第37話・策略と陰謀と軋轢の9つの悦楽三昧たち
鉄馬は、考えて、考えて、考え抜いた。
(カイジンを倒すか……倒すとしても、今までと同じ方法じゃダメだ……オレが持っている現世界のモノを利用した攻撃が通用するのか? 他に何か? 現世界のモノが? これから先のコトを考えても新たな戦闘フォームが必要だな)
背を向けて岩を積み上げているジンジュウと、怯えているカイジン〝ハンザキ〟……ヘルメットをかぶった鉄馬は、現世界から一緒に来たオートバイを凝視する。
(これも、現世界のモノだよな)
試しに鉄馬が融合を念じる、オートバイは鉄馬の体に特撮ヒーローのメタルスーツのように装着された。
腕の二つのタイヤが回転して、ノコギリの刃ようなモノが出る。
鉄馬の姿に、さらに怯えたカイジン〝ハンザキ〟が鉄馬に対して手を合わせて許しを乞う。
鉄馬はカイジンに背を向けて言った。
「オレが後ろを向いている間に、どこへでも好きな所に行っちまえ……カイジンもジンジュウも」
数歩、歩きはじめ鉄馬の背後で、鈍器の石を持ったハンザキが、赤い口を開いて襲いかかった。
その時──白く長い布のようなモノが飛んできて、背後から鉄馬を襲うとしていたカイジンに巻つき、高速回転でカイジンを締めつけてバラバラに切断した。
一反木綿のような布が言った。
「背後から、襲おうとする卑怯者は嫌いだ……再生できないくらい、微塵切りにしてやった」
長い布は、白虎の姿に戻る。尻尾に罪人の宝珠があるトラが言った。
「【反物】と呼んでくれ……新たに召喚された十四人の罪人の一人だ……ところで、一つ聞きたいのだが」
反物は声を潜めて、竜剣と魔呪に聞こえない声で、鉄馬に質問してきた。
「朔夜姫って、どんな下着を穿いているんだ……フンドシか? フンドシだったら、オレが朔夜姫の股間に巻きついて……昼も夜も……ふふふっ」
新罪人の反物は普段は真面目だが時に、むっつりスケベだった。
◆◆◆◆◆◆
飢餓月村から、月桂城にもどった鉄馬たちは、状況を朔夜姫に報告した。
鉄馬の報告を聞き終わった、朔夜姫が言った。
「そうですか……抂ノ牙と千手三昧が消えましたか、新たな罪人も加勢に駆けつけてくれましたか」
部屋には西洋風の刀剣をした新罪人の【閃光】が、縦置きの太刀掛台に置かれ。
白虎姿の【反物】がネコのように毛づくろいをしていた。
朔夜姫は部屋の窓に近づいて城内を見る。
月桂城の中には、飢餓月村にいた巨大ゴリラの首に、巨人裸男性の上半身が付いたジンジュウが、城の壊れた箇所を修復してくれていた。
鉄馬が言った。
「森へ帰れと言ったら、なぜか城までついてきた……害はない無口なジンジュウのようだ、抂ノ牙の指示で墳墓を造っていたらしい」
「敵意の無い者なら、城内に迎い入れましょう……あの、ジンジュウに名前はあるのですか?」
「〝ゴリオ〟と名付けた……オレが居た世界の担任教師のニックネームだ」
「ゴリオちゃん、いい響きの名前です」
鉄馬は、妹の灯花について聞いてみた。
「灯花はどんな感じで?」
幻月 灯花は、このところずっと、自分の部屋にこもったままになっている。
「食事は食べているようですが……悪目化が進行しています、時々部屋の中から空木 悪目のような笑い声が聞こえてきて」
朔夜姫の言葉に、続く隣の部屋から出てきて反応した者がいた。
「ウソだぁ、あの灯花ちゃんが空木 悪目になっちゃうなんて……これ、ゲームの攻略イベントだよね?」
隣の部屋から出てきたのは【仮想】だった。
フィッシングキャップをかぶってフィッシングベストを着た、グレイ型宇宙人が立っていた。
小型宇宙人の顔には、歌舞伎メイクがされている。
「ボクが攻略さえすれば、灯花ちゃんはバッドエンディングに向かわなくて済むんだよね」
鉄馬が少し苛立った口調で仮想に言った。
