第3話・月魂国へ
灯花の顔をした女が、開いた手の平の片手を、天に向かって伸ばして言った。
「オカドーだけだと、蚕食鯨呑に時間がかかるから……おまえたちの世界で言うところの〝カイジュー〟もプレゼントしてやろう」
空に赤い空間が出現して、中から落下するように巨大生物が現れた。
町に落下激突したカイジューの衝撃で、建物が崩れる。
二脚で立ち上がったカイジューは、屍生物に蔓系の植物が寄生していた。
腐った恐竜のような形態で、悪臭を放つ腐敗汁を体に開いた穴から垂れ流すカイジューの体からは。
根を張った寄生植物が花を咲かせて……大気を汚染する花粉を撒き散らしている。
カイジューが進行していく大地は、ドス黒く変色して植物が枯れ。
人の心も沈み腐敗した。
灯花の顔をした女が高らかに笑う。
「あはははは……この世界は終わりだ。さて、異世界の月魂国に向かうか」
そう言ってオカドーとカイジューを残した女は、赤い空間の中に消え空間も消滅した。
◇◇◇◇◇◇◇
カイジューと、オカドーには通常兵器の攻撃は、ほとんど無力だった。
荒廃した町をバイクで疾走する鉄馬。
数週間で変貌してしまった世界、あちらこちらにオカドーが出没して人々は怯えた毎日を送っていた。
(ちくしょう、オレたちの世界を、こんな歪んだ世界に変えやがって)
連れ去られた灯花を、連れ戻す手立てもなく。
悶々とした日々を送る鉄馬は、乗っているバイクの燃料メーターを見る。
燃料のバイオエタノール残量を示す、メーターの表示は0になっていた。
(燃料が無くなったのに、これでどうして走れるんだ、このバイク?)
他の乗り物は太陽エネルギーで動くモノ以外は、エネルギーの配給が止まりすべて停止していた。
女性の悲鳴を聞いた鉄馬は、バイクで随所で建物が倒壊している道を走り声が聞こえた方角に向かう。
鉄馬の学校の女子生徒二人が、オカドーの群れに襲われていた。
「ギィギィ、ドンナ脳ミソ、シテイルンダ」
「オマエハ馬鹿……カ!」
「ア────ッ」
奇声を発して、怒鳴り散らすオカドーを鉄馬は、バイクで弾き飛ばす。
飛ばされたオカドーたちは、ベチャと地面に落ちてから不気味に立ち上がる。
「ナンデダヨーッ!」
「チッ……ガギィィィ」
「疲レタ……還リタイ」
意味不明にキレるオカドーは人々から嫌われていた、オカドーは頭が壊れていた。
バイクに乗ったまま、怯える女子生徒を守る鉄馬は、ポケットの中を探る。
(なにか武器になるモノはないか……なにか)
指先が細長いモノに触れた、取り出してみるとカッターだった。
(こんな、小さなカッターじゃ武器にも)
鉄馬がそう思った時──異変が起こった。
鉄馬のカッターを持った手の甲に皮膚を破るように、縁を金細工で囲まれた宝石のようなモノが
現れた。
(!?)
鉄馬が驚いていると、カッターと手が融合して同化した、巨大なカッターの手に。
「うわぁぁ!?」
襲ってくる、化け物オカドー。
「ドンナ脳ミソ、シテイルンダァ!」
「オマエハ馬鹿……カ」
「ナンデダヨーッ」
咄嗟に振り回したカッターの腕が、オカドーを寸断する。
スパッと見事な切れ味だった、
オカドーの胴体は空洞になっていてカラッポだった。
気色が悪い色と、悪臭の体液が少量噴き出した。
頭の方を斬ると、中から小さいオカドーが、ワラワラと溢れて、弾けて消えた。
(オカドーを殺せた?)
鉄馬がそう思った時──手の甲にある宝珠が輝きを放ち、鉄馬の体はバイクごと光りの中に消えて、異世界に次元転移した。