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短編小説(ゆんちゃんのお話)

『お父さん』なんて呼ばれたくない!

作者: 歌池 聡


※しいなここみ様主催『瞬発力企画』参加作品です。お題は『お父さん』。



 朝起きたらまずおトイレに行って、洗面所で手と顔を洗って歯みがき。これがゆんちゃんの朝のお約束です。


 それからダイニングに行くと、パパとママが朝ごはんの用意をしています。お休みの日は、パパもママといっしょにごはんを作るのです。

 かずや兄ちゃんはもうイスに座って、ぼうっとテレビを見ています。


 いつもと何も変わらない朝。でも今日のゆんちゃんは、いつもとはちがうことをしようと昨日から決めていたのです。


「あら、ゆんちゃん、おはよう」

「おお、ゆん、おはよう。この頃、ちゃんと一人で起きてこられて、えらいな」

「ゆん、おはよ」


 みんながあいさつをしてくれます。さあ、ゆんちゃん、昨日から何度も頭の中で練習していた、新しいあいさつをする時です。


「おはよう、『お父さん』、『お母さん』、お兄ちゃん!」






「お、おい、ゆん! どうしたんだ急に」


 かずや兄ちゃんが、あわててゆんちゃんをリビングにつれてきてたずねます。

 パパがコップに牛乳を注いでいるとちゅうでピタッと動きを止めて固まってしまったので、ママはあふれた牛乳をふくのに大あわてです。


「え、べつに? 『わたし』はふつうにあいさつしただけだよ?」

「うわ、そっちもか──。急に呼び方かえるから、パパがびっくりして石になっちゃったじゃないか。何があったんだ?」


 これはちゃんと理由を話さないといけないみたいです。


「昨日、お友だちとそういう話になったの。何か『お父さん』『お母さん』ってよんでる子が多くて。『パパ・ママよび』とか、自分のことを名前で言うのが、何だか子どもっぽいって言われちゃったんだ」

「子供っぽいって──子供なんだから別にいいじゃん。僕だって『パパ・ママ呼び』だし。

 気にしなくてもいいと思うんだけどな」

「でも、ゆんちゃんが色んなことできるようになったら、パパたちもよろこんでくれてたでしょ? だから、今回もよろこんでくれると思ってたのに。

 パパはゆんちゃんが大きくなるのがうれしくないのかな……?」


 ゆんちゃん、パパがショックを受けてたことがショックだったみたいです。ちょっと悲しい気持ちになってきちゃいました。


「うーん、嬉しくないわけじゃないと思うけど、何て言ったらいいかなぁ」


 かずや兄ちゃんが困っていると、そこにママが混じってきました。


「そうね、『嬉しいけどさびしい』ってところかしら」

「──どういうこと?」

「ゆんちゃんが大きくなっていくのは嬉しいのよ? でも、小っちゃかった頃のゆんちゃんに会えなくなっていくのがさびしいっていうことなの」

「──おんなじゆんちゃんなのに?」

「まあ、そういうものなのよ。何も無理して、急いで大きくなろうとしなくてもいいのよ。自然と変わっていくものだし。

 和也もそうよね?」

「え? 僕?」

「和也も家では『パパ・ママ呼び』だけど、最近人前では『お父さん・お母さん』って呼んでるわよ」

「そうだっけ?」

「まあ、ゆんちゃんもそのうち自然と使い分けできるようになるわ。今は呼びやすいように呼んでくれていいのよ」


 そう言ってから、ママはちょっとだけきびしい顔になりました。


「ただし、今日みたいにいきなり何かを変えるのは止めてちょうだい。

 パパったら、ゆんちゃんのことだとやたらに打たれ弱いんだから。心の準備をさせてあげないと」

「そうだよね、びっくりさせちゃったら、パパかわいそうだもんね」

「違うわ。牛乳がもったいないからよ」


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― 新着の感想 ―
嬉しいけどさびしい。 これは正しく、親心の複雑さですね。 だからこそ、我が子の成長はじっくり見守りたいものなのですね。
ゆんちゃん、相変わらずかわいい(*^^*) ママさん、厳しい(^.^;
パパの悲喜こもごもが最後の一言に集約されてる気がします。 落語のオチみたいで素晴らしい!とは思うのですが、何かこう、胸につまるものが……(*´Д`)
2025/05/16 20:43 退会済み
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