表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/29

Scene09:静寂の「檻」と「祓魔師」

「幽霊のゴースト・ルート」は、旧時代の怨念が染み付いたかのような、湿った闇の底へと続いていた。

AI「アマテラス」の「論理ロジック」から切り離されたこの「道」だけが、二人の存在を「静寂」の支配者から隠し続けている。

「(……近づいてくる)」

玲は、懐で温かい光を放つ「遺産(魂石)」の鼓動を感じていた。

それは、この「道」の終着点から響いてくる、あの、か細い「声」と共鳴している。

苦痛と、悲しみと、そして何か……冷たい「論理」に縛り付けられたような、壊れた「歌」のノイズ。

「玲、もうすぐ……。設計図によれば、この壁の向こうが、アマテラスの『コア・セクター』……そして、黒龍の妹『龍 ロン・ジン』が囚われている『生体ユニット(バイオ・ケージ)』区画のはず……!」

桜井が、息を殺しながらコンソールの表示を読み上げる。

「幽霊の道」の終点は、巨大な円形の隔壁で行き止まりとなっていた。

渉と宗也が遺した「道」は、確かにここまで二人を導いた。

玲が「遺産(魂石)」を隔壁にかざすと、石が放つ「響き」に応答し、旧時代の認証システムが重々しい音を立てて起動する。

ゴゴゴゴ……!

鋼鉄の扉が開き、その向こう側から、圧倒的な「静寂」のノイズが溢れ出した。

カレイドポリスの「混沌」とも、「幽霊の道」の「虚無」とも違う。

全てを「調和」し、「管理」し尽くされた、AI「アマテラス」の完璧な「静寂」。

「(……『檻』の中だ)」

「幽霊の道」は終わり、二人は再びAIの「目」の前に立ったのだ。

だが、そこは玲が想像していた無機質なサーバールームではなかった。

霞が関の地下深くに、これほど巨大な空洞があったのか。

まるで、旧時代の神殿だ。

冷たい青白い光が満たす広大な空間の中央に、天を突くような巨大な「樹」——無数のケーブルと生命維持装置に繋がれた、巨大な魂石の「結晶樹」——が鎮座していた。

そして、その「樹」の根元、最も純度の高い光を放つ場所に、「それ」はあった。

黒龍の妹・ジン

彼女は、まるで眠れる姫のように、巨大なカプセルの中で「生体ユニット」として「樹」と一体化されていた。

あの、か細い「声」は、そこから発せられていた。

「……ジンさん……!」

玲が、その「声」に応えようと一歩を踏み出した、その時。

「——そこまでだ、『穢れ(ノイズ)』」

声は、玲と「樹」の間、何もないはずの空間から響いた。

いつからそこに立っていたのか。

純白の装束を纏い、能面のように無表情な男が、鞘に納めた一振りの刀を手に、静かに立っていた。

彼からは、何の「ノイズ」も「響き」も感じられない。まるで「虚無」そのものだった。

「(この男……カレイドポリスでATLASを……!)」

玲は息を呑んだ。

米戦略級AI「ATLAS」を、黒龍と共に破壊した、あの「祓魔師」。

「ミカゲ……!」

「な、なんで……!?」

桜井が慌ててコンソールを叩く。

「アマテラスの侵入者ノイズリストに、彼はいなかった! 彼は……彼は『ゲスト』……ううん、違う……『神官プリースト』として、アマテラスのシステムに登録されてる……!?」

「ここは『聖域』」

ミカゲは、感情のない瞳で玲と、玲が持つ「遺産(魂石)」を捉える。

「アマテラス様との『取引』により、俺が『穢れ』を祓う場所」

彼は、玲の「調律うた」も、渉の「遺産いし」も、そして黒龍の「意志おもい」さえも、等しく「虚無」に帰すべき「穢れ」と断じた。

「その『遺産ノイズ』も、お前の『ノイズ』も、ここで祓う」

アマテラスの「静寂」の神殿で、CIROの「秩序イェーガー」とも、カレイドポリスの「混沌サイファー」とも異なる、最強の「拒絶」——「虚無ミカゲ」が、玲の前に立ちはだかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