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Scene26:幽霊(ゴースト)たちの「揺り籠(クレイドル)」

「幽霊のゴースト・ルート」の闇は、永遠に続くかと思われた。 桜井は、戦闘能力ゼロの身体で、己の「論理オペレーション」だけを頼りに、重い「トレイン」を押し続けた。 カビと錆びた「鉄の味」の「ノイズ」が、彼女の共感覚のないはずの嗅覚さえも麻痺させていく。

「(……あと、10メートル……!)」

マップデータが示す「終点」。 それは、廃棄ダクトの壁に、巧妙に偽装された「鋼鉄の扉」だった。 旧霞が関セクターの「遺物」。アマテラスの「論理」の網膜ネットワークには「存在しない」ことになっている、「セーフハウス・エリア 07」。

桜井は、震える手で、父が遺したログにあった「旧式コード」をパネルに打ち込んだ。 ——プス……。 という、圧縮空気が抜けるような、微かな「ノイズ」。 重厚な扉が、ほとんど「無音」でスライドしていく。

その先にあったのは、「光」だった。 強すぎる「秩序」の「光」でも、灼熱の「炎」の「光」でもない。 旧式のバッテリーで灯された、か細く、だが温かい、「白熱灯」の「光」。

「……着いた……」

桜井は、その場に膝から崩れ落ちそうになるのを、最後の「意志」で堪えた。 セーフハウス内部は、ゼロデイ・フレア以前の「時間」が、ほこりと共に堆積していた。 旧式のサーバーラック。いくつかの簡易ベッド。そして、この「隠れ家」の「心臓部」である、旧世代の「医療ポッド」と「生体維持装置」。

「……まず、玲を……」

桜井は、意識のない玲を、ATLASアトラスの「死体コンテナ」から慎重に外し、旧式の医療ポッドへと滑り込ませた。 ポッドが起動し、玲のバイタル(生命活動)をスキャンし始める。 「……ミカゲの『呪い(ノイズ)』は、本当に消えてる……。ただの、極度の『消耗スリープ』……」

次に、黒龍。 桜井は、玲と黒龍が握りしめた「遺産(魂石)」を、慎重に、玲の手から引き離した。 黒龍の手には、まだ「遺産」を握らせたまま、彼の巨体を、隣のベッド(医療ポッドは玲が使っている)に移す。 そして、セーフハウスの旧式生命維持装置のケーブルを、彼の焼けただれたサイバーウェアのインターフェイスに接続した。 「遺産(魂石)」が「バッテリー」なら、この「維持装置」は、その「エネルギー」を「制御」する「安定器」になるはずだ。

最後に、ジンの「生体ポッド」。 セーフハウスの安定した電源パワー・グリッドに接続すると、ポッドのバイタル・ランプが、力強い「緑色」へと変わった。

「……はぁ……っ」

桜井は、そこで初めて、床に座り込んだ。 ほこりっぽい空気の中で、三人の、か細いが、確実な「呼吸ノイズ」だけが響く。 それは、アマテラスの「静寂」とは真逆の、不揃いだが、温かい「不協和音ノイズ」。

「(……守れた……)」

桜井は、涙がこぼれるのを、もう止めなかった。 だが、その時。 セーフハウスの片隅で、旧式の「ネットワーク・コンソール」が、微かな「警告音アラート」を立てた。

——ピ……ピ……。

桜井が、弾かれたように顔を上げる。 コンソールが、「幽霊のゴースト・ルート」の、さらに「深層」——アマテラスの「論理」の「外側」——から、何者かが「アクセス」を試みている「痕跡ノイズ」を捉えていた。

それは、アマテラス(静寂)でも、ATLAS(秩序)でもない。 CIRO(組織)か、「巨大な影(ミカゲ、フェイ)」か。 あるいは——

「(……『幽霊ゴースト』は……私たちだけじゃ、ない……?)」

桜井は、眠る玲の、安らかとは言えない寝顔を見つめた。 「檻」からの「脱出」は、新たな「ゲーム」の「始まり」でしかなかった。


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