナトレとセーナに直接話を聞こうとしたら、行列の後方の女性軍から「並べ」と野次が飛ばされまくったので、ミライは仕方なく、行列の最後尾に並んだ。

 これだけ並んでまでも手に入れる価値の物って……。

しかも、そんな物どうやって2人が手に入れたんだ。

ミライは色々考えながら、行列をゆっくりと歩み進める。

 そして、1時間を越える時間を費やし、ミライは2人の元へとたどり着いた。


「いらっしゃいませー。……って、ミライ!」


そう言ってセーナは驚いた表情を浮かべた。

ミライの存在に、ようやく2人は気がつき、ミライを行列から外させた。

 それにしても、今の今まで気づかれなかった僕って……。

そう思いながら、ついつい苦笑いを浮かべてしまうミライ。

 そんなミライに、セーナは小声で言葉を向けた。


「何か用なら、もう少しここで待ってて。もうすぐ終わると思うから」


そう言って、セーナは行列の方を見た。

 ミライの後ろにも、人が並びに並び、ざっと見て残り100人位だろうか。

 セーナはミライに目線を向けてから、再びナトレの元へと戻っていった。


「いらっしゃいませー。はい10リットルですね。500rpリピオンになります」


笑顔で接客するセーナとナトレ。

 来る人来る人は必ず10リットルと言って、ナトレは水袋を5つ渡してるだけ。

 この人数から毎回500rpなら……相当な金額になるな。

……一体、あの水袋の中には何が入っているのだろう。

それにしても、早く終ってくれないものだろうか……。

 ミライは、様々な思考と焦りの中、2人の行動をじっと見つめていた。 そして、待つこと更に30分。ようやく3人以外の人影が無くなった。


「相当儲かったわねぇ」


「本当に、いくら稼いだだろうね」


2人楽しく話すナトレとセーナ。

 そしてナトレは、ミライの方に目を向けて、苦笑いで声を掛けた。


「どうしたの?そんなに浮かない顔をして……一体どんなご用件で?」


 ……気がつけば、僕の表情は曇っていたらしい。

そしてナトレには、全てがお見通しのような口調になった。

 ミライは苦笑いの表情から、苦虫を潰したような表情をして、ナトレに弱々しい声を聞かせた。


「……単刀直入に言う。ナトレ……僕を、鍛えてください……」


ミライの言葉に、セーナは驚いた表情を見せた。

 ナトレは真剣な顔つきで、ミライに言葉を投げ掛けた。


「どうして急にそんな事を……」


ミライは、ナトレに無言であの手紙を手渡し、顔をうつむかせた。

 ナトレとセーナは、その一枚の手紙を広げて内容に目を通した。


「…………っ」


「……何よ……これ……」


ナトレは言葉が出てこず、セーナも絶句する。

 ミライは言葉を失う二人に、今までに起きたことを全て話し出した。


「……ミチと僕は王のグラムに会ってきた。僕を生き残らせるためか、ミチはグラムに捕まって…………僕は牢に入れられた。そして……その手紙を受け取って……牢から脱獄して、ようやくここに来た」


