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詩小説へのはるかな道 第28話 透明な血と火星語の本

作者: 水谷れい

原詩: 悲しみの指輪は銀河の彼方 ー 意識に挟まれた無意識の詩


音にできないメロディーがある

絵にできない幻想がある

言葉にできない感情がある

教会はなんのためにあるのだろう

学校はなんのためにあるのだろう

星はなんで輝いているんだろう

時はなんで戻らないんだろう


追えば追うほど遠ざかるもの

風を捕らえようとする男

夢の中で見た詩集

愛し合っているはずの相手の心

そして自分の心

止まった振り子をみつめる女

水中でマッチをすっている女

いつか迎えに来る王子様を待っている少女

ダイスを振ってる男

アイスを食べてる少年

それを見ている母親

赤はとっても悲しい色

緑はよく見ると紫色に見えてくる

カミソリで指を切ったら

透明な血が流れた

ナイフにうつした顔は銀

スプーンにうつした太陽は黒

フォークの隙間からのぞいたら

牧場の牛がキスをしていた

ニッケル製のセロテープ

鉄でできたスポンジ

消せば消すほど大きくなるしみ

読もうと思ってもこの本は火星語の本

ピアノの鍵を叩いたら

サインペンのキャップがなくなった

誰かを呼ぼうと思ったけれど

名前を忘れてしまった

とっても大きな海

魚は空を飛びたがっていた

青色のリボン

空はなんで泣いているんだろう

春があくびして

夏が風邪をひいた

秋がお見舞いにやってきて

冬は眠っていた

金星の舞踏会

土星が冠をはずした

木星は頭痛もち

地球のダンス

犬と猫が結婚した

イルカを恋したスズメ

朝が来るのを待っている夜

朝はとても怖がりでベッドでぐずぐずしている

くるみ割りで頭を割っている人形

鈴のついたネズミ……


自分を信じられないとき

いったい誰を信じたらよいのだろう

悲しみの指輪は銀河の彼方

一億年の眠り

明日にも地球は滅びるかもしれない


ーーーーーーー


詩小説:透明な血と火星語の本


ある日、少年は名前を忘れた。

それは突然のことだった。

声に出そうとして、口元まで言葉が来たのに、音にならなかった。

母親がアイスを食べる彼を見ていたが、彼女の瞳もどこか遠くを見ていた。


少年は家を出て、教会へ向かった。

けれど、扉の前で立ち止まった。

「教会はなんのためにあるのだろう」と思ったからだ。

祈るため? 赦されるため? それとも、名前を思い出すため?


風が吹いた。

風を捕らえようとする男がいた。

少年はその男に尋ねた。「名前を忘れてしまったんだ。どうしたら思い出せる?」

男はダイスを振った。「出た目が6なら、思い出せるかもしれない」

出たのは3だった。


少年は歩き続けた。

学校の前を通った。

「学校はなんのためにあるのだろう」と思った。

学ぶため? 忘れるため? それとも、名前を交換するため?


図書室に忍び込んで、一冊の本を開いた。

けれどそれは火星語で書かれていた。

読もうと思っても読めなかった。

ページの隙間から、牧場の牛がキスしている絵が見えた。

ピアノの鍵を叩いたら、サインペンのキャップがなくなった。

代わりに、青色のリボンが現れた。

少年はそれを首に巻いた。

少しだけ、自分の名前に近づいた気がした。


空は泣いていた。

春があくびして、夏が風邪をひいていた。

秋がお見舞いにやってきて、冬は眠っていた。


少年は空を飛びたがっている魚に出会った。

「名前を忘れたんだ」と言うと、魚は言った。

「それなら、悲しみの指輪を探すといい。銀河の彼方にあるよ」


少年は旅に出た。

ニッケル製のセロテープと鉄でできたスポンジを持って。

途中で、くるみ割りで頭を割っている人形に出会った。

彼女は言った。「名前なんて、最初からなかったのかもしれないよ」


少年は考えた。自分を信じられないとき、誰を信じたらいいのだろう。

風? 魚? 人形? それでも、それでも、空を見て泣いている自分自身?

そして、少年は気づいた。

名前は、音にできないメロディーだった。

絵にできない幻想だった。

言葉にできない感情だった。

だからこそ、忘れてしまったのではなく、最初から「持っていた」のだ。


少年は空を見上げた。

星が輝いていた。

時は戻らなかったけれど、朝はやってきた。

怖がりでベッドでぐずぐずしていたけれど、ちゃんとやってきた。

そして少年は、名前の代わりに、青色のリボンを結び直した。

それが、彼の「名前」になった。


=====


わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。


連作短歌:透明な血と火星語の本


Ⅰ 忘却のはじまり

• 名前とは 口に届いて 音にならず 母の瞳は 遠くを見たり

• アイス溶け 少年の舌に 甘き影 呼べぬ名こそ 冷たき記憶

• 教会の 扉の前に 立ち止まり 祈りか赦し 名を呼ぶためか

• 風の中 ダイスを振れば 三の目に 思い出せぬと 風が笑えり

• 忘却は 突然訪れ 少年の 胸に沈みて 青き影なる


Ⅱ 学びと火星語

• 学ぶため 忘れるためか 学校は 名を交換す 場所かと問えり

• 図書室に 忍びて開く 火星語の 本は読めずに 夢を隠せり

• ページより 牛の口づけ 滲み出て 異国の言葉 絵に変わりたり

• ピアノ鍵 叩けば消える キャップより 青きリボンの 名が立ち上がる

• 首に巻き 少し近づく その名へと 青のひかりは 少年を包む


Ⅲ 季節と魚

• 空泣けり 春はあくびし 夏は風邪 秋は見舞いに 冬は眠れる

• 魚飛ぶ 空を望みて 少年に 銀河の彼方 悲しみの指輪

• 旅に出る ニッケルの帯 鉄の泡 奇妙な道具 名を探しゆく

• くるみ割り 頭を割りて 人形は 名は初めより 無きものと言う

• 信じられぬ 己を問いて 風か魚か 人形かまた 泣ける空かも


Ⅳ 気づきと朝

• 名とはただ 音にならぬ 旋律で 絵にもならずに 言葉を拒む

• 忘れたに あらず持ちたり 最初から 胸に秘めたる 不可視の響き

• 星輝き 時は戻らず 朝来たり 怖がるベッド ぐずぐずのまま

• それでもや 朝は訪れ 少年の 瞳に映る 光の確か

• 青リボン 結び直して その名とす 忘却の果て 新たに生きる

詩をショートショートにする試みです。

詩小説と呼ぶことにしました。

その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。

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