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月魂国~十四人の罪人たち~  作者: 楠本恵士
第九章【漆身呑炭】の死闘
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第36話・新たな罪人たち

「そうですか……巨神ウィロナ神と魔槍ランス・ロッドと、血獣ルカサイトと、機人ジャンヌが亡くなりましたか」

 夜が明けて鉄馬からの報告を聞いた、朔夜姫は涙した。

 部屋の中に居る残っている罪人は、鉄馬、竜剣、魔呪……そして、放浪の罪人で来てはいない『仮想』を合わせると四人。


 鉄馬は、妖星ディストーション帝国の異ノ牙と、ロボットのような変わったヤツを一体倒したと朔夜姫に報告をした。

 竜剣が月桂城での状況を鉄馬に伝える。

「月桂城では、昨夜……提督シュクメルリと脳医フォン・パルモがやられた」

 朔夜姫が言った。

「メイド姫も殺されてしまいました……そのため、召喚できた新たな罪人は四名のみ」


 竜剣が、十四人の罪人名が書かれた木の皮をひろげる。

 そこには、書かれている罪人の中で亡くなった者に✕印が書かれていた。


 竜剣

✕魔槍

 魔呪

✕血獣

✕提督

✕機人

✕舞姫

✕巨神

✕擬態 

✕魚拓

✕牛鬼

✕脳医

 仮想

 鉄馬


 悲壮な面持ちで鉄馬が言った。

「亡くなった者の中に、ロック鳥も加えてやってくれ……オレが倒した、あの変なロボットみたいな、ヤツなんなんだ?」

「それは、おそらく王ノ牙の配下の9つの悦楽三昧の一人でしょう……竜剣、例のモノを」

 竜剣が広げた別の木の皮には、悦楽三昧の名前と特徴が書き連ねてあった。


 王ノ牙

 銀の貴婦人


 悪食三昧

✕分解三昧

 痛覚三昧

 溺愛三昧

 千手三昧

 寄生三昧

 良夢三昧

 監視三昧

 改ざん三昧


 鉄馬が倒した分解三昧の名前には、✕印が書かれていた。

 朔夜姫が鉄馬に言った。

「これは、王ノ牙からわたし宛に送られてきたモノです」

「王ノ牙が? なぜそんなコトを?」

「よほど、自分の配下に自信があるからか……それとも」

「それとも?」

「幼妻の銀の貴婦人の名を、伝えたかったか……ですか」


 鉄馬は、鉄馬なりに倒された牙幹部を考えていた。

✕影ノ牙

✕異ノ牙

✕屍ノ牙

 抂ノ牙

 闇ノ牙

 邪ノ牙


(残る牙幹部は、三人か……倒せるのか? オレたち罪人で)

 鉄馬は、気になっていたコトを朔夜姫に聞いてみた。

「朔夜、悲しんでいる時に悪いけれど……屍ノ牙を倒したのは誰なんだ?」

「鉄馬お兄ちゃん、新たな罪人の一人です」

「その罪人はどこに?」

「シャイな性格ですから、そのうち姿を見せてくれるでしょう……罪人は召喚できた四名に加え……この月魂国でも、宝珠に選ばれた者が罪人として覚醒しています」


  ◆◆◆◆◆◆


 月船渓谷にある、妖星ディストーション帝国の前線基地──その中で濃厚な赤茶色に変色した、悪食三昧の脱皮がはじまっていた。


 殻を破って現れたのは、現世界(アチの世界)の一つで、奥州の会津に現れたと伝えられている怪生物に酷似した生き物だった。

 センター分けした長い後ろ髪を(かかと)近くまで垂らした、怪物の鼻がイッカクの牙のようにニュゥゥと伸びる。

 第二段階の姿に変わった、悪食三昧が言った。

「おやおや、一皮剥けてスッキリしたぞな」


 新たな姿になった悪食三昧に、脱皮を見守っていた銀の貴婦人ルリカが言った。

「外出をしている王ノ牙さまからの伝言です……9つの悦楽三昧の一人と、牙の一人と、ジンジュウ一体と、カイジン一体を組ませて『飢餓月(ハンガームーン)村』に向って……」

 ルリカは、少し言葉を詰まらせてから言った。


「影ノ牙の墳墓を造らせなさい……冬季には雪深い飢餓村を潰して」

「おやおや、承知したぞな」


 飢餓村に向かう悦楽三昧の一人は千手三昧、牙幹部は抂ノ牙が選ばれた。


  ◇◇◇◇◇◇


 同時刻──王ノ牙は近くの街の食堂で、溺愛三昧を共にして食事をしていた。

 溺愛三昧は、胸の扉を開けて王ノ牙から分け与えられた食べ物を操縦席で食べていた。


 食べ終わった王ノ牙は、ハンカチで口元を拭いながら、王ノ牙が食堂の店主に言った。

「なかなかの、美味な料理であった……()めてつかわすぞ」

 

