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アンバー編 赦しと次世代への終わりなき詩―2

この、第3話は、アリスとアンバーの物語。(2)

くらい穴の中。暗闇での対話。

「いたい一瞬、意識飛んだわ…。わ。たんこぶできてる。」

「大丈夫ですかマスター。」


「あれ?実体になってる。どしたアンバー???」

アリスを、背の高い青年が受け止めている。


「理由は3つありますマスター。1つ目、マスターのサークレット型AI通信システムです。見ての通りぱっくりいっちゃってます。吸い上げられるときに落盤にぶつけたようです。中央本部との通信および私との意思疎通に阻害が生じる可能性。というよりおそらく本部とは通信不能。2つ目、こちら未確認伝送路に落ちたようですね。ここだと、実体の方が目が利きやすいです。3つ目、あれをご覧ください。レイヤ1の…」


「うわぁぁん。いっぱいいるぅぅ。気持ちわる…。全部レイヤ1エンダー?」

「はい。視認できる限りでは、22体ほど。目での認識に慣れ切るまで1分ほどかかりますので、数は更新される可能性があります。レイヤ1、2エンダーはパターン攻撃の効果が薄いのでこれだけ多数の場合…」


近くにいるエンダーを無造作につかみ蹴り上げる。

「物理攻撃の方が効率がいいわけです。」

「そうだったわ。レイヤ1はあんまり出会わないから…。」

「いきましょう。「修復屋さん」が動作して先ほどの穴はふさがってしまいました。戻り口を探しましょう。」


※※


「暗いわね。意味もなく不安になるわ。」

「ここはできたばかりの様ですね。誘導灯が全くない。」

ぽつ、ぽつと二人歩きながらたわいのない話をする。しばらく歩くが出口が見つからない。

「…暗いのは嫌なことを思い出すから、避けていたのに。」

「アリスにとっての嫌なことはどんなことでしょう。話すと少し良いかもしれません。マイ・マスター」


「いろいろ。話す気分じゃないわ。だってアンバーも男性体に変異した理由教えてくれないじゃんね。ねぇアンバー。出会ったときのこと覚えている?」

「話さないのは語れるほど合理的な感情として消化できていないからです。話さないのではなく話せないのです。いつか話せるほど統合できたら。ぜひ。出会ったときは、はい。アリス。もちろん。」


「わ。鼻水べしょべしょだったでしょ。それ記憶から消そう。」


アンバーのバトルシップから回線用AIへ、ついでに女性型から男性型への展開の2平行転換プロジェクトの話を聞いたとき、アリスは何が何でもそのプロジェクトに加わりたいと思った。関係者を調べ上げ、どうしても加わりたい、雑用でも何でもよいので加えてくれと、お願いし、土下座し、付きまとい、何十通も意見書を手書きの手紙で送付した。自分と同じ存在がいるのかもしれない、それは彼女の希望の光だった。

やっと候補に加えてもらい、それからはもう寝る間も惜しんで作業に加わった。


 天塩にかけて育てチューニングしたーー関係各位からはチューニングじゃなくてそれは「魔改造」と言われたがーとにかくようやく完成し、目覚めたアンバーを見たときは、もう体中の水がなくなるんじゃないかというぐらい涙が止まらなかった。


「でもそうね。それからはまじ大変だったわ。相棒希望者は100人以上いたから。本命1名、サブ2名の狭き門だったから、それまで適当にやってたハンター訓練を2年分一からおさらいしてがむしゃらに勉強した。1日2時間ぐらいしか寝なかった。そんときできたクマがまだ治ってないもん。」


「アリスは優秀でしたからきっとどこででもハンターになれたでしょう。ただ、2年分、半分寝ながら授業受けていた落ちこぼれが半年で首席卒業したのは教官も「目ん玉が飛び出た」とおっしゃってました。」


「そうかもね。でもねぇ知ってるでしょ。首席になったからって相棒になれるわけではない。双方が合意しなければ、あなたが選んでくれなければ夢は夢のままついえたわ。」


満足そうな笑みのアリス。


「…ねぇ。思い出した。私、適正試験、たぶん、嘘ついたわ。今なら本部との交信もないから記録も取れてないから告白しても大丈夫ね。」

「ハンターは、情緒の安定と強靭な精神が必須なの。テストもそれに沿って答えたわ。

でも、本音はさぁ、あなたが死んだら、多分私も死んじゃうと思う。

貴方という羅針盤を失えば、私の人生にもう意味なんて無いかもと思うこともある。」


アンバーの物質体の顔がアリスを見る。

失敗だった。見てはならない。感情を修正中。表情は目は一瞬すべてを物語ってしまう。

「身体を持っているときにおっしゃったのは何かの罠ですか。電脳ハンターとして言いましょう。私が死んでもあなたは生き残ってください。それが唯一の正解です。」


なんて、


言葉は難なく正解を言えるのに。

表情は制御が難しい。アリスに死んでほしくない。死ぬと、言われると悲しい。だが自分のためにアリスが命を、捧げると言われると感じる、仄暗い嬉しさ、優越感。


「大正解だわ。私が貴方でもそう答えるでしょう。ただ、身体があったことが、ちょっとまずかったかな。アンバー。…目から水が出てるよ。」

「…はい。実は、今の矛盾盛りだくさんの感情の分析を中断し、一時的に凍結しました。後ほどゆっくりと考えてみることにしましょう。」


「うん。ごめんね。あなたが最近不安に思っていること、調子出てないことはわかってたの。なんで私こんなこと言っちゃったんだろう。どうしてもっとましな言葉で励ましてあげることができないんだろう。」


「わかりますアリス、私達は「完璧に」似たもの同士だから。お互いの不安を投影してしまったようです。困ったものですね。さて、通常伝送路との合流地点を発見しました。出口です。」


アンバーくんはイケメン王子様だけど、実はちょっと泣き虫です。

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