Scene17:渾元(こんげん)の「意志」と「調律」の共鳴
——間に合わない。
「分解炉」の赤熱するゲートが、全てを飲み込む「ゼロ」の引力となって、玲と、すぐ目の前にある晶のポッドを吸い込んでいく。
「ノイズの奔流」が、断末魔の悲鳴のような轟音を上げた。
「(まだ……!))」
玲は、ヴァルハラで手に入れた「遺産(魂石)」を、分解炉の「死の論理」に叩きつけるように握りしめた。
肩の傷から「虚無」の冷気が流れ込み、意識が凍りつく。
だが、その「冷気」の奥底で、玲は「鉄の味」でも「腐臭」でもない、別の「ノイズ」を聴いていた。
「(これは……『怒り』……?)」
それは、アマテラスの「静寂」の神殿で、ミカゲの「虚無」と対峙し、そして瀕死の重傷を負ったはずの男——黒龍の「ノイズ」だった。
彼の「渾元力」。「意志」の力。
妹・晶が「分解」される、その瞬間に響かせた、魂の「咆哮」。
『——晶ッッ!!!』
物理的な「声」ではない。「意志」の「絶叫」だった。
それは、アマテラスの「神殿」からも、この「廃棄サニタリウム」からも隔절された場所から放たれたはずの、「論理」を超えた「ノイズ」。
その「ノイズ」が、玲の「調律」の「歌」と、最悪の濁流の中で、共鳴した。
「(今……!)」
玲は、黒龍の「意志」を「触媒」に、自らの「調律」を、ヴァルハラの「遺産(魂石)」を通して、暴走するアマテラスの「分解炉」の「論理」へと叩きつけた。
「(この『悲鳴』も、『怒り』も……全部、あなたの『ノイズ』だ、アマテラス!!)」
——キイイイイインッッ!!
玲の「調律」と、黒龍の「意志」が、「分解炉」の「論理」と激突する。
「静寂」の秩序が生み出した「廃棄物」と、その「廃棄物」を「ゼロ」に戻そうとする「論理」が、互いに矛盾し、飽和し、ショートした。
ゴガガガガッッ!!
「分解炉」の赤熱していたゲートが、凄まじい「鉄の味」のノイズを撒き散らしながら、緊急停止していく。
「ノイズの奔流」は行き場を失い、逆流を始めた。
「玲! こっち! ゲートが止まってる!」
メンテナンス・ハッチから叫ぶ桜井の声。
玲は、逆流する「ノイズの奔流」の中で、辛うじて晶の「生体ポッド」に手を伸ばし、それを掴んだ。