 後ろに実娘の店の看板娘が立つ、店主が揉み手をしながら言った。

「ありがとうございます……あのぅ、そろそろ今までの食べてきた料理のお代を」

 店主が数日分の料理の代金を求めて差し出してきた、店主の手を無視して王ノ牙は話し続ける。

「今までの料理に対する褒美(ほうび)をとらす……『おまえの後ろに立つ娘の首を引き抜いて、自分の首と繋ぎ替える』のだ」

「へっ⁉」


「聞こえなかったのか……早く向かい合って、互いの首を余の見ている前で引き抜くのだ」

 店主は代金請求が書かれた紙片を、王ノ牙に差し出す。

「ご冗談を……それよりも、今までの食べた料理のお代を……お願いします王さま」

「王に金品を請求するとは……溺愛三昧、この親子に溺愛の情を」


 溺愛三昧の胸の扉が閉まり、くぐもった笑い声が響いた。

「うけけけっ……実の親子で激しく愛しあ~え」

 店主と娘が恍惚とした表情で対面して抱き合う、さらには親子で唇を重ねた。

 溺愛三昧の残酷な命令が親子に飛ぶ。

「うけけけっ……愛し合う者同士で首を引き千切って、互いの首と付け替え~ろ……愛し合っているから血は出な~い」


 溺愛三昧に操られた親子は、互いの首を引き抜こうと引っ張る。

「うぐぷぷぷッ」

「あががががッ」

 溺愛三昧が食事の肉切りナイフで、首に少し切り込みを入れると。

 ブチッと血管とスジが千切れる音がして、父と娘は互いの首を引き千切り、痙攣する体で首を乗せ替えた。

 王ノ牙が口から銀色の霧を二人に吐きかけると、割れた陶器を金継ぎで修復するように銀色の筋が二人の首に輪を作り……首が入れ替えった親子は、そのまま厨房へと入っていった。

 厨房で母親の悲鳴が聞こえた。


  ◆◆◆◆◆◆


その日の午後──鉄馬、竜剣、魔呪の三人は妖星ディストーション帝国が現れた飢餓月村へと向かった。


 魔呪はランス・ロッドが残した竜馬のアーサーに乗っている。

 バイクで疾走する、鉄馬が空を飛んでいる竜剣に質問する。

「仮想とは、連絡つかないのか……もう、この状況なら仮想にも積極的に戦いに参加してもらわないと」

「それは、オレも考えているのだが……どこにいるのやら、いざとなったら現れると思うが」

 鉄馬は口を閉じて、朔夜姫が話していた仮想やランス・ロッドのコトを思い出す。

「魔槍は自分の世界で姫君を守れなかったコトを罪人になって悔やみ続けていました……仮想は、ずっとゲームを続けている感覚が続いています」


 朔夜姫の話しから推測すると、仮想が居た世界ではゴーグルを装着したフルダイブのゲームが盛んで。

 妖星ディストーション帝国の侵略があった日も、仮想はゲームを続けていたらしい。

(爆発で家が潰れて、自分が亡くなっているのに……意識だけが月魂国に飛んで、ゲーム世界だと思い込んで放浪しているのか……ログアウトする方法を求めて)


 バイクで街道を疾走する鉄馬の、タンデムシートに何者かが座って鉄馬の腰に腕を回してきた感覚があった。

 タンデムシートから、女の声が聞こえてきた。

「よっ、久しぶり鉄馬って言ったか……オレだよ、寄生三昧」

 勝手にタンデムシートに座った寄生三昧は、鉄馬の胸板を撫で回す。

「やっぱりいいなぁ……この体、鉄馬の体から再生誕生したいなぁ……オレの産卵管が(うず)いてくる……鉄馬の中から誕生できたら、オレ最高」


 タンデムシートから離れて空中をバイクと並走で飛びながら、寄生三昧が鉄馬に言った。

「今日は銀の貴婦人さまから、あるモノを探してくれって頼まれたから……これでな、またな鉄馬」

 それだけ言うと、寄生三昧はどこかに飛び去ってしまった。

 鉄馬が竜剣に言った。

「どうして、悦楽三昧の一人が現れたのに何もしなかったんだよ」

「いやぁ、あまりにも自然体で急に現れたから……どうしていいのか、わからなかった」


  ◆◆◆◆◆◆


 飢餓月村に到着すると、すでにジンジュウが村の半分を崩壊させて墳墓を造っていた。

 巨大なゴリラの体の首から上に、巨人化した青年の上半身が付いたジンジュウだった。

 巨人化した裸の青年は腕組みをして、墳墓の岩をゴリラの腕で積み重ねている。


 墳墓から少し離れて、抂ノ牙と千手三昧……さらに少し離れてカイジンと群れたオカドー&バコシヤがいた。

「ア゙ーア゙ー……ドンナ脳ミソ、シテイルンダ」

「ブホッブホッ、ボゲギャ!」


 カイジンは、半身が等身の二脚直立したオオサンショウウオで、半身がレオタードを着た人間の女性ダンサーの姿をしていた。

 再生力が強いカイジン〝ハンザキ〟が「抹殺」と呟いて。

 飢餓月村に到着した鉄馬たちを指差すと、オカドーとバコシヤが一斉に鉄馬たちに襲いかかる。

 

