Scene16:分解炉(リサイクラー)へのカウントダウン
「ノイズの奔流」は、玲の全身を打つ物理的な「暴力」だった。
腐敗した廃液の臭い、情報の残骸が放つ「鉄の味」、そして「論理」から切り捨てられた無数の「悲鳴」。それらが玲の共感覚を容赦なく焼き、ミカゲに切り裂かれた肩の傷口から「虚無」の冷気が染み込んでくる。
「(意識を……保たないと……!)」
玲は濁流に飲まれながらも、必死に手足を動かし、数メートル先を滑り落ちていく「生体ポッド」を追う。
ガラス質のポッドの中で、晶はまだ意識を取り戻さないままだ。
「玲! 聞こえる!? あと60秒……いえ、アマテラスの暴走で加速してる! あと40秒で分解炉のゲートが最大出力になる! 飲み込まれたら、魂石ごと原子分解にされるわ!」
メンテナンス・ハッチから身を乗り出した桜井の絶叫が、濁流の轟音を突き抜けて届く。
「(40秒……!)」
玲は、ヴァルハラで手に入れた「遺産(魂石)」を、濁流の中で強く握りしめた。
あの時、サイファーの「試練」に応えたように。
イェーガーの「精神ノイズ」を逆用したように。
「(この『ノイズの奔流』そのものを……『調律』する……!)」
玲は、迫りくる「分解炉」の「死の気配」に抗い、自らの「魂」の奥底から「歌(意志)」を響かせようとした。
この「廃棄物」の濁流もまた、アマテラスの「完璧な静寂」が生み出した「悲鳴」の一部であるならば。
「(聴いて……! 私の『声』を……!)」
玲の「歌」が、濁流の「ノイズ」と共鳴しようとした、その時。
——ゴオオオオオッ!
奔流の遥か先に、全てを飲み込む「分解炉」の入り口が、地獄の口のように赤熱し、その姿を現した。
カウントダウンは、ゼロだった。




