閑話 模擬訓練ー前
途中の箸休め物語です♡飛びしてもオッケーですが、戦闘シーンも楽しく書いたつもりなので、どうぞお楽しみください♡
ーさあさ。どうしました?もう終わりです?
邪悪の擬人化と噂されたほほえみで、ベラケレスが領域展開を解いてコリンダーに言い放った。
※※
「お。模擬戦?」
AI研究所 所長ヘンリーはその日、司令本部で資料まとめをしつつ配下200名のハンター達の司令(相談役)担当をしていた。
司令本部横に設置されたサーバー制御室 兼 物置 兼 談話室がなんだか騒がしい。様子を伺いに赴いたら、コリンダーとアンバーが喧嘩している。
「私の方が数が多いです。」
「いーえ。数じゃなくて強さなら私の方が討伐済総合値が高いですね。」
「統合値ってなんですか、アンバー。勝手に妙な値を作り出さないように。」
「でも私の時強いの多かったので不利ですよ。」
「それはあなたが設定したんでしょう。」
「ランダム設定ですよ。なので環境設定も運頼みです。」
ヘンリーがあきれた様子で部屋の中を覗き込む。目の前には大きなスクリーンがかけられ、操作レバーの前で2人が机をたたきながら口論している。
「喧嘩すんなよー。あー、訓練用の仮想エンダー発生空間か。」
子供みたいなことしてる奴らだ。
それはハンター達が試験を通る前、エンダーの名前や特性を覚えるために訓練チームが開発したアプリだった。
一定時間でどれだけのエンダーの性能を見破り破壊できるか。初級ハンターが技術向上のために使用する訓練アプリである。どうやら討伐数と技能に応じて総評の点数がつけられる機能で遊んでいるようだ。
上級ハンターの、しかもAIが、初級ハンター用のおもちゃを使用しないでほしい。
「あー。ベラケレス98点。コリンダー78点、アンバー76点。なんだほぼ基本値通り、順当な順位じゃん。」
つまらなさそうに呟くヘンリーに、アンバーが食ってかかる。
「いえ。難易度が、ランダムで変化するのはご存じですよね?私の場合ランダムの中でも上級に設定されたのでエンダーの強さが上級位相当でした。」
なのでエンダーの強さを数値変換して換算し直すと、私の方が少し上です。
アンバーが鼻の穴を膨らませて堂々と言ってのける。
「お前そういう表情すると王子様の顔が台無しだぞ…。あそこに見つめてる嬢ちゃんたちに恥じない行動しろ。全く。」
談話室の扉が少し空いていたせいで見物人がたむろし始めているのだ。
電脳ハンター達、特にAI達が物質体で出歩いて、しかも喧嘩しているのを見れる機会もそうそうないため、人だかりになるのも時間の問題だ。いつの世も、擬人化された人型ロボットに人は惹かれるようだ。しかもコリンダーもアンバーも、研究開発畑に身を置き、綺麗な人工顔面を見慣れた研究所の人間たちも思わず見惚れるようなイケメン美女様ときた。
実は悲しいかな、相棒側の人間が集まっても、こうはならない。
なので、彼等AI達はしょっちゅう相棒抜きで雑誌の一面や公共機関のイメージキャラクターに呼ばれる。なぜか、相棒がいるとむしろ人気が下がるらしい。どういうことだろう。
何事にもそつないコリンダーが、困った顔(絶対に作っている)でニコニコ片手をあげて挨拶しながら扉を容赦なくばたんと閉める。
「ま、難易度のめぐりあわせは時の運だ。確かに難易度はランダムで変質する仕様だが、実際の戦闘で難易度を考慮してくれるエンダーなんて居ないだろ。いつでもハンターは出たところと与えられた材料で勝負せにゃならん。だからこそ、ベラケレスが常に安定した成績を残してる。みろ、前回99点、前々回96点。安定して戦うってな、そういうこった。」
ゲーム画面横に設置された通信スクリーンがベラケレスとの通信経路を接続する。
ーその通りです、ヘンリー。ちょうどよいところに。その未熟な2体を速攻で訓練室に連れて行ってくれますか。私の成績と比べようなんて1京年早い。
「こらあおるなベラケレス。まぁでも。
実際のとこ、お前らの戦い方全然違うし単純比較できないでしょ。」
の言葉に対して…。
「単純比較できない。そう、その通りですね。アンバー、あなたのエンダーの急所を指向性放射ビームで直接分解するような攻撃は私にはできない。同時に私の電磁シールドから逃れるほどの乱反射スコープもあなたにはないでしょう。エンダーを滅することは両者できても、その優劣を決めきれない。」
