1/1
逃げ口上
自分はかつて「どざえもん」と呼ばれるものを見たことがある。
川釣りをしていたときに、大物がかかったと勘違いして釣り上げてしまったのだ。
そのどざえもんは水面近くまで浮くとくるりと腹を上にし、その姿を現した。
自分は怖くなって釣竿を川の中に投げ入れた。もちろんどざえもんはそのまま川を流れてしまった。
家に帰って、釣竿をなくしたことを親に怒られ、落ち着いた後になってようやく警察に事情を話せた。
後で聞かされた話なのだが、入水した人の死体だったそうだ。つまるところは自殺である。
そのどざえもんを思い返して今思う。
ひどいものであった。
鼻は削り取られ、皮膚はただれ、腹は膨れ上がり、人間のそれとは大きくかけ離れた姿をしていた。
見る影も無いほどに無残な姿だ。
ああいうふうにはなりたくないものだ。
生来から醜い自分のことである。
自ら命を絶ってなお、さらに醜い姿を晒すことなど自分にはとても耐えられない。
それこそ死んでも死に切れぬ。