1.今世は王子様に転生?
人は生まれた時からその世界においての役割が決まっているのだと思う。「良い人」、「悪い人」、「良い人に助けられる人」、そして「悪い人に搾取される人」。
僕には前の世界の記憶があり、その時も今も「悪い人に搾取される人」という役割を持っている。人は生まれ変わっても魂が変わらない限りその役割が変わることがないのだろう、と今世に生まれた瞬間から僕は悟ることになった。
前世では、可哀想な母親を持った日本人の子供として生まれた。今世でもその本質は変わることなく、可哀想な王女様の唯一の子である王子として生まれた。今世は身分が高く生まれたが、自分の役割が全く変わることがなかったことから、対して違いを感じることが出来なかった。しかし、大きな違いがあるとしたら国…いや、世界だと言えるだろう。今世は「日本」といった国自体が存在せず、全くの別の世界に生まれ変わったと考えられる。人々の髪色や目の色は日本とは違いとてもカラフルな人ばかりで、勿論自分もその一人だった。
「その気持ちの悪い髪と目をこっちに向けないでくれる?」
「王子のくせに王族の特徴を一つも受け継いでないとか、こんな前代未聞のこと初めてだわ」
「生まれた時からうんともすんとも言わないし、泣き声すら出さないとか不気味な子供ね。」
そんなことを言われても…。本来喋れない赤子にそんな悪口を聞こえるように言うなんて…いや、だからこそ今言ってるのかも知れないけど。だからといって、僕の親でもない人にそんなことを言われるなんて、普通に悲しい。
いつものように、メイドたちは僕の悪口で盛り上がりながらこの部屋を去っていく。いつも思う、掃除をしなくていいのだろうか。前世では僕は部屋の掃除は勿論、洗濯、食器洗いもしていた。しかし、この部屋は僕が起きている時に見る限り、ベッドの洗濯でさえしているように見えない。そのせいか部屋の隅には埃がたまりまくっている。
僕の手足が自由に動くようになったら、すぐさま家事に取り組みたいものだ。この家の使用人たちは少しさぼり癖がある人たちなのだろう。唯一食事は何とかもらえてはいるが、それも母親が嫌々行っていることが赤ちゃんである僕にでさえ分かる。
だから、ある程度一人で、不自由なく動くことができるようになったら、早々にこの家からいなくなりたいと思う。僕がいなくなったことで被る面倒ごとは特になさそうだし、あったとしてもお母さんの家が権力を持ってもみ消すだろう。こういう計画を立てていても、自分という存在がいてもいなくてもどうでもいいことが事実として改めて突きつけられる。その度に気分が大きく落ち込む。だからといって、それを慰めてくれる人はいるわけがないし、前世よりも長生きして沢山生きていたい。そんなささやかな願いを自分の力で達成するべく今世は努力したい。努力すれば何とかなるということを、神様に見てもらえることを自分に納得させるべく今世は生きていきたいのだ。前世が意味のない生ではなかったことを証明したい。
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僕が生まれて二年がたった。相変わらず僕の誕生日を祝う人はいるわけもなく、寂しくも一人で誕生日を祝う。前世でおなじみのバースデーソングで。
「2歳の誕生日おめでとう。」
誰が聞いているわけでもないその囁きが暗い天井に吸い込まれていくかのように消えていく様を僕は眠気に襲われるまで眺めていた。
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「おめでとうございます」
そんな祝う声が遠くから聞こえてくる。僕の誕生日と二日しか違わないのに、凄く沢山の人に祝われている。羨ましさは否めないが、そのおめでたい日に、その子の喜ばしい日にまた僕は、おめでとうと祝う。
僕が住む大きな家は別館と呼ばれていて、本館と敷地が分けられているらしい。それでも、ここまでお祝いの声が聞こえてくるとは、それだけその子は愛されているのだろう。
そして、僕の母親は王様に嫌われており、冷遇されているみたいだ。といっても、母親の家が悪さの限りを尽くしており、王様がそれに手を焼いているのだとか。時には王様のもう二人の妃達に毒を盛って騒ぎを何回も起こしたりとやりたい放題をつくしている。その挙句、最近になって母親の家が取り締まられ、一家もろとも平民落ちや母親の父親に関しては死刑といった罰が下されたばかりだ。
そのことで、母親は機嫌を悪くしており、気性もより激しくなったように思う。最近になり、そのはけ口を僕に向け、暴れまわっている。メイドたちはそれを見て見ぬふりをし、便乗していじめる行為を本格的にとりだした。食事をぬいたり、お風呂に閉じ込めたり、バラエティー豊富なのが張り切っている証拠だ。そのやる気を少しは家事に向けてほしいと常々思う。
でも、僕を目に見えて虐めてくる人ばかりではない。庭師のゾーイというおじさんは、別館の人の中で唯一僕に優しく接してくれる。自分のパンをこっそり渡しに来てくれたり、僕の母親に気に入られ、服を新しく調達してくれたり…。そんな施しをくれる人もいるのだ。
そんな僕だがただ痛い思いをしているわけではない。何と最近になって魔法が使えるようになったのだ。
僕は長生きするにあたって、自分の身を守る方法が必要だと考えた。この世界では、剣と魔法の文化が根強く、僕自身がそれらに対抗できるほどの力を身に着ける必要があると考えた。
この世界では剣と魔法があり、それらが代表的なもの。要は肉体を強くするかしないか。折角転生したというのもあって、魔法を使えるようになることにした。
ファンタジーな世界だから前世の異世界の本を思い出し、それを試してみることにした。似たような世界だからこそ何か通じるものもあるだろうと思って。
思い出しながら試しに体を流れているはずの魔力を感じてみた。目を閉じて瞑想状態になり、体内に意識を向ける。すると、何かが体の中を渦巻いている気がした。前世では感じなかったものの違和感に、これが自分の魔力だと理解し、自分に魔力があったことに安心する。魔力は心なしか温かく、ぽかぽかとしたお日様のようだった。僕が初めて魔力を感じた瞬間、それが僕の体を大きく包むのを感じた。
取り敢えず能力向上のために魔力量の増加と魔法操作を繊細に出来る事を目標に、魔力を増やすために、毎日魔力を使い切ったり、魔力で物を動かしたり、魔法を発動させたり…。
その日から自分のやることが決まったからか、一日一日が早く感じた。