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プロローグ~初めましての恋人~

 目が眩むとは、きっとこういうことを言うのだろう。突然目の前がチカチカと白むようでもあり、逆に色付いて鮮明になっていくようでもあり、スポットライトに照らされた舞台上を見つめる観客の気持ちに似ていた。


 彼がこちらを振り返るまでのその時間を、やけにゆっくりと感じていた。黒髪が揺れて、整った鼻梁(びりょう)(あら)わになっていくのに合わせ、自分の心臓がどくりどくりと大きな音を立てる。その主張は、さながら警鐘のようであった。


 と、同時に。脳内に溢れ出すいくつもの情景。意識して気をしっかり保たなければ、今にも身体が崩れ落ちてしまいそうな感覚がした。


『お嬢さん』


 ああ、そうだ。最初はそう呼ばれていた。


『リエル』


 何度も会いに来てくれた。何度も会いに行った。


『僕の、お姫様』


 ふわりと溶ける双眸に、砂糖を煮詰めたような甘い声。


 瞬きの間に脳裏を駆け抜けた、鮮やかな情景。

 リエルが知らないはずの、その記憶。



「───────こんにちは、お嬢さん。こちらは君の帽子かな?」


 彼が、固まるリエルを認めてにこりと笑う。手の中に収めた帽子を掲げながら向けられたそれには、軽快な調子の中に隠しきれない品の良さが窺えた。


 目を逸らせなかった。目を少しでも逸らしたら、これが現実なのか、それともいつもの奇妙な『夢』なのかわからなくなりそうだった。


「まっすぐ僕の元へやってくるだなんて、この子は僕が好きなのかもしれないよ」


 そうして微笑む美しい青年を、リエルは知らない。


 それなのに、知っている。


 リエル=フォン=マティーニは、十七歳の誕生日を迎える目前、とうとう夢にみた『恋人』に出会ってしまった。


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