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最終章【終幕 未来への足跡】

最終章 【終幕 未来への足跡】



《先日未明、警察署内に踏み込んできた「メギド」に連れられていた男性は連続幼女誘拐の犯人であり、現在意識不明の重体で……》

 周波数変更。

《……の、男性は以前から強盗殺人で手配されており、付近の住民が通報した際には血塗れで路面に放置されていたとの事です。発見時には「メギド」と思われる人物が確認されており……》

 周波数変更。

《この「メギド」を名乗る存在は犯罪者に対して個人的な制裁行為を行なっているようであり……》

《この日本でそんな行為が許されるはずが……》

《インターネット上ではこの「メギド」を英雄視する声も上がっており……》

《ネットでは無責任に「メギド」をはやし立てる声もありますが、これは……》

 回線遮断。

 やれやれ、相変わらず頭でっかちな自称知識人やらコメンテーターは囀る事に余念が無い。そうやって偉そうぶって、何が変えられるって言うんだろう。ビルの上を吹き抜ける髪が、僕の髪を揺らす。見上げればそこには漆黒の空と、輝く月だけが見えた。

「崇」

「……やあ、和」

 耳を切る風の音にもよく透る声がする。振り向くと、そこには穏やかに微笑む和がいた。石畳を蹴る硬い音を響かせて歩く彼女は、その途中で僕にホットの缶コーヒーを投げて寄越した。

「サンキュ」

「世間様の評価はどうかな?」

「予想通りだね。人殺しを擁護する博愛精神には頭が下がる。殺さずに司法に任せてるだけでも良心的な処置だと思うんだけどね」

「残念だが、彼らは骨の髄まで平和ボケだよ。加害者相手でも良識人ぶる……自分の身内が殺されても同じ事を言えるなら大したものだがね」

 まったくだね、と僕は肩を竦める。どれほど陰惨な事件が起きても、テレビや新聞でニュースを知る側の人間はそんなものだ。身内を殺された家族からすれば、その程度の良識なぞ怒りに火をつける燃料にしかならないだろうに。

 僕としては、殺人犯がその罪を贖うなら等しく命を奪う事で釣り合いの取れるものだと思っていたけれど、和は僕がそれをする事を許さなかった。そこに踏み込んだら君は本当に化け物と呼ばれる者になる……彼女が真剣な顔でそう言ったので、僕はそれに従った。

「和、そっちの首尾は?」

「……私がしくじると思うか?」

「まさか」

 ふふんと笑う和に、僕はおおげさに首を振って笑う。あの日の戦い。九尾の狐との決着を見たあの時から……もう一ヶ月以上の時間が経っている。僕たちは、二人で歩んでいく未来を語り、そして決断した。


◆◆ ◆


 九尾の狐を倒したその晩。僕は自分の部屋で和と向かい合っていた。僕と和はこれから一蓮托生の間柄である。しかしその力の使い道を、求める終着は違っていた。

 僕は、裁かれぬ悪を裁くために。そして、和を守るために。

 和は、未来へと向かって次元兵器を求めるために。そして……死ぬために。

 互いが認識しているそれぞれの目標。しかし、それが我侭だと解っていても僕には和の選ぶ未来を変えて欲しかった。

「和。死にたいっていう願いを諦めてほしい」

「…………」

 僕は考えていた事を、自身の気持ちを直球で伝えた。もっと色々考えて、和を上手く説得できる言葉を考えたかったけれど、僕がそんなに器用じゃない事は僕自身が良く理解している。

 和も僕がそういう事を言うであろう事は予測していたのだろう、さして驚いた風も無く僕の言葉を聞いていた。

「崇……では私は何の為に生きればいい?」

 そして、僕がそういう事を言うであろうと解っていたが故に、彼女は逆に僕に問いかけた。これは、試されてるのだろうか。納得の行く答えでなければ僕の要望を跳ね除けると。

違う、彼女は求めているのだ。

勝手な考えかもしれないが、以前ほど彼女に死にたいという意思は無い。

自惚れかもしれないが、僕を得た事で彼女は生き続ける事も選択肢に入れたはずだ。

ならば、彼女はこの生に如何に意味を持たせるべきかと考えている。無限の命を持ったまま、僕と言う絶大な暴威を持ったまま、ただ漫然と生きるのか。次元断層目当てに寄ってくる異世界人を、ただ追い払って生きるのか。応えは、否だ。

「一緒に生きて、未来へ行こう。和が目指した未来へ。だけど……それは死ぬためじゃなくて、救うために」

「救うため……?」

「うん。次元兵器が出来る未来へ行ってさ、僕達で手に入れよう。それでさ、兵器としてじゃない……自由に次元と時間を渡る道具にするんだ。それで……土蜘蛛や他の異世界人を助けてやろう」