気がつけば、ミライの声はかすれ、涙を流しながら話していた。

 ……話しているのに浮かんでいるのは、グラムの前で見せたミチの表情……それだけだった。

 砂に手を付き、ぽたぽたと涙を浮かべるミライに、ナトレはゆっくりと近づいていった。

  そして、ミライの体をギュッと抱き寄せた。

 その体に心を委ねるように、ミライは泣け叫び、尖った声で呟き始めた。


「……何も出来なかった……たった一人すら守れなかった……」


胸の内で叫ぶミライを、我が子の様に抱きしめるナトレ。

 ミライはしばらくの間、大粒の涙を流し続けた。止めようと思ったが、出尽くすまで涙は止まることはなかった。

 今までおさえていた感情が、全て瞳の滴となって流れていく。

 そんな時が、日が暮れるまで続いたのだった。





 「セーナ、お皿並べといてね」


「はーい」


ナトレの問いかけに答えて、セーナはメニュー画面から丸皿を取り出して、地面に並べた。

 セーナとナトレの行動に目を配りながら、ミライが2人に声を掛けた。


「僕も何か手伝う事ない?」


「ミライーもう大丈夫なの?」


セーナは嫌味ったらしい笑顔で質問を質問で返す。

 それに乗りかかるように、ナトレもミライに言葉を向けた。


「本当に、さっきまで大泣きしていた人が突然手伝うなんてね。そうね……特に手伝わせる事もないし、のんびり待ってて」


「分かった。お言葉に甘えさせてもらうよ」


ミライの返答を受け取り、ナトレは再び料理の仕上げ工程に入った。

 ミライは、ただ呆然ぼうぜんとナトレの姿と砂漠の景色を眺めていた。

 もう日は落ちているが、セーナの魔法と星空のおかげで、遠くの大砂漠は美しい闇をまとっていた。

 ぼーっとしているミライに、何もする事のなくなったセーナが近づき、ミライの左側にゆっくりと腰を下ろした。

 そして、少し間を空けてからセーナが語りだした。


「……私はミライが泣いている時、ただ見つめる事しか出来なかった。ナトレはミライを優しく抱き寄せているに……って考えたら、私だって無力なの」


「…………………………」


ミライは言葉を返すことも、セーナの表情をうかがうこともできない。

 セーナは、小さく深呼吸をして再び話し始めた。


「でもね、別に無力って訳じゃないの。必ず誰もが、少しだけ力を持っているの。『思う力』……って私は小さい頃、そう教えてもらったんだ」


「『思う力』……か……」


「その思う力は、時として無力を有力に変える事が出来る。……だからミライ、諦めちゃダメなんだからね!」


「……セーナ、ありがとう」


この時、初めてミライは言葉を掛けたセーナに顔を向けた。

 セーナは遠い星空を見上げていた。何か過去を思い出しているかのようにも見える。

 ミライにおれいを言われたセーナは、少し硬直してから、くすぐったそうな表情を浮かべて口を開いた。


「べ、別に私はただ当たり前のことをしたまでで……別におれいなんか……」


セーナの恥ずかしそうな表情に、ミライは笑う。

 ……何だか、助けられちゃったな。


「セーナ、ミライ。食事出来たわよー」


程よいタイミングで、ナトレからの呼びかけが掛かった。

 ミライとセーナは顔を見合わせ、互いに笑って見せると、2人揃そろってナトレの元へと向かったのだった。





 「いただきます」


 「……いただきます」


張りの無い合掌で、食事が始まった。

 今日の料理は、残り物をほとんど混ぜ込んだシチューと、麦パンである。

 シチューには、魚介類から、肉、野菜に掛けて、様々な食品が入っている。

しかし、具沢山な割には、白の液体で白一色に染まっている。

……それにしても、もの凄く美味しい。

 静かなスタートを切った食事で、始めに口を開いたのはミライだった。


「そういえば、あの時一体何を売ってたの?行列凄かったけど……」


「あれは、水よ。2リットルの水袋にパンパンに水を入れて100リピ。そして、お一人様水袋5つまで」


ナトレは淡々と言葉を返した。

 ナトレの言うリピは、rpリピオンの略語だろうか。

 ミライは、軽く返事を返し、再び質問をした。


「それって、儲けになるの?」


「水袋自体が、1つ10リピもしないから……1人に付き最大450リピの儲けね」


ナトレは食事を進めながら、呟くように言葉を返した。

 ……1人につき450rpで、それが100人だと4万5千、もしも1000人だと……。

 ミライはもの凄い金額の料に、目をくらませた。


「そうね。今日だけで10万以上は稼いだわね」


「……凄い金額だな」


セーナの言葉に、ミライは呟く。

 ……考えるまでも無いが、販売した水は、僕が置いていったものだろう。

もっと早くに気がつけば……。

 ミライは少し後悔しながらも食事を食べ進めると、今度はナトレから質問が投げられた。


「そう言えば、ミライは鍛えて欲しいと言ったけど、どう鍛えて欲しいの?」


「それは……どうゆうこと?」


「そうねぇ……例えば、王を倒せる力が欲しい!とか……」


ナトレが次の例えを考え出す前に、ミライが迷い無く口を開かせた。


「3日後までに、ミチを無事に助け出す程度の力が欲しい」


ミライの言葉に、ナトレは満足げに笑みを浮かべた。


「そう。それなら、食後に作戦会議ね」


その言葉をミライに向けて、ナトレは一枚の紙と筆を取り出し、さらさらと紙に何かを書き始めた。

