むぎゅう―おばけ詰め詰めパニックー2
アナログ回線の討伐は、さながら、落ちゲー。
「うんまぁねぇ。ほんとは40年も前に閉じる予定だったんだけど。知ってるか。2011年、2035年、実は両年、アナログ回線は全撤去の計画が2回持ち上がってる。」
ーでしたらなぜその時に閉鎖しなかったのでしょう。
「それがな。2011年7月撤去の約4か月前に東日本大震災が、同じく2035年11月の撤去、約3か月前に西日本大震災が、偶然にも起こっており、結局それが原因で2回とも計画は立ち消え、アナログ回線は継続になった。」
ー震災とアナログ回線が何の関係…ああ。災害放送ですか。
「そ。アナログはデジタルと異なり遠隔地まで届きやすいからな。震災の被害の大きかった地域ではデジタルのテレビ塔の多くが破損しデジタル放送が届けられなくなった。
一方アナログ放送であれば品質は悪くても「なんとか受信できる。」レベルの受信帯域が広く、そのときの災害放送が、避難所で苦しい思いをする人達の希望をつないだ。」
ーなるほど。でもですね。デジタル回線の受信帯域も広くなりました。今は2050年ですよ。もういいのでは。
「それがな。1回目の停止予定が震災4か月前、2回目の停止が3か月前、アナログ回線を閉じようとすると、あまりにもやばい被害の震災が起こる、って結果になって、どうやら…」
「「アナログ回線を閉じようすると未曽有の災害が起こる」っていうジンクスが関係者の間で出来上がっちゃったみたいでな…。ま。実際大規模災害時にアナログ放送が役立つことは確かだし。」
「結局、これはもう「触らないでおこう。」というとこに落ち着いて、現在もアナログ回線は保守され続けているってわけ。来たる災害の日のためのセーフティネットや、技術検証場という名目で。」
ーな、なるほどです。迷信というものは実体がないだけに打破するのが難しいですからねっ。
「おい。コリンダーちょっと声震えてね?」…というヒロユキの指摘が、みなまで言われるまでもなくコリンダーの「いえ。気のせいです。」という言葉が被る。
「そうか。ああそういやアナログ回線の特徴をもう一つ説明し忘れてたな。アナログ回線ってな。」
ーなんでしょう。
「出るんだよね。幽霊。」
ーば…ばかな。それはエンダーですよね。エンダーは肉体と精神が崩壊した後思念が電磁波を帯びて変質したものです。死者の霊であるいわゆる「幽霊」と同じ存在では。
「それがなぁ。そうとも言い切れないんだよな。アナログ回線に出る「ゴースト」ってのはエンダーとはちょっと違うんだ。コリンダーお前気づかんかった?」
ーなんでしょう。(ごくり)
「さっきのエンダーの中に、妙にふわっとしたやつ、いたろ?ゴーストってのはもともとアナログ回線特有のテレビ画面のチラツキのことを言ってたんだけど。どうやらアナログ回線で出るやつは、震災で亡くなった人間の思念だって…。」
―私は視認しておりませんが。
「そうか。そりゃよかった。なんか夜になると明らかにエンダーが増えるのもアナログ回線の特徴らしい。朝と夜で数えると数違うって。」
―不思議なこともあるものですね。
「しかも、あるハンターがさ、夜中の呼び出しで緊急討伐に言ったら、 ゴーストエンダーに出くわして、じっくり見ると、震災で死んだ人間の苦悶の表情が見えたって…。」
―そ、そんなわけ…。
「ないよなー!ないない!あはは。ってごめんな。コリンダー。
俺だけで全然いけると思ってたんだけど…。こりゃちょっと作戦立て直しだ。説明するぜ。コリンダー。」
ちょいちょい、と手招きしてコリンダーの頭を引き寄せる。作戦会議だ。
いいか。アナログ回線のエンダーには特徴がある。あのでかいやつ見ろ。周りに小さいのが10体ばかりいるだろ?全部強引につぶしてもいんだけど。実は、全部で一つのエンダーなんだな。だから、ひとかたまりに潰すのがいい。んで、さらに、順番があるんだ。一番小さいやつから順番だ。
ヒロユキの説明に「はい。」と答えつつも、コリンダーは避難路のむこうの、エンダー達を注意深く識別していく。
―念の為の確認です。ゴーストは、いませんよね?
