Scene14:『檻(ケージ)』の崩壊と脱出
ミカゲの「虚無」の刃が、玲の喉元を捉えようとした、その刹那。
ガコンッッ!!
桜井が「切り離し(デタッチ)」を完了させたことで、晶が囚われていた「生体ポッド」が、「結晶樹」との接続を強制的に解除された。
重力に従い、ポッドが床に落下する。その衝撃で、玲の体勢が崩れ、ミカゲの刃は玲の肩口を浅く切り裂くだけに留まった。
「ッ……!」
焼けるような痛みと「虚無」の冷気が走るが、玲は構わず晶のポッドに手をかける。
「(今、逃げないと……!)」
生体ユニット(オリジン)トノ接続ガロスト。システム integrity(統合性)ガ致命的ニ破損。
アマテラスの合成音声が、初めて「焦り」のようなトーンを帯びる。
「檻」の「秩序」が、その「心臓部」を失ったことで、崩壊を始めたのだ。
最終安全シーケンスヘ移行。聖域内ノ全ノイズヲ物理的ニ焼却シマス。
「玲! 聞こえる!? アマテラスが、この神殿ごと私たちを『焼却』するつもりよ! 晶さんを切り離したことで、システムが暴走してる!」
桜井の悲鳴が、通信機から響く。
神殿の壁や床が、アマテラスの「論理」に従い、変形を始めた。
玲たちが立っていた床が開き、奈落の「焼却炉」が口を開ける。
「——『穢れ』を、逃がすと思うか」
ミカゲが、崩れゆく神殿の中で、ただ一人「虚無」の秩序を保ちながら、玲と「切り離されたノイズ源(晶)」に狙いを定める。
アマテラスの「論理」による「焼却」か、ミカゲの「虚無」による「祓い」か。
玲の逃げ場は、なかった。
「(ううん……! 活路は、桜井さんが見つけてくれた……!)」
玲は、ミカゲを睨み返しながら、先ほど桜井が叫んだ「廃棄サニタリウムへのダクト」の位置を、必死に探した。
それは、「結晶樹」が廃棄物を排出するために使っていた、神殿の最下層にあった。
「桜井さん! 晶さんのポッドを、そっちへ!」
玲は、晶のポッドを床に滑らせ、ミカゲの足元を狙う。
ミカゲがそれを「祓おう」と刃を向けた瞬間、玲はその逆——ダクトのある方向へと、自らの身を投げ出した。
アマテラスの「焼却」の炎が、床下から迫る。
ミカゲの「虚無」の刃が、背後から迫る。
「(間に合え……!)」
玲は、燃え盛る神殿の中で、廃棄ダクトの暗い「ノイズ」の中へと、身を投じた。




