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4.騎士のロイスさん


 ロイスさんの腕の中はとても安定感があって、安心できた。片手で僕のお尻を支えるようにして抱き抱えられ、実質片手だけで抱っこされているのだ。この安定感は半端なくすごいものだ。偶に余っている方の手で僕の頭を撫でてくれたり、顔を隠すように後頭部を優しくロイスさんの背中に向けて押さえてくれていた。


 そんなことを考えていると、いつの間にか室内に着いていた。歩くたびにすれ違った騎士がロイスさんに挨拶していたりするのが見える。僕の存在に驚く様子も空気から伝わる。


 すれ違う騎士達に緊張して怯えていると、頭をぽんぽんと優しく触られる。


「着いた。ここが食堂だよ。座るかい?」


 周りには数人の騎士が様子を伺うようにこっちを見ているのが分かる。自分の正体がバレるのが怖くて、リラックスして食べられない。バレたその後の恐怖を想像してプルプル震えていると、シルフィーが僕に体を押し付け、撫でていいよと顔を舐めてくれる。


「シルフィー、かわいいね。よしよし。

 …これは、お礼のキスだよ。…ちゅっ。」

(主っ!!!)

「「「「「「「…っっっっ。」」」」」」」


 シルフィーのあまりの優しさと可愛さに胸がきゅんきゅんして、ついおでこにキスしてしまった。沢山の人が見ている前で凄く恥ずかしい。


「このままの姿勢で食べるかい?」

「うん…ううん。やっぱりね、ロイスさんの足が痛くなかったらでいいよ。」

「痛くない。だから大丈夫だよ。座りにくかったら遠慮せずに言うんだよ。」

「うん!あのね、…ありがとっ。」

 「「「「「「「…っっっっ。」」」」」」」



 普通にお礼を言うだけの筈が、急に物凄く恥ずかしくなる。真っ直ぐ目を見てお礼が言えたけど、気恥ずかしさにどうも耐えられなくて、最後に顔を逸らしてしまった。



 食堂にはお肉系の料理が多く一食の量も多い。流石騎士団の食堂だと感心した。


 僕の普段の食事は、貰える食事が多くて一日二食、二日間何も食べられないことなんてざらではない。運ばれてくる料理としては、薄い味のスープと何も調理されていない野菜がそのまま出てくる。


 だからこそ急に沢山食べたり、普段口にしないお肉を沢山を食べたら胃がびっくりして、吐いてしまうかもしれない。それを防ぐためには、スープしか選択肢がなかった。美味しい料理達が目の前に沢山広がっているのに、自分はそれに手がつけられそうにない。なんて悲しいことだろう。


「スープだけでいいのか?お肉もあるぞ。沢山食べな。」

「ううん。僕これだけでいいよ。

 でも、シルフィーにはお肉あげてほしいなぁ。…だめ?」

「…っ。だ、だめじゃないよ。小さい器にスープよそってあげるから食べな。何なら食べさせてあげようか?」

「僕、一人で食べれるから大丈夫っ。」


 流石に食べさせて貰うのは少し恥ずかしい。自分でできることをわざわざ人にやってもらうのは、違う気がする。


 ポタージュスープの様だった。器もきれいで、清潔だ。美味しそうな匂いは勿論、湯気も出ている。久しぶりのご馳走に涙目になってしまう。


「美味しい…。シルフィーは口に合う?大丈夫?」

「ワンッ。」


 神獣が人間の食べ物を食べれるか不安だったけど、美味しそうに食べていてこっちも嬉しくなる。


「…ごちそうさまでした。もうお腹いっぱい。

 ロイスさん、連れて来てくれてありがとっ。」

「もういいのか?まだ全然食べてないみたいだが…。

 遠慮しなくいいんだよ?」

「ううん。もうね、ほんとにお腹いっぱいだから大丈夫だよ。

 …あ、でもこんなに残しちゃってごめんなさい。」

「お腹いっぱいならいいんだ。

 残ったのはおじさんがいただくね。」

「僕ね、もうそろそろ帰るね。他の人の邪魔になっちゃいけないから。」

「…ちょっと待っててもらってもいいかな?