「ゲームじゃないんだよ……この世界は現実なんだよ」
キョトンとした口調で、仮想が言った。
「ゲームマスターはどこ? このゲームをクリヤーすれば、ボクはフルダイブのこのゲームから、ログアウトできるんだよね?」
「だから、言っているだろう! これはゲームじゃないって!」
竜剣が鉄馬を止める。
「やめろ鉄馬! それ以上、仮想に言うな!」
鉄馬は竜剣が止めるのを無視して、言い切った。
「仮想がいた世界は、ディストーション帝国の侵略を受けて滅亡したんだよ! その時に仮想は死んで精神だけが、月魂国に飛んできたんだよ!」
首を横に振りながら、一歩後退する仮想。
「ウソだ……鉄馬はアバターでしょう、ボクが友だちになった……ボクの、お父さんとお母さんは?」
鉄馬は仮想に背を向けて一言だけ。
「現実から逃げるな」
そう言った。
「ウソだぁぁぁぁぁぁ!」
鉄馬の言葉を聞いた仮想は、泣きながら部屋を飛び出していった。
仮想の最終技は自分の体を爆発させて敵を倒す……仮想の体はすぐに再生して。
周囲数キロがキノコ雲級の爆発力で吹っ飛ぶ。
魔呪がポツリと言った。
「仮想はショックで暴走爆発しなかったな……もしかしたら本人は、薄々気づいていたり、気づいていなかったり」
魔呪の言葉を聞いて思い出した鉄馬の頬を、冷や汗が流れる。
(しまった……仮想は最強の罪人だけれど、メンタルは最弱の豆腐メンタル罪人だったのを忘れていた)
◆◆◆◆◆◆
その頃──ある街では、ボロ布を体にまとった寄生三昧が、あるモノを探して大通りをうろついていた。
寄生三昧の前に、人相と風体が悪い男たちが数人、立ちはだかった。
「姉ちゃん、どこいくんだい?」
「ここを通りたかったら、金を置いていきな……姉ちゃんの体でもいいぜ……へっへっ」
寄生三昧が少し笑みを浮かべて言った。
「オレ、あるモノを探しているんだけれど……この辺りに、そういった変わったモノを扱っている店に行きたんだけれど……金は無いけれど、オレって最高」
「そうか、最高の体なのか……それじゃあ、そこの路地裏でオレたちの相手を……へっへっ」
男たちは路地裏に寄生三昧を連れ込んだ──数秒後、男たちの悲鳴が響く。
「なんだ、おまえは?」
「バケモノ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
寄生三昧の伸びた産卵管が、一人の男の体に突き刺さる。
刺した寄生三昧は倒れ、刺された男の身体から皮膚を破って裸の新しい寄生三昧が現れた。
古い寄生三昧の体が崩れて砂化する。
再生誕生した寄生三昧は、持っていた入り口を紐で絞れる大きめの巾着型のバゲットバッグの中から、いつも着ている服を取り出して着衣した。
自分の体を撫でながら、寄生三昧が呟く。
「うげぇ、親父の体からの再生復活はキモい……やっぱり、寄生産卵するなら若い鉄馬の体じゃないと……オレって最高」
寄生三昧は、逃げた男の一人が落していった金貨の入った革袋を拾い上げる。
「お金が手に入った……オレの体の代金だな、オレ最高」
寄生三昧は、少し歩いて骨董屋に入った。
店の中を見て回っていた寄生三昧は、棚に乗っていた広口のビンを手にする。
ビンの中には焼き焦げた、肉塊のようなモノが入っていて亀裂から覗く赤身の部分が脈動していた。
「見つけた……銀の貴婦人さまからの頼まれていた、墳墓に祀る影ノ牙の肉片を」
◆◆◆◆◆◆
悦楽三昧と牙幹部の間にも、なにかしらの軋轢と、陰謀と駆け引きが渦巻いていた。
山頂が平らな岩山で、痛覚三昧と闇ノ牙が向かい合って立っていた。
痛覚三昧が言った。
「いいね、いいね、千手三昧が罪人に倒された……いいね、いいね」
「こちらも、抂ノ牙が倒されたわ……残念ね」
