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月魂国~十四人の罪人たち~  作者: 楠本恵士
【第二部】第八章・水面下で進行する計画【深謀遠慮】
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第26話・悪しき計画と新たな牙

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……っ」

 死人が蘇るような声が、紡錘(ぼうすう)型の(まゆ)のようなモノの中から聞こえていた。


 月魂国の山中に、菌糸を張って潜む妖星ディストーション帝国のウィルス型母船内部──生体的な部屋の中央にある、天井から床まで繋がった紡錘(ぼうすう)型の(まゆ)のような内臓のようなモノが脈打っている。


 少し離れた生体の岩のような場所には、四枚の白い翼を広げた天使【闇の牙】が座って爪の手入れをしていた。

 突然、脈打ちしていた紡錘型の物体の表面に亀裂が走り、中から粘液を滴らせた。

 髪が足元まである、男か女か判別できない裸身の人物が転がり現れた。

 闇の牙が現れた奇怪な人物に向かってオネェ口調で言った。


「お目覚めね……邪ノ牙……空木 悪目(うつろぎ あくめ)

 髪の毛で顔が見えない空木 悪目が、闇の牙に訊ねる。

「まさか、この姿にもどる時が来るとはな……眠っていた間の、牙たちの様子は?」


「異ノ牙は、悪目の指示を守って大人しくしていてくれたけれど──他の牙を抑えるのが大変、(しかばね)ノ牙は『カイジン』連れて勝手に出撃しようとするし。影ノ牙は家族を探しに遠方まで徘徊するし。狂ノ牙のイカは新作『カイジュー』の性能を試そうと、近くの村を襲うし……あたし一人で、あの連中を抑えるのは大変だったのよ」


「何か他にも報告するコトはあるか?」

 磨いた爪を眺めながら闇の牙が言った。

「良い報告と悪い報告があるわ……どちらを先に聞きたいかしら?」

「良い報告から」


「最良のスペア体、幻月 灯花(げんつき とうか)に、悪目が施した処置は拒絶反応もなく順調に浸透しているわ……肉体と心が悪目の心を受け入れたみたい。今の彼女は灯花であり、悪目でもあるわ……これなら灯花の体に悪目が意識を移植しても彼女は、完全な空木 悪目になるわね」


「悪い報告は?」

「ディストーション帝国の第七本隊から、新しい牙幹部が派遣されて来るわ……あの、銀色に輝く幹部よ。眩しいからサングラスが必要になるわね」

「また、厄介な幹部が派遣されて来るな…幹部と一緒に【9つの悦楽三昧】も来るのか?」

「おそらくね、十四人の罪人に匹敵する力を持つ、快楽三昧たちも来るわよ『悪食(あくじき)三昧』とか『溺愛三昧』が」


 顔の前に垂れ下がった髪を少しだけ手で横に寄せて、悪目が言った。

「これは、今いる牙たちに命じて多少の犠牲を払っても、罪人を始末させた方が良さそうだな……ディストーション帝国は無能な者は容赦なく切り捨てる……この化け物みたいな姿は前が見えにくい、隣の部屋で身支度を整えてくる」


 数十分後──髪を切り、丈が短いヘソ出し軍服スカート姿で、ヘソに人工宝珠が埋め込んだ──空木 悪目が現れた。

 悪目が闇ノ牙に訊ねる。

「第七本隊から派遣されてくる牙幹部は、いつ到着する?」

「さぁ、もうすでに月魂国に入り込んでいるんじゃないかしら? いろいろと観察をしているのかも知れないわね……十四人の罪人を誘い出すのなら【風月洞】の辺りがいいと思うわ」