 鉄馬はガラス部分が割れたミニライトのレーザーアームと、消しゴムのイレイザーアームで、オカドーやバコシヤを倒していく。


 レーザー光線がバコシヤの顔面を貫き、消しゴムがオカドーをこの世から消し去る。


 魔呪のクッター・フィは距離を開けて千手三昧と戦っていた。魔術と呪術を融合させた魔呪で、千手三昧の胞子を粉砕していた。

 身代わりにした等身の呪い人形の体にキノコのような、小さな手が群生する。

「おぽぽぽぽぽぽっ……どこまで、あたしの攻撃を防げるかしら」

 魔呪の肘にも千手三昧の小さな腕が群生してきて、魔呪はキノコのような群生腕を引き抜く。

 その中の一本だけ、見覚えがある女性の腕があった。

「これは、魚拓の腕だったり、そうじゃなかったり」

 急激に成長した魚拓……九十九神(つくもがみ) 唯の腕が魔呪の首を絞める。

「ぐっ……苦しくて死にそうだったり、そうじゃなかったり」


 首を絞められて倒れた魔呪の全身を、千手三昧の腕キノコが包み込んで魔呪の姿は見えなくなった。


 竜剣は触腕をプロペラのように回転させて飛行する、紫色のイカの姿をした抂ノ牙と対戦していた。

 ◇型の鋭い刃物の触腕が、竜剣の剣にぶつかり合う。

「キュキュ……おまえ、研究のじゃま……罪人殺す」


 地上に降りた竜剣が両目を閉じて、今で見せたことが無い構えをした。

 抂ノ牙は多眼を体に出して高速で、構えている竜剣に向って突っ込んできた。

「キュキュ……あきらめて、死ぬかくごができたか……キュキュ」

 両目を開いた竜剣は持っていた剣から、もう一本の隠し剣を分離させて、二刀流になった。

 意外な竜剣の剣技行動に方向転換する間もなく、そのまま突っ込む抂ノ牙。

「キュキュ⁉」


 竜剣の二刀流が、突っ込んできた抂ノ牙を三つに寸断する。

「ギュギュギュ!」

「静の剣『真ノ太刀』……天の剣『神ノ太刀』」

 切断された抂ノ牙は、そのまま地面を滑走して……絶命した。


 オカドーとバコシヤを一掃した鉄馬は、千手三昧に向ってレーザーを放つ。

「おぽぽぽぽぽぽっ、その程度のビーム効きませんわ……おぽぽぽぽぽぽっ」

 シールドで鉄馬のレーザー攻撃を防いだ、千手三昧は神輿(みこし)で担がれて鉄馬に近づいてくる。

(どうすればいい、近づくと魔呪みたいに腕を生やされてしまう……こんなヤツ、どうすれば倒せる)


 鉄馬がそう思った時──突然、斧と剣を合わせたような黄金の武器が飛んできて、鉄馬の近くの地面に突き刺さった。

「なんだ? 空から変わった形の武器が?」


 鉄馬がそう呟いた瞬間、黄金の武器から少女の声が聞こえてきた。

「あたしを使って鉄馬……あたしは、鉄馬に使ってもらうために、朔夜姫に召喚されてこの世界に来たの」

 よく見ると剣の柄の部分に罪人の宝珠が埋め込まれていた。

「新たな十四人の罪人? この武器が?」

「あたしの名前は……刀夏(とうか)……罪人名は『閃光』」

「とうか……だって、まさか?」

「うん、あたしは別世界に存在する生きている器物の刀夏、早くあたしを地面から引き抜いて」

 鉄馬は閃光を地面から引き抜く。

「あの腕のバケモノに向って、あたしを振り下ろしてビームの名前を決めて叫んで」


 鉄馬が、その場で思いついた名称を叫ぶ。

「刀夏ビーム!」

 閃光の武器から、灼熱の太陽のビームが千手三昧に向って発射される。

 千手が溶けて吹っ飛び、中に隠れていた観音菩薩のような本体が溶けて爆発する。

「おぽぽぽぽぽぽ⁉ ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」


 オカドー&バコシヤ、抂ノ牙と千手三昧が倒され。

 残るは抂ノ牙の命令を続行して墳墓を造り続けているジンジュウと、オロオロしているカイジン〝ハンザキ〟だけが残った。


 秘剣の剣技を出した竜剣は、その場に座り込み。

 腕のキノコが消えた魔呪は、地面でピクピクと震えている。

 鉄馬の手から離れた新罪人の閃光は、鉄馬の頭上で数回旋回すると。

「またね、鉄馬」

 そう言い残して飛び去ってしまった。


 鉄馬は考える。

(オレ一人で、どうする? ジンジュウとカイジンの二体の相手をするのか?)

 鉄馬が困惑していると、少し離れた岩の上から男性の声が聞こえてきた。

「罪人の一人として君は、どんな決断をする? オレはヤル気の無いヤツに協力する気は無い」

 声が聞こえてきた岩の上を鉄馬が見上げると、そこに毛づくろいをしている白いトラがいた。

 トラの尻尾の先には、罪人の宝珠が付いていた。

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