コリンダーが納得したように解説してくれたので、ようやく争いが終わる、とヘンリーは胸を撫で下ろしていたが、ちょっと甘かったようだ。
「であれば、ですよ。直接戦えるようにしてしまえば良いのでは?」
コリンダーのこの一言で、争いは激化してしまったのだ。
※※
「ほいじゃ。作ってみましょ。AIが伝送路上と全く同じ条件で戦える環境。」
Dr秋月ーAI研究所の現在のブレーンと言っても過言ではない人物である。
そのブレーンの茶目っ気たっぷりの一言と驚異的な技術力で、先立って閉鎖された「実環境テスト回線」を流用しての、戦闘訓練場、VBTー「virtual battle training」が出来上がってしまったのである。
※※
「で。AI同士が直接戦える環境を作っちゃいました、と。」
ヘンリーはいまだかつてないほどの難問に頭を抱える。
「はい、ちゃんとダメージも本体に変換されます。このボタンを押下すると、開始ゴングが鳴って、双方のダメージが通常以上に蓄積されると終了ゴングが自動判定でなるようになってます♪あんまりダメージ行くと本体が死んじゃうから、気を付けて♪」
Dr秋月の楽しそうな解説に満足そうに頷くコリンダー。
※※
戦いのゴングが電脳空間(テスト回線)に鳴り響く。
1回戦:ベラケレス vs アンバー
アンバーの拳や蹴りはすべてベラケレスにすんでのところですべて避けられている。火力では右に出るものなしのアンバーだが、防御にはムラがあるため、途中途中ベラケレスの小さな遠隔攻撃をよけられずに被弾している。
小さな攻撃が積み重なってアンバーはほどなく負けた。終了のゴングが鳴る。
「近接攻撃にばかり頼るからです。あなた遠隔制圧をすべてアリスのツールに任せているでしょ。我々は人間の補助・増幅操作を取ってこそ存在意義があります。共闘を覚えてくださいね。」
2回戦:ベラケレス vs コリンダー
コリンダーが電磁シールドを展開するも無効化。強化版電磁シールドを展開してベラケレスを捕縛しようとするも、強化版電磁シールドは展開可能範囲が狭いため、シールドがギリギリ展開できない近距離に常に移動するベラケレスに展開できず。コリンダーの針の穴を通すような驚異的なHIT率の攻撃も、シールド範囲に捕らえないと発動できないのだ。
焦って距離を取ろうとするコリンダーにAuto操作で間合いを取り、髪を引きずり倒すベラケレスに、コリンダー完敗。
「あなたはアンバーと逆に中距離攻撃にばかり頼りすぎです。せっかく最強のHIT率の攻撃があるのだから、規制やシールドにたよらず空間領域を把握して空で打てるようにしなさい。」
「…そんな無茶な。シールド張らずに空間演算だけで電磁ビームって射出できたっけ…。」
コリンダーが呆然とつぶやく。
ー私はできます。2人とも弱すぎる。どんな手を使ってもいいからもう少しハリのある戦いを見せなさい。
コリンダーとアンバーはまるで魔王に立ち向かう勇者の役回りになったような気分になる。
※※
「くぅぅ。バケモンめ…。ベラケレスに弱点とかないの???!」
モニターを見て悔しがるアリスにヘンリはまぁまぁと鷹揚に手を振る。
「実際。冷静に見ると弱点だらけだぞ。それでも勝てないのは対応力の違いだ。」
「ベラケレスの場合、あらゆるタイプの攻撃に一定の効果のある技を即時展開可能。
見てみろオートと手動の切り替えもすばらしい。
アンバーは近接型、コリンダーは遠・中距離型。
対してベラケレスは判断の速さが要の攻防バランス型だ。
政府緊急回線は海外攻撃含め未知の攻撃も多い。すべての攻撃に耐えられるようでないと難しい。
だが、ベラケレスにも弱点は結構ある。一番大きいのは、物理体を使うのが不得意のため本来の物理攻撃が弱いんだ。それお補うために近接攻撃に移る度にAutoモードに切り替えてるんだが、タイムラグがほぼゼロのため、隙をつくことができない。」
なるほど…とうなずくが、結局勝てる見込みないじゃん、と消沈するアリスに、2回戦目から帰還したコリンダーが、自信満々にアリスの肩をたたく。
「大丈夫。想定済みです。最新型AIの演算力、ご覧あれ。次で決めてきます。」
次話、コリンダーの、魔王に立ち向かう策とは??!




