罪人【閃光】
異世界西洋と異世界和風が入り混じった世界──刀鍛冶が盛んな谷に刀匠たちが打つ鎚の音が朝から晩まで響く。
その里村の一軒に、名匠の称号を与えられた男がいた。
男は最後の製作依頼を受けた、斧と剣を合わせたような武器剣に、銘を刻んで鎚を打ち終えた。
別の職人が作った金属の柄に武器剣の中子を押し込んで、ネジを締めて完成した【閃光】と命名した重めの黄金剣を眺めて呟く。
「恐ろしい武器を、刀匠人生の最後に作ってしまった……これは、凶の武器だ」
太陽の力を秘めた灼熱の剣──所持した者が使い方を誤れば所有者もろとも、全てを焼き尽くす。
「やはり、断るべきだった……王から最高の芸術品にもなる、武器剣の製作を依頼された時に断るべきだった」
刀匠が床に置かれた黄金剣を眺めていると、柄の部分を作った金工師がやって来て。
完成した剣を見て言った。
「見事なモノが完成したじゃねぇか」
「まだ、完璧じゃない……柄尻の窪みに何か宝石のようなモノを埋め込む部分があるが……これはなんだ?」
「あぁ、その部分な……なんとなく、夢で見た姫サマから指示されて作っちまった……その剣の心が収まる場所かも知れねぇな」
金工師は勝手に刀匠の家に上がり込むと、酒を飲みはじめた。
「勝手に人の家の酒を……」
「いいじゃねぇか……人生最後の武器剣を打ち終わるまで、酒断ちしていたんだろう……まぁ、飲め」
完成した黄金剣を肴に酌み交わす、刀匠と金工師。
一杯目の酒を飲み干した金工師が言った。
「知っているか……海の向こうで〝妖星ディストーション帝国〟とか言う奴らが侵略を開始したらしいと」
「知っている……この世界はどうなるコトやら……この剣が美術品として飾られる、平穏な世界ならいいが」
「案外、侵略者への貢ぎ物に使われるかも知れないぞ……この世界のお偉いさんなら、交渉に利用するかも知れねぇな」
その時──酒のツマミを盛った皿を持って、刀匠の娘の刀夏が部屋に入って来て、無言で皿を二人の間に置いた。
「お、気が利くね刀夏ちゃん」
幼い頃に喉の病気で言葉を失った刀夏が、微笑みうなづいた。
「この【閃光】を扱える者は、この国にも世界にもいないな……宝の持ち腐れとは、このコトだ」
「まったくだ、妖星ディストーション帝国の侵略宣言に、この世界の各国を治める者の多くは降伏を決めた……それも、選択肢の一つかも知れねぇがな……痛っ、ツマミの中に何か入っていやがった」
金工師が口から出したのは、罪人の宝珠だった。
少し宝珠を眺めていた金工師は、柄尻の窪みに罪人の宝珠を当てはめる。
宝珠は最初から、そこに収まるコトが決まっていたかのようにハマった。
「なんだ、この宝珠は?」
刀夏も、刀匠と金工師と一緒に宝珠を覗き込んでいた時──刀夏の体が宝珠の中に、光りの霧状に変化して吸い込まれて消えた。
「刀夏!」
黄金の武器から女性の声が聞こえてきた。
「おとうさん、あたし喋れる……喋れるよ!」
閃光に吸収されてしまった刀夏は、宝珠の力で全てを知った。
十四人の罪人のコト。
自分を必要としている世界があるコト。
そして、自分がいる世界では【閃光】を扱える者が皆無なコトも。
決断した刀夏こと、閃光が父親に言った。
「あたしを裏山の祠の中に納めて……そこが、月魂国に繋がる道だから」
父親の刀匠と、金工師は言われた通りに裏山の祠に閃光を納めた。
扉を閉めると、眩い光りが祠の中から迸り、祠は爆発して刀夏の心が入った黄金の武器は消えていた。
「刀夏ちゃん、行っちまったな」
「あぁ、行った……これで良かった」
残った刀匠と金工師は、その場に座り込んで空から下降してくるディストーション帝国の侵略宇宙船を肴に、持ってきた酒を酌み交わす。
「残ったオレたちは、この世界の最後を見届けようじゃないか」
「だな……ひとりぼっちだった刀夏ちゃんにも、別の世界で仲間や友だちができるといいな」
秋桜が、滅びゆく世界で風に揺れた。




