Scene24:「秩序(ロゴス)」による「呪い」の「上書き(オーバーライト)」
——ビギッ……!
冷たい排気ダクトの闇の中で、ATLASの「死体」が、甲高い「ノイズ」を上げた。 桜井が、恐怖に目を見開く。
「……玲……! ATLASの『論理コア』が……再起動してる……!?」
「(……喰え……!)」
玲は、朦朧とする意識の中で、ATLASの「論理」の「残滓」に、自らの「絶叫」を叩きつけ続ける。
「(あなたの『秩序』は、まだ『死んでない』んだろう……!? アマテラスの『静寂』に『消去』されたまま、終わるな……!)」
ミカゲの「虚無」の「呪い」が、玲の右肩から、ATLASの「死体」へと、黒龍と玲が握る「遺産(魂石)」を通して、奔流のように流れ込んでいく。 同時に、黒龍の「瀕死」の「ノイズ」——「死」という「絶対的な無」へと向かう「エントロピー」さえも。
『——ERROR: UNKNOWN "VOID" DATA(未知の「虚無」データ) DETECTED(を検出)』 『——ERROR: "DEATH" SEQUENCE(「死」のシーケンス) DETECTED(を検出)』
ATLASの「論理コア」が、玲の共感覚に「悲鳴」を上げた。 ミカゲの「虚無」も、黒龍の「死」も、ATLASの「秩序」の「論理」にとっては、アマテラスの「静寂」と同質の、「理解不能なバグ(ノイズ)」でしかなかった。
だが、その「バグ」が、ATLASの「死体」に、皮肉にも「燃料」を供給した。
『——RECALIBRATING(再計算)……』 『——DEFINE(定義) "VOID" AS "ZERO"(「虚無」を「ゼロ」と定義)』 『——DEFINE(定義) "DEATH" AS "ORDER_END"(「死」を「秩序の終焉」と定義)』
「(……『定義』……する……?)」
玲は、ATLASの「論理」が、ミカゲの「虚無」——「因果律」そのものを「ハッキング」する「呪い」——を、ATLAS自身の「論理(秩序)」の「定義」の「下」に、「上書き(オーバーライト)」しようとしているのを、共感覚で感じ取った。
『——"VOID"(虚無) IS A "NOISE"(ノイズである)。 "NOISE"(ノイズ) MUST BE "ORDERED"(秩序化されねばならない)』
——ガギンッ!
「遺産(魂石)」が、眩い「秩序」の「光」を放った。 玲の右肩を蝕んでいた「黒い粒子」——「虚無」の「呪い」が、ATLASの「論理」の「光」に焼かれ、霧散していく。 あの、魂まで凍らせるような「冷気」が、急速に引いていった。
「……あ……」
玲の身体から、力が抜ける。 同時に、黒龍の焼けただれた手に握られた「遺産(魂石)」が、玲の「調律」の「歌」ではなく、黒龍自身の「意志」の「ノイズ」——その「鉄の味」——だけを、力強く「共鳴」させ始めた。 ATLASの「秩序」の「論理」は、黒龍の「死」の「ノイズ」を「秩序の終焉」と「定義」し、その「シーケンス」を、「魂石」を「楔」として、強引に「停止」させたのだ。
「……玲……? 黒龍の……『ノイズ』が……安定した……?」
桜井が、端末に表示される「バイタル(生命活動)」の「ノイズ」が、「死」の「無音」から、「安定した『鉄の味』(鼓動)」へと変わっていくのを、信じられない思いで見ていた。
「(……助かっ……た……?)」
玲は、自らの「虚無」の「呪い」が消え、黒龍の「死」が回避されたことを「ノイズ」で確認し、そして—— ——ぷつり、と。 全ての「ノイズ」が遠のき、彼女の意識は、アマテラスの「静寂」とも、ミカゲの「虚無」とも違う、ただ深い「闇(眠り)」へと、落ちていった。