 僕の言葉に、和は目を丸くしている。彼女の事だから、僕が一緒に生きられるから二人で出来る事を探していこう……くらいは予想していたかもしれないが、どうやら予想以上だったらしい。

「未来に向かって生きて、生きて、生きまくって。異世界人を助けまくって……精一杯生き抜いて、やる事をやり尽くしたら……その時は、二人で笑って死ねばいいさ」

 ぽかんと呆けた和の顔。やがてその目尻にうっすらと涙が浮き、まるで泣き笑いの顔になる。

「……気の遠くなる旅だぞ?」

「そうだね」

「成功する保証は無いんだぞ?」

「成功するまでチャレンジするさ」

「後悔……するぞ?」

「じゃあ、和が支えてくれ」

 そこまで言い切った時、和の目から涙が零れた。泣き叫びはしないものの、押し殺した嗚咽は長い時間続く。

「本当に、君には……泣かされっぱなし、だな」

「人聞きの悪い事を言わないでくれ」

 嗚咽混じりに微笑む和を、僕は抱きしめる。震える背を、まるで赤子をあやすようにポンポンと軽く叩いてやった。「子供扱いするな」と耳元で彼女がむくれる声がしたけれど、僕に体を預けたままだから特に怒ってるってわけでもないんだろう。

 確かに……僕の考えは甘いのかもしれない。化け物になった事実を受け入れても。この先も化け物と戦っていく事を覚悟したとしても。これから待ち受ける膨大な時間は、海が岩礁を削るような緩やかさで僕の覚悟を蝕んでいくのかもしれない。

 だけど、程度の差はあれ未来を恐れ過ぎるのも馬鹿だ。何が起きるか解らない未来を、自分の想像で不安一色に塗り潰すなんて愚かな真似はしたくない。

「きっと、大丈夫。和がいてくれるなら、いつだって希望を見つけ出せる」

「……そうか。なら私も君といる限りは希望を失うまい」

 僕を……僕たちを、楽観的だと笑う人がいるなら笑ってくれて構わない。僕たちの選択は愚かではない。人は、無限の命だろうが有限の命だろうがそうやって生きていく。日々から、友から、愛から希望を拾い上げて。

 僕を……僕たちを、異常だと罵るならば好きにしてくれて構わない。日常から異常に叩き込まれて、これほど前を向けるものかと。だけど、僕たちは僕たちだ。誰が信じずとも、信じあえる僕らは前を向いたのだから。

 和を抱きしめたまま、僕は一緒に立ち上がる。彼女の頬に軽く口付けすると、その手を引いて玄関へと歩き出した。別に、今から旅に出ようって訳じゃない。出掛けなくちゃ行けない事も無い。ただ「ドアを開けて外に出る」それが旅立ちの為の儀式のようで。

「じゃあ、僕たちを始めよう」

「……うん」

開け放ったドアの先から、眩い光が降り注ぐ。それが、僕たちの新しい始まり。約束を交わした僕らの、最初の一歩だった。


◆◆ ◆


「さて、こちらの首尾だが……」

 和が僕の隣に立って手を繋ぐ。あの日から一ヶ月、予想していた通りに次元断層狙いの異世界人と幾度も交戦があった。

 勿論、土蜘蛛のように救えない者もおり、解り合えぬままに命を奪った者もある。だが、救えないまでも解り合える者もまた多く存在していた。

「猫又が我々に力を貸してくれるそうだ。人への擬態能力を持つ点も心強い、早速情報収集に入ってもらっている」

「一つ目小僧からは?」

「次元断層絡みと思しき情報が一点。あとは君の標的が四件だ」

 いきなり喧嘩を売ってくる輩もいれば、お願いしますと頼みに来る者も多くいた。残念ながら土蜘蛛の時と同様に、彼らを望む場所に帰してやる事は今の僕らには出来ない事だ。

 ところが、僕らの目指す未来を知る事で協力を申し出る者がいた。彼らの多くは僕らのように長い生を生きる事が出来ない。協力してくれても、君たちを直ぐに救う事は出来ないのだと説明しても、彼らは一様に口を揃えて言うのだ。

【ならば君たちが時を行き来する術を手に入れたなら、この世界に……この時代に帰ってきて私たちを救っておくれ】

 ……と。元より、次元兵器でここに流された異世界人を救う事は目的に含まれているのだ。助けるべき彼らを迎えに行くのだという思いは、きっと僕らを後押しする力になる……そう考えた僕らは、力を貸してくれるという異世界人の力を借りる事にした。

「事実、彼らが持つネットワークは広大だ。私もまだまだ世界を知らなかったと見える」

 肩を竦める和に、僕は苦笑する。何せ「妖怪」と呼ばれる彼らは人間には及びもつかない力を持っている事が多い。こと情報収集に関しては、下手に僕らが歩き回るよりも遥かに正確で膨大な情報が手に入る。