痛覚三昧が、短いノコギリナイフを取り出して言った。
「じゃあ、はじめようか……邪ノ牙の空木 悪目は、それほど厄介な存在じゃない……存在が厄介で邪魔なのは闇ノ牙」
「それは、あたしにとって最高の褒め言葉ね……一つ聞かせてもらえないかしら」
闇ノ牙の翼が黒色化していき、闇ノ牙の口調も変化する。
「オレが邪魔だという理由を知りたい……悦楽三昧の中に、オレがいると困るヤツがいるらしいな」
「いいね、いいね、鋭いね……ぶっちゃけココだけの話し」
痛覚三昧は、周囲を確認したから小声で言った。
「悦楽三昧の中に、王ノ牙さまに取って代わろうとしている者がいる……ボクはその者側についた三昧」
「なるほど……9つの悦楽三昧の内部にも、さまざまな事情があるのか」
「ボクの話しはこれで終わり……それじゃあ、死んで」
痛覚三昧は、自分の胸をナイフで刺す。
闇ノ牙の胸にも同じ箇所に傷が生じて、血が噴き出した。
「ボクの体は受けたダメージは、相手に倍のダメージに増幅して与える……ボクの傷よりも、深い致命の傷が生じる」
「なるほど……自虐の能力か」
「次の一刺しで死ね……いいね、いいね」
痛覚三昧が自分の腹をナイフで刺そうとする前に、痛覚三昧の体を赤い空間が背後から包み込む。
「えっ⁉ これって、よくない」
闇ノ牙は痛覚三昧が飲み込まれて消えた空間に向って、多くの黒い羽根を飛ばすと赤い空間を閉じて言った。
「その閉ざされた空間ならオレの体に影響は出ない、好きなだけ自虐しろ……その前にオレの羽根が、おまえの体を切り裂くがな」
闇ノ牙は山頂に転がっていた、目の模様がある小石をチラッと見てから飛び去った。
◆◆◆◆◆◆
月船渓谷にある、ディストーション帝国の前線基地──溺愛三昧が仲間の監視三昧に向って、少し高圧的な口調で言った。
「うけけけっ……王ノ牙さまに忠誠心を見せるなら、用意したカイジン一体を連れて罪人を一人でも葬るであ~る」
目があるアメーバのような監視三昧は、無言で壁の隙間に入って消えた。
部屋に一人残った溺愛三昧は、空間投射パネルを操作して9つの悦楽三昧の一覧を空間投影させる。
【悪食三昧】
✕【分解三昧】
✕【痛覚三昧】
【溺愛三昧】
✕【千手三昧】
【寄生三昧】
【良夢三昧】
【監視三昧】
【改ざん三昧】
溺愛三昧は迷うこと無く【監視三昧】の名前の上に✕印を付けて。
【良夢三昧】の名前の所には?印を付けた。
◆◆◆◆◆◆
カイジン〝未完成ハンザキ〟……カイジン〝ハンザキ〟の左右逆半身の片割れ。
未完成ハンザキは、完全に左右の半身が癒着していないで、胸の辺りからオオサンショウウオ側が裂けていた。
半身が女性ダンサー姿の未完成ハンザキが、地面を這っている監視三昧に向って言った。
「ご主人サマ……あたし、なんなんですか? この姿……なんなんですか?」
ダンサーの前はバレリーナをしていた女性の半身が、回転を利用した強烈な蹴りで市場にある酒樽を蹴り壊す。
ここは、芋虫月町の市場──町の者たちは、監視三昧と未完成ハンザキの出現に逃げてしまっている。
柔軟運動をしながら、未完成ハンザキが監視三昧に訊ねた。
「いつまで待てばいいんですか? 十四人の罪人は本当に来るんですか?」
監視三昧は無言で、市場の棚から落下して散らばっているリンゴの一つを食べた。
◇◇◇◇◇◇
芋虫月町の郊外にある、噴水の公園──そこに、カイジン〝ネコマ・ライト〟が立っていた。
ネコマ・ライトの前方には、真っ黒な影のような武士のシルエットが立っている。
武士のシルエットの尻部分に、罪人の宝珠があった。
ネコマ・ライトが言った。
「やはり、兄弟子でござったか……屍ノ牙の見事な斬り口を見て、すぐにわかったでござる」
シルエットの罪人……【新陰】が言った。
