第3段落 フォローでわかる人柄
今、教卓に向かっているのは入学式で一緒に写真を撮った和田、「あ」と「え」しか話せない和田。
表情は澄ましているが、足の動きがガチガチ、腕が胴体と接着でもしているのか?全く動いていない。
ついに教卓にたどり着いてしまった。私は自分の子の初めての授業参観を見ている気分になった。
大丈夫なはず、無難に出身小と名前、一年間よろしくお願いしますだけ言えばそれでいい。
和田が覚悟を決めたように体全体に力が入る。さっきまでの澄ました顔はどこへ行ったんだろう?
「こにょこにょっこにょ・・・・・・・します・・・」
「えっ、、、」
教室全体に❓マークが流れている気がする。私が後ろの席だから、聞こえなかったのだろうか?
でも前の人も気まずそうだ。声が小さすぎる。カブトムシの羽の音の方が大きいぐらいだ。
入学式でおばぁちゃんと話していたボリュームぐらい出せよ。
イカつい先生も困っている。そんな先生が出した解決方法は、、、
「じゃっ、じゃぁ、質問がある人はいないか?」
いかにも評議員をしそうな優等生っぽい眼鏡をした男の子が手をまっすぐ挙げる。
「僕は小学校は私立だったので、給食ではなく、お弁当でした。もしよければ、好きな給食のメニューを教えてほ
しいです」
この質問は優しい。趣味や経歴などプライベートの事よりも答えやすいし、答えによってはこの雰囲気を変えることができる最高のアシスト。うん、100点満点。
「えっと、僕の好きな給食はカレーライスです」
普通すぎる。もう少しひねった答えはなかったのか?
でも、あの男の子がフロォーしてくれたお陰で丸く収ま・・・・
ぷぅうー〜ーーーーん
臭いこそしなかったが、いや、むしろ臭いだけの方が良かったかもしれない。
和田の顔は自分がしましたと言わんばかりに青ざめていた。
クラスの仲が深まったら、こういう事はネタになるが、まだその段階ではない。
薫ちゃんも遥ちゃんも佳奈ちゃんもさっきの評議員くんも何とも言えない表情・・・
史上最悪の自己紹介のスタートが今、完成した。
放課後、私達4人は朝に約束していたテニス部の部活動体験に行こうとしていた。
テニスコートは職員棟の裏側にあって、生徒館から結構遠い。
部活動の成績では、地区総体優勝か準優勝、県総体2回戦進出と行った所らしい。
「薫と遥はジュニアクラブでダブルスでペアを組んでらしいよ」
この3人組の中で少しおとなしめな佳奈ちゃんが小さい声で私に話しかけ、
そしてそれを聞き逃さなかった二人がすかさずその話題に乗る。
「そうそうかおるんは後衛でいっつも必死にボール追いかけてんの。試合前にウォーミングアップするんだけど、
普通屈伸からじゃん。なのに薫は首回しから始めるんだよ」
「もう、なんでいつも言わなくていいことを言うかな遥は。遥だって風呂場でpassingの歌大熱唱してるんだよ。
家隣だから聞こえてるんだからね」
「あっ、テニス以外の話題を持ち出すなんてずるーい。卑怯、最低、最悪、極悪うっ〜えーっとひどい」
「あーっ言葉尽きた。そんなんだから国語の点数低いんだよ」
「でも数学はかおるんより高いもん」
私を挟んでいい合わないで。よし話題を変えよう。と思った時、佳奈ちゃんが、
「結衣ちゃんは今ハマっていることある?」
「私はダンスにハマっているかな。passingのミュージックビデオのダンス練習してる」
「あれ可愛いよねー。私もよく見てる」
二人がさっきの言い争いをやめて話に入ってきた。
佳奈ちゃん優しい。私に気を遣ってくれたんだ。そう言えばさっきも私が話についていけるように色々教えてくれてたし、佳奈ちゃんが一番小柄で若く見えるけど、このメンバーの中で一番大人かもしれない。
夕陽が昇っている空の下、2、3年生がラリーをしているのが見えてきた。
どこかで感じたことがある感覚がする。
別に入部のために来たわけではないけど、自分がこのコートで活動する姿が、この3人と一緒に練習する自分の姿が頭の中に流れてきたような気がした。
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