 今や僕らの協力者はゆうに二桁に上る。これから歩む未来を考えればまだ増える可能性はあるし、とんだ百鬼夜行が生まれたものだ。

「さて……じゃあ僕もそろそろ仕事に入らないとね」

 顔の皮膚が、パキパキと硬化し始める。

「ああ、次元断層絡みは我々の仕事だ。標的は通称《飛頭蛮》。調査によると次元断層での回帰願望は無し、狐と同類と言えば解るか?」

「……理解したよ。被害者は?」

「残念ながら……既に三人は喰われている」

 振り向かずに問うた僕の背から、怒りを含んだ和の声がする。服の下で、メキメキと体が膨張し始めていた。

躯体変換(リアクト)

 服が一気に弾け飛び、限界まで膨れ上がった体が一気に鋼の硬度に達する。街の灯を照り変えず黒銀の装甲に炎の鬣が噴き上がる。

『オーケイ、交渉の余地無し。キチっとブチ殺してやるさ』

 それが人間であるならば、てめェの罪を思い知らせるためにも半殺しくらいにゃさせてもらうが最終的な判断は人間の司法機関に任せる。

 しかし妖怪とオレたちが呼ぶ異世界人の大半はこの世界に住む人間を超えた能力を持ち、人には捉えられず、裁かれる事は無い。勿論、オレたちに敵対的な異世界人全てを殺すような横暴な真似はしていないが、それでも狐のようなどうしようもない輩が多数存在するのも事実だ。

 化け物同士を縛る法が無いなら、あとは単純な解決方法。それこそ罪には同等の罰を与えるくらいしか無い。勝手な話しだが、異世界人の犯罪者を手元に置いて更正させてやるなんて余裕はオレたちには無いのだ。

「……回線接続(コネクト)は移動中に行う、いいな」

『オーライ、マスター』

 応えてオレは地面に肩膝を付く。このやりとりも慣れたモンで、姿勢を低くした俺の元に歩いてきた和は小さく跳んでオレの膝に座った。彼女の背と膝の下に腕を差し入れて持ち上げる。いわゆる「お姫様抱っこ」ってヤツだ。

『んじゃあ飛ぶぜ。いつもどおり、しっかり掴まっててくれ』

 スラスターを展開し、膝を屈める。後は此処から大ジャンプを決めて飛行に入る……その時、腕の中にいる和がオレに問いかけた。

「崇、君は後悔するか? 自身が選んだ道を」

 君が選んだ道は、認められる事の道だ。

 君が行っているのは、悪を討つ行為でありつつも世界は正義と認めない。

 君と私だけの孤独な道のりで、誰も深く関われず、誰にも深く関われない。

 その問いは、和から問われているようでもあるが、自身が内面から何度も問うて来る言葉だろう。

『クックック……なぁ和、何度も言わせんなよ?』

 解っているのさ。俺がやってることが如何に幼稚な事か。暴力で解決する正義なんてありゃあしねェと、誰より俺たちが解っている。

 だが、頭でっかちな奴等はヒーローが正義の味方であると勘違いしてやがる。善という存在が正義を翳し、悪を滅ぼす。それがヒーローだと。そうして人々に安息と与えるのも、確かにヒーローを言えるだろう。

「ふふ……それは済まないな。私はどうにも君のアレがお気に入りでね」

 だが、正義と道理で裁けない悪は必ず存在し、正義の味方がその在り方を貫くならば救えぬ誰かは必ず存在する。悪を駆逐するのは正義では無い、罪に理を持ち込まず裁く単純な力だ。



 ああ、必要ならオレは世界の敵になっても構わない。かつて《支配者》と呼ばれる存在に世界が団結したように、オレを唯一の敵として世界が手を取り合うというならば……ほら、それだって世界の架け橋になったヒーローだろう?

 だから、オレに後悔なんて無い。そして傍らにいる君が望んでくれるなら、オレは何度でもこう言おう。スラスターを全開にして夜空に飛翔する。



『この世界には、ヒーローが必要なのさ』










                       FLASH BACK     完


どうも、福朗です。


最後まで目を通して頂いた方、本当にありがとうございます。感想云々では無く、少なくとも最後まで目を通して頂けただけでも大変ありがたい思いです。

プロローグ前書きでも申し上げました通り、本作は某社の新人賞で落選した作品です。編集さんには中々手厳しい指摘を多々受けており、心折れそうだったのも今は良い思い出ですね。(特に「キャラクターがストーリーに進まされている感がある」という指摘は思わず肩を落として凹んだほどです)


しかしながら、良い結果を伴わなかったと言えど苦心して書いた作品は愛しいものです。そしてこの作品が「楽しい」「面白い」と思って頂ければ……それだけでもこの作品を書き上げた意義があったかと思います。


周りの友人は二次創作がメインですので、オリジナル作品を公開出来る場な大変ありがたいものです。

私も皆様の作品を楽しんで読んで行きたいと思います。投稿もまだ頑張りますよ!

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