そしてナトレは、何かを書かれた紙をセーナに手渡すと、小声で言葉を向けた。


「セーナはその紙通りに買い出しに行ってきて。これ、代金ね。あと、もしも追ってくる人や怪しい人影が見えたら……買い物中断で逃げてきて構わないから」


「分かったわ」


ナトレから代金を受け取りながら、セーナは一言返した。

 ……そして、いつの間にか手元のシチューや麦パンは無くなり、食事の終了時間が来た。


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


3人は手を合わせて合掌した。

 合掌終了後、3人は同時に立ち上がり、食事中のほんわかな笑みを完全に消した。

 最初にセーナが口を開いて、2人の方を向いて話した。


「じゃあ私、買出しに行って来るね!」


「行ってらっしゃい」


ミライとナトレの言葉が重なってセーナに返されると、セーナは優しく微笑み、街に向かって走っていった。

 そして、セーナの背中を見届けた後、ナトレがフゥーっと息を吐き、ミライに向けて言葉を放った。


「さて、私達も行動に移しましょうか」


「そうだね。僕も頑張らないと……」


 2人は地面に座り、顔を見合わせる。

 ……ナトレは僕の顔をじっと見つめて、何かを考えている。

と、思ったら突然ナトレは立ち上がり、ミライに思わぬ言葉を向けた。


「とりあえず……そうね、全ての魔法を私にぶつけてみて」


「え……それは一体……」


 下手すれば死に追いやる魔法を、ナトレに向かって発動なんて出来るわけがない。

 しかし、そんなミライの気もお構い無しに、ナトレは再びミライに言葉を向けた。


「別に大丈夫だから。ほら、ためしに……何だっけ?ア……アペ……」


情報強制公開アペンシス


それ位ならと、ミライも立ち上がると、魔術をナトレの方に向かって発動した。

 そしてミライは、ナトレのステータスを見て言葉を失った。

 ……まず、レベルが80と明らかに高すぎる。

そして、それに見合ったHPとMPをね備えている。どちらも5千ジャストだ。

 属性は以外にも水で、職業クラスは……表示されていない。


(一体私の周りに何が見えているのかしら……)


 ミライは突然聞こえてきた声に、驚きの表情を見せた。

 ナトレの事をずっと見ていたが、間違いなくナトレの口は動いていない。

……今聞こえたのは、間違えなくナトレの内心の声だ。

 前エリアのボス戦以来だが、一体どうして今更……。

 ミライが複雑な表情を浮かべていると、ナトレから声が掛けられた。


「どう?私はどんな風に見えるの?」


「……レベルが80で、体力、魔力共に5000。ハッキリ言って、強すぎる……」


ミライは正直な感想を返した。

 ナトレの質問は続けざまに投げられる。


「ふーん。その体力とか魔力とかは見えっぱなしなの?」


「魔法を解除するか、僕との一定距離を取られると見えなくなる」


ミライは今までの経験上での判断で話した。


「そう」(相当使える技ね……)


「……解除」


ミライは、ナトレの情報をのぞくのを止めた。

 ……何だか、人の心情は知ってはいけない気がする。

それと、心声しんせいはそれなりにハッキリと聞こえるので、何だか気持ちが悪い。

だから解除した。


「あら、どうして魔法解除するの?」


「別に見なくても、問題ないって思ったから……」


ナトレの声掛けに対して、軽く誤魔化ごまかすミライ。

 ナトレはミライの表情をうかがって、再び意見を言った。


「体力が見えてるのなら、私の体力の減り具合で他の魔法の威力差がわかるのだけど」


「……ほら、あれだよ。この情報強制公開アペンシスは、相手のが見えてる間は、魔力消費するから……」


ミライは再び強引に誤魔化しを入れる。

 少し慌てるミライをセーナはじっと見つめて、苦笑いを浮かべてから再び話し出した。


「ふふっ。……まぁ、いいわ。それよりも、私の強さが分かったんだから、早いとこ本気で魔法をぶつけなさい」


「……死んでも僕は知らないからな!」


そう言って、ミライは素早くメニュー画面から箒を取り出し、右手に持った。

 ミライの言葉を聞いても、ナトレは余裕の笑みを浮かべている。

 ……そこまで言うんだったら、本気でやってやる!

 ミライは箒を空に向かってかかげて、叫び声を上げる。


「ぬおおおおおおおおおお……燃盛る変化球フゲネス・フレイム!」


ミライの足元には、ナトレの足元まで延びる巨大な魔方陣が描かれる。

 ナトレの頭上には、巨大な火炎球かえんだまがメラメラと燃えている。

だがしかし、ナトレは表情を緩める事は無い。

 ミライは、手に持つ箒を前に突き出し、再び叫んだ。


「いけぇええええええええ!」


……こうして、ミライの魔力検査が開幕したのだった。

しっかり一週間書かせていただきました。

個人的には、こちらの方が楽しく書けたと思いますし、何より気分が良いです!


さて、今回出てきたネク。これも抹茶さんからの頂き物です。

地味に一番気に入ってますね。一番普通の子ですし……。


一応、1万文字超えてます。読み終えお疲れ様でした。

毎週こんな感じになります。オーバー10000です!

本当に、思ったよりも楽しく書けたので、今後もこんな感じにしようと思います。


では、また次の投稿で。後書きでした。

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