「はは。そう簡単には拝めないんじゃないか。、全部普通のエンダーだな。」
※※
「オッケー。さすがコリンダー。その調子で全部つぶすぞ。」
さながら、討伐は落ちゲーのようである。迫ってくるエンダーを見極めて少しずつ消していく。順番通り、消すことができれば一番大きな物が消える。
―マスター。こちら、消えません。順番通りのはすですが。
「おい落ち着け。2固まりぶん混じってる!こっちの手の短いやつは左の固まりの方、尻尾のあるやつが右の固まりの方!」
―判別不能!どうしてそんなにすぐわかるの?!
消しけれなかったエンダーに埋もれながら、コリンダーが悲鳴を上げる。
「落ち着けってば!解析比較してみろ!ちよっとずつ形違うから!」
消す数より通りの影から出てくる数の方が多く、少しずつエンダーが増えてきて、コリンダーは焦る。
ふと、通りの影を見ると。
「マスター。あれ…。」
通りの影から出てきたのは、薄らぼんやりと影のようなエンダー。
―あ、あ、あれ…。
「…げげ。あれが噂のゴーストエンダー?」
ヒロユキも慌てる。あれどうやって討伐するんだ?
―ママ…マスター。討伐方法をご教示願います。早く!
そうこう言っている間にエンダーはどんどんこちらに進んでくる。
「ごめんコリンダー。俺討伐方法知らねぇ。」
―そんな。
そうこう言ってるうちに、ゴーストエンダーはコリンダーの真正面にやってくる。
―ひぃ。
コリンダーは電磁シールドで消そうとするが手が震え上手くいかない。
ゴーストエンダーは、コリンダーの前で顔無き顔を大きく左右に振りながらコリンダーの顔を、のぞきこむようにゆらゆらと揺れる。
その、顔。
ぷつ。
―マスター。電磁シールド、最大出力。圧縮コーデック最大wpk198、設定します。
…すべて、焼きます。
ヤケクソになったコリンダーの最大出力攻撃で、アナログ伝送路は、エンダー共々すべて焼き払われた。
※※
「ぶぶっ。んで、コリンダーガス欠かい。」
「笑いごとじゃないす所長…。俺も一緒に跡形もなく焼き尽くされるとこだったんだから!!」
ヘンリーの爆笑に、ヒロユキは憤懣やる方ない様子で鼻を鳴らす。
「コリンダーは気を失うし伝送路は爆発崩壊するし。服は焼け焦げるし。コリンダー担いで出口まで戻れたのも奇跡っす。2度とやりたくない…。」
「まぁまぁ。無事だったからいいじゃん。アナログ伝送路のエンダーは力弱ぇからな。大ごとにはなるまいよ。」
「いや、エンダーの前にコリンダーが。最新AIの高火力攻撃から生き残った俺を褒めてくれよ…」
時事故報告会て聞いた内容だが、本人の口から聞くとまたオモロすぎて笑いが止まらないヘンリーだった。ひとしきり笑った後
「コリンダーいじめんなよ。ってか」
ヘンリーは突然真顔に戻って言う。
「仲いいのは微笑ましいけどよ。1つ言っとくけとな。お前コリンダーに惚れるなよ。」
「あ?なんだよ突然。」
ヒロユキは目を剥く。
「相棒には惚れるな。あとがめんどくせぇ。プライベートのことは知ったこっちゃねぇけど、それでも、おせっかいを承知で忠告しといてやる。」
ヘンリーは言葉を、切り、一言一言、含めるように言う。
「AIには、惚れるな。後が、すこぶる、めんどくせぇ。」
「…バッカじゃねぇの?分かってんよ。惚れるわけねぇだろ。…無用な心配だよ。」
ヒロユキの吐き捨てるような言葉は、会議室にとりわけ大きく響いた。今日も平和だ。なんの問題も無い。
AIってお化けをどう認識するんですかね。
ヒロユキについては、コリンダーが怖がるのが、面白くて、ちょっと悪ノリし過ぎたので、自業自得なのです…!
アナログ回線については虚実入り混じりまくりです…!むしろほぼ…虚…?!
お許しを…!