 ここで、この二人とちょっと待っててもらいたいんだ。」

「おじさんを待ってればいいの?」

「そうだ。

 …キース、イアン、頼んだぞ。」

「「はっ。」」


##################

 別館と本館の間の見張りは勿論、それらに面する魔物が出没する森には、我々第一騎士団が主に任されている。


 主であるレイフィウス陛下を主な護衛対象として配置されている我々だが、ここグレース王国に所属する三つの騎士団の中で一番の強さを誇ると言われているのが我々第一騎士団だ。


 その映えある騎士団の団長を務めているのが私、ロイス・ソルジャーである。


 主である陛下のご用命により、別館に暮らすエリーゼ・ダラス。今はダラスという家門がこの国から抹消されたため、ただのエリーゼとなる。そんな陛下の妃の一人である女性の行動を監視するため、本館と別館の堺の道を厳重に警備していたのだ。


 基本は、信頼でき、力も申し分ない部下達に任せているが、偶に、皇宮全体の安全を確認するために、周りの巡回も兼ねて、様子を見に行くことがよくあった。



 今日は、いつも通り様子を見に行くと、いつもと空気が違う感じがした。何か異変を感じ、警備をいつも任せているキースとイアンを見ても、何も変わった様子はない。


 二人の周囲を注意深く観察すると、空間が歪んで、何かがそこにいることが感じられた。重ねて魔力反応も確かめると、膨大な魔力量を持ち合わせた、子供の背丈くらいの体の輪郭が浮かび上がってきた。何故か震えているように体が揺れており、その場から動かないでいる。


 侵入者というには怖気付いており、暗殺者というには何故か震えている…。これはどう対処するべきなのか一向に正解が思い付かなかった。


 取り敢えず怖がっている子供を安心させるため、子供に優しく話しかけつつ、パニックになって逃げられないように二人に周りを固めさせる。


 その子は少し考えていた。突然、その子の姿がクリアに見えてきた。何らかの魔法が解けたのだろう。本人は気付いてないのか俯いて、動かないでいる。すると、顔を青ざめさせたかと思うと、声も出さずに泣き出した。


 二人も私も焦って顔を見合わせる。普段から陛下の側での警護や護衛が多いため、陛下のお子様方と接する機会が少ない。


 だから、我らは子供のあやし方など知らなかった。しかし、私には妻と子供がいる。二人は一斉に私の方を指差し、懇願するように見つめてくる。子供はすでに成人しているため、幼い時のことなど何年前だろう。妻が言っていたことや、やっていたことを何とか真似する。


 取り敢えず涙を拭こうと顔を覗くと、フードから白い天使の羽根のような髪と真っ青な空をそのまま映したかのような瞳が見えた。空が雫で潤い、流れる様は、空が落ちてきて海へと変化しているかの様だ。


 大きな眼を潤ませ、頬を真っ赤にし、小さな口を結ぶように閉じている表情は、何と愛らしいことだろう。二人も思いっきり覗くように子どもの顔を見ては釘付けになり、動けなくなっている。


 子を安心させるためにそっと抱きしめ、頭を優しく撫でる。驚いてはいるが、嫌がったりはしていないようだ。


 「あ、あの…僕…その、お、王都に行きたいだけで、ここに何か盗みにきたわけじゃなくて…。えと、その…。」


 驚いた。声まで愛らしいとは。最終的に男の子か女の子か判断出来ないでいる。二人も悶絶し、私をみてきた。


 すると、どこから現れたのか、子どもの足にしがみ付き、鳴く子犬がいつの間にか現れた。


 子供にばかり意識を向けていたせいか、子犬の存在にまで気付かないとは…。騎士としては、あるまじき注意散漫な意識だ。


「あれ、この子犬どっから来たんだ?」

「ぼ、僕のっ。ぼく」

「分かった。この子犬は君のなんだね?」


 二人も子犬の存在は気付いていなかったらしい。しかも、この子どもはどうやら男の子か…。


 子犬が大切なのか、一生懸命に両手を上に挙げ、主張している。そんな行為にさえ、可愛らしさをかんじてしまう。子犬を抱かせると、とても安心した顔から嬉しそうな表情に変わる。


