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伝送路ワームホール-2

コリンダーのこと好きでしょ、と指摘されたヒロユキ。果たして…?

ヒロユキは、ヘンリ―のニュージェネレーションに関する講義を思い出していた。これは感情自律AIの相棒になるのなら、ようく覚えておかないと、と少ない脳みその細胞をフル稼働させたのが功を奏して、ほとんど一言一句暗記している。


感情と論理ってのはいわば車の両輪のような関係性だよな。極論、その両輪は全く同じ大きさで釣り合ってるのが望ましい。

当初、感情自律型AIは、論理回路と感情回路を等分になるように、なるべく同じ大きさになるように設計されていた。

しかし、これはあとで破綻することがわかってる。「感情」も「論理」も時間の経過に伴って、大きくなったり小さくなったり、成長したり退化したりするってことだ。

一番大きな問題としては、とりわけ「感情」には時間経過に対する変化度合いが激しいってこと。

もっと簡単に人間ぽく言うと「成長する」ってやつかな。


ここに着目して、コリンダー含め、ニュージェネレーションのAIにはこれとは全く違う新しい手法を取っている。

設計時点では感情を意図的に小さくなるように作らせ、「成長」という過程を経ることで適切なバランスを探る手法だ。


※※


 コリンダー起きてない?そう思いながら背中に背負った軽い存在を確かめるが、完全停止されており、起動する様子はない。ほっとする。

「好きか嫌いかって言われたら、大好きだな。」

「そうでしょう。この娘もあなたのことを大好きみたい。何の問題もないでしょう。」


「ばっかか。大ありだよ。コリンダーは今成長してる時期なんだ。」

その成長プログラムの要は「目的」と「方向性」と「育成」だ。

職業という目的を持たせ、そこへの方向性を正しく定める。そして適切な周りの人間とのかかわりで「育成」を行う。

 育成期間は3年あり、綿密に組んだオーダーメイドのプログラムで感情自律AIが感情を正確に制御できるように研究所総出で教育中。それが感情自律AIと関わっている者たちみんなの願いなのだ。

「俺は一番身近な相棒だから、自分の身勝手で汚したら、絶対ダメなんだよ。」

 AIはもはや人間の奴隷ではない。確固たる意志を持った一つの存在なのだから。

「そう。初期型AIのむずかしさもまさにそこだったのかもしれない。アーバンクロノスも感情値の制御には苦労したわ。


論理と感情が同値にならない。


ウェストのAIシリーズは感情値を「増幅し」論理とのバランスを取ろうとした。また他のエンジニアは、解決するために完璧な論理制御を開発しようとしていた。

そのどれもが、おおむね、感情値と理論値をなるべく大きく増幅させるような開発だった点でみな同じだった。

でもAI研究所の凛子は、逆を取った。

解決するために感情値を上げるのではなく、あえて下げるなんて、凛子は本物の天才なのね。」


「そうかもな。どうしてもAIは見た目が完成された外見なんで誤解されがちだけど、感情なんて一朝一夕でコントロールできるようになるもんでもないからな。最初にどんだけ調整しても。」

 ハクユラは、暗い伝送路の天井を見つめて何やら考え事をしているようだった。

感情も論理も思考も成長する。人間のベースを参考にして見事な育成手法を取った現AI研究所のやり方が一番理想だ。一番身近な相棒が好きとか嫌いとかでその健全な育成を妨げてはならない。


「…ま。でも俺はコリンダーが大好きだな。」

言うや否やヒロユキは気を失ったままのコリンダーの秀でた額にキスをし、しばらくしてそっと体を虚空の空間に放り投げた。

「??!」

コリンダーのボディは闇に消えた。

「出口は難しくても、横道は作れたみたいだな。俺天才だし。すぐ消えちゃったけど。海底ケーブル本体の電気信号と共鳴させてあっちに逃がしてやった。」

「別に、私達に危険がないのならいいのよ。もうあの娘は用なしなんだから。」


「だな。じゃ、続き張り切っていきますかぁ。」

 どさくさに紛れて遅延起動ボタンを押したことはハクユラにはばれなかったようだ。ヒロユキはことさら大きな声を出して自分を鼓舞した。


「そうね。素敵な話を聞かせてくれたから、道すがら、私の話も聞かせてあげようかな。」

次回、ハクユラの思い出話。

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