『最弱Eランク?___いいえ、”測定不能”です。』∞幼女、世界を壊さず支配する。
あらすじ
コンビニで働く平凡な青年は、ある夜、暴走するトラックから少年を庇い命を落とす。
——次に目を覚ましたとき、彼は異世界で幼女「ルミナ・アルシエル」として転生していた。
だが、その力は常識外れだった。
すべての能力値は“∞”。測定不能。規格外。
ギルドでは最弱のEランクと判断されながらも、災害級の魔物を一瞬で消し去る。
その存在はやがて、貴族、ギルド上層部、そして世界の裏側へと波紋を広げていく。
やがて明かされるのは——
彼女が“ただの転生者ではない”という真実。
世界を維持し、同時に終わらせ得る存在。
何度も繰り返される世界の中で、それでも彼女は選び続ける。
「壊さないよ。別に、その方がいいし」
これは、終わらなかった世界と、
終わらせなかった少女の物語。
柔らかい。
最初に感じたのは、それだった。
温かくて、沈み込むような感触。
身体の輪郭が、どこか曖昧で——
まるで何かに包まれているみたいだ。
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ゆっくりと、意識が浮かび上がる。
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——ここは、どこだ。
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目を開けようとして、まぶたの重さに気づく。
何度か瞬きを繰り返して、
ようやく視界がひらけた。
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知らない天井だった。
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木の梁。
白い壁。
どこか温もりのある空間。
でも——
見覚えは、ない。
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「……?」
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声を出そうとして、違和感に気づく。
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「ぁ……」
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かすれた音。
そして、気づく。
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——高い。
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いや。
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高すぎる。
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自分の声じゃない。
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慌てて身体を起こそうとして、
思うように力が入らない。
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腕を持ち上げる。
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視界に入ったそれを見て、
思考が止まった。
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小さい。
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指が短い。
手のひらが丸い。
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ぷに、と触れると、
柔らかく沈んだ。
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(……子供?)
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いや、違う。
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それどころじゃない。
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(……は?)
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頭の中に、記憶が浮かぶ。
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コンビニ。
夜勤。
レジ。
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いつも通りの、退屈な仕事。
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それから——
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眩しいライト。
ブレーキ音。
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目の前で固まっていた、少年。
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「……っ」
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胸の奥が、ひやりと冷える。
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自分は、あのとき——
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「……死んだ?」
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そう言ったつもりだった。
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でも。
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「ぁぅ……」
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出てきたのは、幼い声。
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決定的だった。
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「目を開けたわ……!」
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すぐ近くで、女の声。
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視線を向ける。
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知らない女性が、こちらを覗き込んでいた。
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涙ぐんだ瞳。
ほっとした表情。
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綺麗な人だと思った。
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「よかった……本当に……」
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震える声でそう言いながら、
頬に触れてくる。
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温かい。
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妙に、現実的な温もり。
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(……誰?)
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分からない。
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でも。
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怖くはない。
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むしろ——
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大切なものを見るみたいな目だった。
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そのとき。
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頭の奥で、“何か”が動いた。
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《個体認証完了》
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無機質な声。
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直接、意識に響く。
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(……なにこれ)
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周りを見る。
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誰も反応していない。
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つまり——
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自分だけに聞こえている。
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《特典スキル付与を開始します》
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嫌な予感しかしない。
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だが、止まらない。
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《全属性魔法 取得》
《無限成長 取得》
《時間操作 取得》
《因果干渉 取得》
《運命改変 取得》
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(いや)
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(多すぎでしょ)
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思わずツッコミそうになる。
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でも。
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全部、分かる。
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意味も。
使い方も。
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だからこそ、おかしい。
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(何これ……)
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そのとき。
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胸の奥に、“何か”があるのに気づく。
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静かで。
深くて。
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底が見えない。
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試しに、ほんの少しだけ意識を向ける。
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——瞬間。
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空間が、きしんだ。
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見えないのに。
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“歪んだ”と分かる。
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世界が、ズレたみたいに。
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(……やば)
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すぐに意識を引っ込める。
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元に戻る。
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何もなかったみたいに。
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鼓動が早い。
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この小さな身体でも、ちゃんと分かる。
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(これ、普通じゃない)
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当たり前だ。
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死んで。
目が覚めたら幼児で。
意味不明な能力つき。
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まともなわけがない。
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でも——
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不思議と、落ち着いていた。
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(……まあ、いっか)
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ぽつりと思う。
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一度、死んだ。
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だったら、ここから先は“おまけ”だ。
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それに。
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さっきの“力”。
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あれは危ない。
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使い方を間違えたら、
たぶん——取り返しがつかない。
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だから。
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(……出さない方がいい)
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自然に、そう思えた。
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意識を奥に沈める。
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力を抑える。
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それだけで、静かになる。
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何もなかったみたいに。
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「……あぅ」
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声を出してみる。
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やっぱり幼い。
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でも、それでいい。
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今は——これでいい。
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視線を上げる。
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女性が、まだ見ている。
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今度は、やわらかな笑顔。
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「ルミナ……」
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その名前を呼ぶ。
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胸の奥が、わずかに反応する。
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(……ルミナ)
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それが、自分の名前らしい。
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少しだけ、確かめる。
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悪くない。
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むしろ、しっくりくる。
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「ルミナ、いい子ね」
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頭を撫でられる。
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温かい。
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安心する。
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理由は分からない。
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でも——
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嫌じゃない。
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(……まあ、いいか)
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また、同じ結論。
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分からないことだらけ。
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でも。
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焦る必要はない。
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時間は、たぶんある。
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ゆっくりと、まぶたを閉じる。
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意識が沈む。
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その奥で。
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ほんの一瞬だけ。
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何かが、揺れた。
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まるで——
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“目覚めたこと”を、
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どこかで誰かが、認識したみたいに。
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それはまだ、誰も知らない。
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この小さな少女が、
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世界の前提そのものを揺るがす存在であることを。
世界を壊せるけど、壊さないだけ。




