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生まれたことへの敬意

ヒロユキの優しさの響くお話。単語で読めます。

―やりましたね。


コリンダーが、むくれた声を出す。ヒロユキは、最近、コリンダーの声調の幅が広くなったとメンテナンス担当チームが笑いを噛み殺しながら話してくれたのを思い出して苦笑する。


「あん?」


―私の監視用PCのBIOSパスコードが20250411になっています。ついでにパスワードを忘れた場合の質問が「あなたの出身地は?」に変えられており答えが山梨県甲府市となっております。


「へぇ。お、それ俺の誕生日と出身地だ。ふん。俺の端末のパスワード勝手に変えやがったお返しだ。


パスワードが違います。3回間違えたのでロックされますって言われたときの恐怖、思い知ったか。」


―ロックはされておりません。単純すぎますので2回目でマスターの誕生日を社員録から検索、ロック解除しました。


「…クソ。 」 


そんな平和な会話を交わしながら伝送路を監視している2人だったが、いつでも、突如平和は破られる。


―前方、悪魔番号6072(アメーバ)です。マスター、一気に電磁波で潰すと分裂する変異タイプの可能性あり。物理攻撃推奨。物質体具現しますか?


「いや。ひいふぅみぃ…8体か。全部アメーバだな。…いや、ん?んー?なんか変なの混じってない?コリンダー。8体全部、一旦圧縮しろ。潰れない程度で。」


―潰れない範囲。コーデック2128.Npでよろしいですか。


「いやちょっと過剰だ。ノイズ頒布しちまう。塩梅が大事。m.treace172で。」


―承知しました。圧縮しました。余波で7体消滅したようです。1体残。圧縮効果ゼロ。残1体はランダム変数率が高く圧縮不可です。


「ビンゴ。コリンダー。エンダーじゃねぇぜ。…ギリギリ、人間だ。人間は圧縮できないからな。通信回線ボリューム最大で開け。」


―イエス、マイマスター。念の為、逃亡防止に電磁ノイズシールド展開しますか?完了しました。通信回線に着信があります。接続します。


「おい。お前、名前は?なんでこんなとこにいる?アメーバに擬態してたな?ってか一般人は進入禁止領域だぞ。」


―ごめんなさい。殺さないで。名前はありません。ここで生まれました。


―ここで産まれた?…確認します。事実です。RTTから元送信時刻を推測、2043年9月13日産まれ。名前、無し。回線人でしょうか。15年前から伝送路上の出産は禁止されているはずですが。


「間違いないな。見た目もどう見ても10歳未満だな。保護する。コリンダー精神鑑定。」


―精神鑑定。正常率68%


「…げげ。50%以下なら回復の見込みなし、問答無用で、物質世界に保護のち…処分。70〜80%以上であれば電脳空間の生活領域へ移送。日常生活への復帰訓練、だ。


なんつー微妙な数字。」


ヒロユキはため息をつく。電脳空間で精神が汚染し切れば現代の医療で復帰の目処なし、安楽死が推奨されている。


が、判断は慎重に行われる。電脳ハンターの仕事ではなく電脳空間医療チームの分野だ。しかし、このまま引き渡せば間違い無く安楽死コースだ。


「最近ババ引くこと多いな。…クソッ。コリンダー!通信回線、および精神鑑定試行回路、開いたままにしろ。ちょいと調査するぞ。


2043年か。とっくに一般人は走行禁止になった後だから研究員だな。置いていったかはぐれたか。コリンダー、研究員と仮定するが、必ず彼の出生についてどこかに記録してるはずだ。スキャン結果から、出産領域を割り出せ。…オッケーk17994領域か、通路名、一帯のフリーメモ検索しろ。人名とか一般名以外の名前。」


―一般名、数字以外の名前、フリーメモに記録ありません。


「…サンキュ、コリンダー。検索代わって。あとは「俺を、信じて」全面的に俺に任せてくれ。」


ヒロユキの手がパネル上を滑る。


「…あった。誘導灯の名前か。7.8年くらい前に流行ったんだ。誘導灯に好きな名前つける権利買うの。誘導灯名、「Happyバースデー」フリーメモ「ヒロ。産まれてきてくれてありがとう。」あんたヒロっていうのな。」


表現の乏しかったヒロにわずかの表情が生まれる。


―割り込み報告をご容赦ください。マスター、対象の精神鑑定値、上昇。70,75…83%で安定しました。


「…知ってる。よし、ヒロ、ここは人間には毒なんだ。安心して暮らせる場所に移動させてやる。おいで。」


※※


電脳空間は、伝送路領域と生活領域とに分かれるが、2つは複雑に隣接しておりエンダーや一般人は通り抜けられないが、電脳ハンターであれば別だ。およそ電脳空間のほぼ全領域についてフリーパスにて通過可能、特権ではあるが災害発生時の緊急対処用でもあるので、誰からも文句はない。


ヒロユキは、生活空間で待機する医療チームにヒロを引き渡すと一度頭を撫でてやり、ゆっくりと背中を向けた。


「ふぅ、疲れた。ガキのお守り特別手当ほしいぜ。」


―お疲れ様ですマスター。一つ質問よろしいでしょうか。


誘導灯を、どのように検索しましたでしょうか。k17994領域付近に、「Happyバースデー」との名を持つ誘導灯が見つかりませんでした。


「…知ってる。てかありがとな。あんとき気づいてたろ、あいつの前で言わないでいてくれて。」


―はい。理由を希求します、マスター。精神鑑定値上昇の理由も。


「うん。ちょっとした賭けだったんだけど。なんて言やいいかな。ちょっと詩的に言うと、人生は長い冒険だろ。冒険の出発点には物語が必要だ。誕生日、名前、出身地、誰かの祝福。」


「おい、不満そうな声出すな。説明が難しいんだよ。簡単に言うと」


「自分の生まれにも意味があると思えると、不思議と人間は元気になる。安定するかなと思って。」


―両親からの祝福が必要だったということですね。


 


「んー。実際のところ、両親じゃなくてもいいんだ。…と俺は勝手に思ってる。


必要なのは、生まれたことへの敬意を持ってくれる誰かだ。それは俺でもいいはずだ。少なくともあいつの幸せを願ってるからな。」


―マスターは彼にヒロと「名付け」たのですね。理解いたしました。誕生日も、名前も、出身地も、人間の人生を彩る鮮やかな色彩。


…マスター。申し訳ありません。誕生日をパスワードにするのは辞めます。


「ふっ。そうね。簡単に突破されちゃうし。」


―次回仕掛ける際は乱数変換して分からないようにして仕掛けますね。


「やめて…。永遠に開けなくなっちゃう…」


ヒロユキは力無く笑うがコリンダーはこの上なく楽しそうだ。


伝送路は今日も平和だ。

ちょっとおちゃめなコリンダーを感じてもらえると嬉しいです。

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