Scene22:焼却炉(インシネレーター)の「道」
「——行くよ!」
玲は、ミカゲの「虚無」に侵された肩の激痛を、アドレナリンで無理やり押さえ込む。 桜井と二人、晶の「生体ポッド」を押し、意識のない黒龍を「ATLASの死体」の台車に乗せ、停止した清掃ドローンが転がるメンテナンス通路を疾走した。
「焼却炉」エリアは、地獄のような熱気が渦巻いていた。 「三重奏」の「共鳴」は、アマテラスの「論理」を一時的に麻痺させたが、それは「焼却炉」の「火」までを消したわけではなかった。
ゴオオオオオオッッ!!
通路の両側から、青白いプラズマの炎が、まるで生き物のように「ノイズ(玲たち)」を焼き尽くそうと吹き荒れている。
「ダメ……! この熱じゃ、ポッドの『生体維持』が……!」 桜井が、ポッドの温度計が急上昇していくのを見て、絶叫した。
「(……『調律』する……!)」
玲は、黒龍を乗せたコンテナを桜井に任せ、自ら晶のポッドの前に立った。
「(この『炎』も……アマテラスの『論理』の『ノイズ』……!)」
玲は、左手に握る「遺産(魂石)」——未だ黒龍の「意志」と微かに共鳴し続けるそれを、灼熱の炎に向けた。 「歌」を歌う余裕はない。 ただ、自らの「魂」の「響き」を、炎の「ノイズ」に「共鳴」させ、その「熱量」の「ベクトル」を、捻じ曲げる。
——ジュウウウウッ!
玲の周囲だけ、プラズマの炎が、まるで見えない「壁」にぶつかるかのように、避けていく。 だが、その「調律」の負荷は、玲の精神と肉体を、内側から焼き焦がしていく。
「……くっ……!」 ミカゲに斬られた肩から、「虚無」の冷気と「調律」の「熱」がぶつかり合い、玲の意識が白く染め上がった。
「玲! しっかりして! あそこ! 『幽霊の道』の入り口!」
桜井が、炎の壁の向こう側、焼却炉の「排気ダクト」の一つを指差す。 そこだけが、アマテラスの「論理」から外れた、「旧霞が関セクター」の「遺物」だった。
「……走って……!」
玲は、最後の力を振り絞り、炎の「調律」の「壁」を維持したまま、桜井と共に「排気ダクト」へと飛び込んだ。 その直後、玲の「調律」が限界に達し、「壁」が消失する。
ゴオオオオオオッッ!!
プラズマの炎が、玲たちが今しがた通り過ぎた場所を飲み込んだ。 そして、背後の「焼却炉」のゲートが、アマテラスの「論理」の復旧と共に、再び重厚な音を立てて閉鎖されていった。