「僕が飼ってるの。」


 またもや嬉しそうな顔で話す。癒されながらも一度冷静に考える。流石にこんな可愛い幼い子が一人で王都を歩いていたら、人攫いにでも捕まってしまう可能性がある。


 しかも、この子は()()()()()()()()の方でもあるため、一人で行動するなど本来はもってのほかだ。陛下が会いたがっていた子でもあるため、この子の現状の報告のついでに会わせてあげるのが一番いいだろう。


「そうなんだ、可愛い子犬だね。

 もしかして、この子とだけで王都に行くつもりだったのかい?」

「うん…。僕一人で歩けるから大丈夫なんだよ。」


 側にいる二人が、この子が話す度に顔が気持ち悪いくらいに緩んでいる気がするのは気のせいなのだろうか。


「だけど、子供が一人は、色んな人がいるから危ないんだ。今日は、一旦騎士団が使っている食堂に来てみないか?もうそろそろお昼の時間だし、お腹空くんじゃないか?」


 急に陛下の執務室に連れて行くのもあれだし、体調面の簡単な確認含め、もうすぐお昼なのもあり、騎士団の食堂に連れて行くのが無難だと考えた。


 この子と会話して分かったことと言えば、連れている子犬をシルフィーと呼んでいることや、話す前よりはマシになったが、私達に対して少し怯えていることだ。それが騎士だからなのか、男だからなのか、大人だからなのか、それは分からない。


 しかし、服で体を隠しているが、凄く細く、あまり食事をとれていないことはすぐに分かった。


 こんなに細くては、こけたら大怪我をしてしまうのではと考えてしまう。そもそもここまでどうやって歩いて来たのかも不安になる。


「大きくて広いから、迷わないように抱っこして連れてってもいいかな?おじさんに抱かれると高い景色が見えて気持ちいいぞー。」


 つい、声をかけてしまっていた。こんなに怯えているのに何を言ってるのだろう。余計に怖がらせてしまうかもしれない。


「ロイスさん、だっこ。」


 一瞬意識が飛びかけた。横から頭をぶつけた様な音が二回聞こえた。


「っ…。しっかり捕まっててな。」

「あ、団長ずるいっス。」

「俺も抱っこって言われてぇ。」


 何かほざいている部下に睨みをきかせ、優しく抱き止める。


 想像した以上に軽くて心配になるほどだった。顔が強張らないように何とか優しい表情を頑張って保つ。しかし、そんな努力は必要なく、時折もぞもぞと動く可愛い生き物に心から癒されるのだった。


################

 これまでの経緯と()()を伝え終え、陛下の返答を待つ。


 シュリヒト殿下の体調面や様子を特に聞かれ、その度に悲しくも怒っている表情をみせる陛下。とても痛々しい。


「私の可愛い息子に会いたくはあるが、私を……。

 いや、やはり会いに行こう。まずは一目見ないと。」


 何かを決心したかの様に真っ直ぐな目をする。


「ロイド、手の空いている騎士を呼び、別館にいる者達を全員捕らえてこい。」

「はっ。」

「レイフィウス陛下、私は別館の調査を開始しておきますね。」

「ああ。」


 陛下の隣で話を聞いていたベルセド執務長官は、早くも陛下の御心を察し、行動に取り掛かろうとしていた。仕事が出来過ぎる男は、言われる前に自分から言い出すのだと感心させられた。

 

 


 

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