Scene15:廃棄サニタリウム(ノイズの奔流)
玲が暗いダクトの開口部へと身を投げ出した直後、アマテラスの「焼却」の炎が、神殿の床を舐め尽くした。
ミカゲの「虚無」の刃が、玲が飛び込んだダクトの入り口を十字に切り裂くが、その刃は暗闇の中の「ノイズ」を捉えきれなかった。
「キャアァァッ!」
玲は、金属製の急勾配なダクトを、制御不能な速度で滑り落ちていく。
ここは、アマテラスの「静寂」の神殿が、その「秩序」を維持するために排出し続けた、あらゆる「ノイズ(廃棄物)」の通り道だった。
「鉄の味」どころではない。腐臭、廃液、そして「論理」から切り捨てられた無数の「情報の残骸」。それらが「ノイズの奔流」となって、玲の共感覚を襲う。
「(息が……できない……!)」
暗闇と「ノイズ」の濁流の中で意識が途切れかけた、その時。
ガッ、と強い力で腕を掴まれ、玲の身体は奔流から引きずり出された。
「——玲ッ! こっち!」
「さく、ら……さん!?」
そこは、ダクトの奔流の脇にある、かろうじて人が一人立てるほどの狭いメンテナンス・ハッチだった。桜井が、息を切らしながら玲を抱きとめていた。
「無事だったの!?」
「ギリギリね! あの神殿が崩壊する直前、制御室からこっちの隔壁をこじ開けたの!」
桜井が、ゴーグル越しに下流を指差す。
「玲! 晶さんのポッドが!」
桜井の指差す先、暗い「ノイズの奔流」の中を、晶が囚われた「生体ポッド」が、重々しく、しかし確実に滑り落ちていくのが見えた。
「(よかった……ミカゲに『祓われ』なかった……!)」
安堵したのも束の間、桜井が悲鳴のような声を上げた。
「ダメ! この廃棄サニタリウム(ゴミ捨て場)の行き着く先は、アマテラスの『分解炉』よ! 物理的な『ノイズ』も、情報の『ノイズ』も、全て『原子』に戻す場所……!」
「止めないと!」
「でも、どうやって!? 私たちには、あの奔流を止める手段なんて……!」
玲は、肩の痛みに耐えながら、ミカゲに切り裂かれたダクトの入り口——今は「焼却」の炎で赤熱している神殿の残骸——を見上げた。
そして、滑り落ちていく晶のポッドと、その先にあるであろう「分解炉」の気配を「聴く」。
「(桜井さん、黒龍……。私は、もう『甘い』だけの『霞』じゃない……!)」
玲は、桜井の手を振りほどき、再び「ノイズの奔流」へと足を踏み出した。
「分解炉」に到達する前に、晶のポッドに追いつくために。