「風月洞か……罪人を倒すために、影ノ牙を少し強化改造するか」

 そう呟いて、悪目は不気味な笑みを浮かべた。


  ◇◇◇◇◇◇


 月魂国、月桂ノ都の月桂城内──中庭で幻月 鉄馬(てつま)は愛用のバイクを布で磨いていた。

 そこに、妹の灯花がひょこひょことやった来て。

 いきなり、鉄馬に抱きついて言った。

「鉄馬お兄ちゃん、大好き!」

 抱きつかれた鉄馬は、少し困ったような顔をしながら嬉しそうに苦笑する。

「おいおい、やめろよ……罪人たちが見ているだろう」

「だって、大好きなんだもん」

 無邪気な表情の灯花だったが、鉄馬から顔をそむけた一瞬。

 別人のような冷ややかな笑みを見せた。


 そんな兄妹(きょうだい)の様子を、少し離れた場所から。

 脳医と牛鬼が並び立って眺めていた。

 頭に角が生えた大男の牛鬼が言った。

刮目(かつもく)せよ、仲が良い兄妹の姿を……ん、どうした脳医、難しい表情をして?」

「少し気になるコトがありまして……ワタシの思い過ごしなら良いのですが」

 子供姿で手先が隠れるサイズの白衣コートを着た、脳医は鉄馬の腕にしがみついている灯花を凝視していた。

 牛鬼が脳医にクイズを出す。

「ここでクイズだ、脳医が気にしているのは。鉄馬か妹の灯花か……どっちだ?」


  ◇◇◇◇◇◇


 単車の磨きが終わり、灯花が自分の部屋にもどり。

 鉄馬も一人、自分の部屋で緑茶をすすって羊羹(ようかん)を食べながらくつろいでいた。

 鉄馬の口から言葉が漏れる。

「灯花……月華遺跡から連れてきた時から、どこか雰囲気変わったな」

 鉄馬は妹に違和感を覚えていた。

(灯花であるコトは間違いないんだけれど……まるで、別人といるようだ)


 鉄馬は腰のウエストポーチの中から、融合可能なアイテムを取り出すと、机の上に並べて再確認する。


 電気残量がない乾電池。

 ガスの切れた使い捨てライター。

 尖端が丸くなったアイスピック。

 少し使った消しゴム。

 バネが弱くなった洗濯バサミ。

 羽が一枚無い手動扇風機。

 コードが千切れたイヤホン。

 そして、腰のナイフケースとガンホルダーには、折れたサバイバルナイフと、モデルガンが収納されている。


 鉄馬が融合して武器として使えるのは、鉄馬の現世界のモノだけで、異世界のモノとは相性が悪く融合できない。

 ガラクタのような現世界のモノでも、融合すれば、ちゃんとした武器に変化する。


 鉄馬の首には鉄拳の形をした金属のペンダントが、提げられている。

 先日、朔夜姫から誕生日プレゼントでもらったモノだった。

 磁気を帯びた鉄拳ペンダントも、現世界から持ち込まれたモノなので腕に融合させて武器化できる。

 ウェストポーチの別のポケットを、いろいろと探っていた鉄馬の

指先に固いモノが触れた。

(なんだ? コレ?)

 つまんで机の上ふに出すと、ガラス部分が割れたミニライトが出てきた、乾電池は入っていない現世界のモノだった。

「最初からウェストポーチの中に入っていたのか? 収納場所が多いから気がつかなかった」


 鉄馬が壊れたミニライトを眺めていると、部屋に子供姿でメガネ児童の脳医──フォン・パルモが入ったきて言った。

「少しいいかな? 話したいコトがある」

「わざわざ言葉で話さなくても、オレの頭の中を読んで直接、脳に伝えてくればいいだろう」

「ワタシが罪人の頭の中を読むのは、現状を把握して作戦の練る時だけだ……好き好んで他人の見聞きしているコトを普段は覗き見はしたくはない……それに、ワタシが罪人の脳に伝令できるのは一方通行で会話は成り立たない」


 サイズが大きい前開きの白衣コートを着て短パン姿の脳医は、少し悲しい表情で苦笑した。

「ワタシは本来、会話を楽しみたいんだ……妖星ディストーション帝国に居た時は、ずっと自分の研究室(ラボ)に、こもりっきりで誰とも会話をしていなかったからな」

「そうか、話しってなんだ?」

「単刀直入に言おう……鉄馬の妹、灯花の中に入っているのは空木 悪目の心だ」


「いったい、何を言って……」

「まぁ、聞きたまえ。空木 悪目は精神移植するスペア体にコピーした、自分の心を植えつけて移植に適応する体かどうかを確かめる……悪目の心を受け入れる適応体か、拒絶して発狂する廃棄体かどうかを……鉄馬、君も薄々気づいているんだろう、妹の違和感を」


 声を荒げて、脳医の言葉を必死に否定する鉄馬。

「うるさい、子供のクセに灯花の悪口を言うな! はっ⁉」

 鉄馬が、しまったと思った時は遅かった。

 怒りで体を震わせる脳医が呟く。

「今……なんと、言った……ワタシを子供扱いするなぁぁぁぁ!」


 フォン・パルモの片腕に装着されている、薬剤の調合も可能な医療実験アームから、小型のパラボラアンテナのようなモノが突出して、鉄馬に向かって電波が浴びせられた。

 頭の中を(わし)づかみされて、かき回せれているような感覚に、鉄馬は床をのたうち回る。

「がぁぁぁぁ、わ、わかった! オレが悪かった! 謝るからやめてくれぇぇ、がはぁぁぁぁぁ……えへっえへっえへへっ」

 脳の快感中枢を、無理矢理いじくり回された鉄馬の口から変な笑い声が漏れる。


 冷静になった脳医が鉄馬に向けて照射していた、電波を中止して鉄馬に詫びた。

「子供扱いされて、つい逆上してしまった……ワタシの悪いクセだ、すまない鉄馬……ワタシは弱い」

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