繋がる前の点と点
「はぁっ、はぁっ、しんどぃ」階段を急いで駆け下り、駅のホームに向かっている。
ブザーの音が聞こえてくる。そのせいで焦ったのだろうか。次の一歩を踏み出した足が宙に浮いた。
僕はバランスを崩し、仰向けに倒れた。肩甲骨あたりが痛い。転げ落ちなかっただけ良かったのかもしれないが、
それにしてもツイていない。
電車が動き出したのだろうか。ホームからお馴染みの電車の音が聞こえてくる。
分かってはいたが、ホームに着くと、辺りはすっかり暗くライトが無かったら何も見えない。
次の電車は1時間後。やはり田舎は電車の本数が少ない。
まぁ、こうなったのは自分のせいだ。先輩からの部活動勧誘を断れなかった自分のせいだ。
ソフトテニス部の勧誘がすごかった。というか怖かった。
なんだよ。
「入ったら、キャプテンできる、ボールのピラミッド作れる、板の持ち手ラケット使えるって。終いには可愛い女 の子が女テニにいる、どんだけサボっても良いからって・・・プライド無さすぎる・・・」
「はっ」しまったまた独り言を。自分では分かっているが、癖はなかなか治らないなぁと嘆きながらボロボロのベンチに腰を下ろす。「もうこんな自分嫌だ」頭を抱え猫背になる。僕が一番落ち着く体勢だ。
自分の陰で視界が暗くなる中、何かが反射して光っている。
気になり、拾ってみると濡れていた。銀色のバッチみたいだ。独特のフォントで書かれているので、読めない。
裏側には『ゆい』と字を覚えたての小学生に通じる汚さを感じてしまう、要するに下手な字で書かれていた。
落とし物ボックスに入れて置こうかと思ったその時、電話が鳴った。
ばぁーちゃんからだった。電話に出た途端、
「良かったー。帰りが遅いから悪い先輩に絡まれてるのかと思ったけど、大丈夫そうで」
「心配しすぎだよ。部活動の見学に行ってたんだよ。疲れたよほんと」
「部活動見学・・・そう。あとでお話聞かせてね。その様子だと電車に乗り遅れたのね。気をつけて帰ってきて ね」
「はーい」そう言って電話を切った。
よく、電車に乗り遅れたって分かったな。普段は心配性だけど、たまにこちらを監視しているのかってぐらい状況理解がすごい時もある。小学校でも迷惑たくさんかけたし、心配してくれているのかなと思うと自分は恵まれているなとつくづく思う。
今日の自己紹介全然だったな。もっと上手くやって早く友達作ってばぁーちゃんを喜ばせたかったんだけどなー。
頭の中に今日の自己紹介がよぎる。クラスメートが自己紹介している時を思い出している。
友達を作りたいそんな自分の欲望が思い出させる。今日の一日を。
そしてふと、ひらめいた。
うちのクラスに「ゆい」という名前の生徒が居たことに。
入学式で一緒に写真を撮った人だった。少し圧があって怖いけど、優しい人だ。
僕も今日は人に助けて貰ったんだ。たまには人助けをしよう。
確かばーちゃんとお兄さんが入学式で仲良くしてたよな・・・
連絡しておこう。
僕はばぁーちゃんに電話をかけた。プルルルー
ガチャ、「どうかしたの?大丈夫?まさか事故にあっ・・・」
大袈裟だ。
定期券を見せ、電車を降り、駅を出た。とりあえず、相談だけでもしてみた方がいいかな・・・
さっきから私は部活動問題をどうするかで悩んでいる。言っても無駄かな、お父さん聞いてくれないだろうな。
そんなことを考えながら、立派な引き戸を引いて家の中に入った。
お父さんの靴はなかった。
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