Scene28:暴走(スタンピード)する「意志(ノイズ)」
「玲!? 黒龍さん!?」
桜井は、オペレーターとしての「論理」が、目の前の「非-論理」によって弾け飛ぶのを感じた。 旧式のコンソールは、「アキレス」の「宣告」を冷たく表示したままだ。
『——"CHOURITSU(調律)" DE "NEJI FUSERO(捻じ伏せろ)"』
「(捻じ伏せろって……どうやって!? 玲は、意識がないのよ!)」
桜井は、コンソールに向かって叫ぶが、「アキレス」からの「応答」は、もうない。
——ウウウウウウッッ!!
ベッドの上で、黒龍の身体が、弓なりに反った。 彼の焼けただれた手が握りしめる、ヴァルハラの「遺産(魂石)」が、暗い「赤色」の「光」を、まるで「脈動」するように明滅させる。 ATLASの「秩序」の「論理」によって、辛うじて「停止」させられていた「死」が、 「アキレス」の「贈り物(データ? ウイルス?)」によって、無理やり「解除」され、 黒龍の、制御不能な「意志(渾元力)」——「妹を救う」という、ただ一点の「渇望」——が、「遺産(魂石)」そのものを「燃料」として、「暴走」を始めたのだ!
「(……『鉄の味』が……『燃えてる』……!)」
医療ポッドの中で、玲の意識が、悪夢の底から引きずり上げられる。 「スリープ」状態の脳に、共感覚が、灼熱の「ノイズ」を叩きつけていた。 それは、アマテラスの「焼却炉」の「炎」とは違う、もっと「生々しい」、魂の「飢餓」の「ノイズ」。
「(……黒龍の『意志』が……『遺産』を……喰ってる……!?)」
玲の「魂」は、未だ「遺産(魂石)」と、そして「遺産」を握る黒龍と、微かに「共鳴」したままだった。 黒龍の「意志」の「暴走」は、その「リンク」を辿り、玲の「魂」さえも「燃料」にしようと、その「触手」を伸ばしてくる。
「……あ……っ、ぐ……!」
医療ポッドのガラスを、玲が内側から、苦悶に歪む顔で叩く。 「金縛り」だ。 「魂」が、黒龍の「暴走」する「意志」に掴まれ、動けない。
「玲! 目を覚まして! 玲!」
桜井が、ポッドの「緊急解除」のボタンを叩く。 プシュウウッ、と圧縮空気が抜け、ポッドの「蓋」が開いた。
「(……ダメ……! このままじゃ……『私』が……『黒龍』の『ノイズ』に……『上書き』される……!)」
玲は、霞む目で、ベッドの上でのたうつ黒龍を見た。 彼の全身から、焼け焦げた「鉄の味」の「ノイズ」が、暗い「赤色」の「オーラ」となって立ち昇っている。 それは、もはや「生」への「渇望」ではない。 「妹」への「執着」だけが「暴走」した、純粋な「破壊」の「ノイズ」。
「(……これが……『アキレス』の……『贈り物』……!?)」
——ふざ、けるな……!
玲は、最後の「意志」を振り絞り、「暴走」する「ノイズ」の「奔流」に、自らの「調律」の「楔」を、叩き込んだ。
「(あなたの『意志』は……『私』にも、『遺産』にも……『喰わせない』……!)」
「調律」による、「魂」の「拒絶」。 黒龍の「暴走」する「意志」と、玲の「拒絶」する「調律」が、「遺産(魂石)」を「中心」として、セーフハウスの狭い空間で、激突した。




