Scene05:欲望の坩堝の勝者
淡い光を放つ「魂石のプロトタイプ」。
玲は、イェーガーと黒龍が睨み合う緊張の糸を無視し、台座に歩み寄り、そっと「遺産」に手を伸ばした。
「——『汚染源』! それを渡せ!」
玲が「遺産」を掴んだ、その瞬間。
イェーガーが、CIROの「秩序」の全てを込めた渾身の突きを繰り出す。玲の「処分」と「遺産」の確保、二つの任務を同時に遂行するための一撃。
だが、その一撃が玲に届くことはなかった。
ゴッ、と鈍い音が響く。
黒龍が、イェーガーの突きを真正面から受け止めていた。いや、受け止めたのではない。イェーガーの「秩序」のノイズを、黒龍の「渾元力」という圧倒的な「意志」のノイズで殴りつけたのだ。
「貴様もCIROの敵か!」
イェーガーが、渾元力の衝撃に顔を歪ませながら後退する。
「俺の目的はそれ(遺産)だ。だが、それ以上にお前(CIRO)の『秩序』が気に食わん」
黒龍は玲を背にかばうように立ち、イェーガーと対峙する。
「(黒龍……!)」
玲は、手にした「遺産(魂石)」が、まるで生き物のように温かい「響き」を放っているのを感じていた。
「行け」
黒龍が、背後の玲に短く告げる。
「!」
「そいつが、妹を救う鍵でもあるのだろう」
黒龍は、玲が開けた扉と、玲が手にした「遺産」を見て、全てを悟っていた。
この「遺産」は、力ずくでは手に入らない。そして、これを使えるのは、ここにいる「調律者」ただ一人。
霞が関のAI「アマテラス」に囚われた妹・晶を救うためには、玲の「調律」と、彼女が手にした「鍵(遺産)」が必要不可欠だと。
「この貸しは、霞が関で返せ。……俺の妹を救って、だ」
「……分かった!」
玲は黒龍の「意志」を受け取り、強く頷く。
「逃がすかァッ!」
イェーガーが、玲を逃がそうとする黒龍に再び襲いかかる。CIROの「秩序」の体術と、黒龍の「意志」の渾元力が激突し、金庫室そのものが崩壊を始める。
玲は、二人の激突が生んだ「混沌」の中を駆け抜ける。
AI「アルゴス」のドローン群が、制御不能となった二つの「ノイズ」(黒龍とイェーガー)の鎮圧に集中している。その隙を突き、玲は「タルタロス」を逆走し、スタッフ用のエレベーターへと飛び込んだ。
上昇するエレベーターの中で、玲は「遺産」を強く握りしめた。
「鉄の味」も「腐肉の味」もしない。
ただ、温かく、そしてどこか懐かしい「渉」の記憶の響きだけが、玲の魂を満たしていた。