「お互いに数奇な再会だ……弟弟子は妖星ディストーション帝国のカイジン、わたしは月魂国の罪人とは」
「道場の師範代まで務めた、兄弟子にかなうはずがないでござる……屍ノ牙がいなくなった今、拙者は姿を隠すでござる」
「それがいい……」
ネコマ・ライトは、罪人【新陰】の前から去った。
◇◇◇◇◇◇
鉄馬、反物の二人は芋虫月町の市場に到着した。
壁にもたれかけて、ヒマそうにしていた未完成ハンザキが鉄馬を見て。
「やっと来た」と、言った。
白虎の姿をした、反物が言った。
「ここに到着する途中、町娘の股の間を反物化して通過してみた……娘はノーパンで、目の保養をさせてもらった」
「いったい、何をやっているんですか……戦いの前に」
反物はネコのように毛づくろいをはじめる。
「まずは、君がカイジンにヤル気を見せて向って行きたまえ……鉄馬のヤル気を見てからオレは動く」
鉄馬はバイクと融合した姿に変わり、両腕のタイヤを高速回転させる。
未完成ハンザキも、バレリーナのような回転で鉄馬を襲う。
「アン、ドゥ、トゥ」
建物の壁が回転脚で破壊され、続く勢いで鉄馬のタイヤ回転を弾き飛ばす。
(あの脚の回転キックが命中したら即死だ)
鉄馬は武器の罪人【閃光】を呼んだ。
「来てくれ閃光! 刀夏!」
閃光は飛んでこない、反物が言った。
「あぁ今、閃光はスリープタイムだな……よく寝る娘だからな」
「そんなぁ、じゃあ反物が手伝ってカイジンを倒して」
「甘えるな……オレは、自分ができるコトを精一杯やらないヤツを助ける気はない……まぁ、この状況で鉄馬を助けてくれそうなのは、そこにいる新罪人だけだな……【新陰】でも【閃光】でも、オレ【反物】でもない、四人目の新罪人」
反物の言葉に鉄馬は周囲を見回す。
「どこにいるんだ? そんな罪人が」
「いるだろう……その酒樽の上に座ってスマホを見ている罪人が……目で見るな、心で感じるんだ」
鉄馬が心を静めて、酒樽を見た。
樽の上に座っている、変わった女子高校生が現れた。
制服姿で頭に両目の辺りに二つの穴が開いた布袋と、魔女の三角帽子をかぶってスマホをいじくっている。
布袋をかぶった、魔女帽子の女子高校生が樽から飛び降りて言った。
「かったるぅ……バカには見えないと思っていたのに……あたしの名前は新罪人の一人、通称【魔女】……かったるいけれど、鉄馬を助けてカイジンを倒してあげる……見返りのお菓子お願い」
魔女が片脚を上げて言った。
「肉体強化……片脚巨大化。あたしの魔法にホーミングされたら、もう逃れられない」
スマホを見ながら、カカト落しのポーズをした魔女の片脚が巨大化する。
魔女は、巨大化した片脚を、未完成ハンザキめがけて振り下ろす。
高速回転脚で、落下してくる魔女の脚を防ごうとした未完成ハンザキの体が、靴のカカトに踏み潰される。
「はぁぁ、かったるい……」
片脚のサイズを元の状態に戻して、魔女が鉄馬に言った。
「それじゃあ、見返りのお菓子お願い……トリック・オア・トリート」
その時、少し風が吹いて魔女のかぶっている布袋を少しだけ浮かばせた、顎先が見えた魔女が慌て布を押さえる。
「見るなぁぁぁ、あたしの顔を!」
魔女は布袋を押さえると、走り去って行ってしまった。
鉄馬が片手をアイスピックのランスアームに変えて、リンゴを食べている監視三昧に近づこうと一歩踏み出すと、鉄馬の足元に制するように白い羽根が飛んできて突き刺さる。
「これは、闇ノ牙の羽根……どうして?」
半分食べたリンゴを飲み込んだ、監視三昧は逃げていった。
ネコが顔を洗っているように、前足で顔を撫でている反物が呟く声が聞こえた。
「オレには本質が見える……あの、アメーバみたいな悦楽三昧からは悪意や敵意は感じられない……少し前までは野望を持っていたみたいたが誰かに説得されて、その野望は消えている」




