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また、桜舞い散るこの街で  作者: 紅茶 螺鈿
8/13

「思い出の品 2」

翌日、私たちは学校へ向かった。

「ねぇねぇ、紫乃…校舎の取り壊しって、確か今日だよね?」

「うん、そうだね…だから多分学校集合なんだろうね」

私はなんだか心寂しくて、すこし下を向いて歩いていた。すると紗倉が私を呼んだ。

「ねぇ紫乃、ずっと隠してたんだけど…いいかな?」

1枚の桜の花びらが、私と紗倉の間を飛んでいく。

「大事な話なんでしょ?聞くよ」

私はその場に立ち止まり、少し後ろに居る紗倉の方に振り向いた。

それからしばらくの沈黙が続いたあと、紗倉は自分の頭を触った。

「これね、ウィッグなんだ…地毛じゃないの…」

そう言って、頭に手を伸ばし、それを外した。

「もう…分かるよね、紫乃になら言っても大丈夫だって思って…」

「…紗倉が治療中なのは知ってたよ、でもそんなに末期だなんて知らなかった。…言ってくれたら!私だって…」

私の頬に水が1滴流れた。

「いつ言おうかなって思ってた。そして今日学校が取り壊されるって知って…みんなが居ない、今の時間に言うのが1番いいなって思って…紫乃、あの約束叶えられないかも…許してくれる?」

目の前にいる紗倉は、笑っている。その目は涙で溢れているというのに…。

「許すわよ、私だってアンタのこと信じてんだからっ」

「…ありがとう。」

紗倉は手に持ったそれを頭に戻した。

「言ってくれてありがとう紗倉。」

私が顔を上げると目の前に紗倉の指があった。

「涙、拭いてあげるね、紫乃」

紗倉の親指が、私の左頬を撫でる。

「よし、これで大丈夫だよ、紫乃…じゃあ行こっか、みんな待ってる。」

「そうね、行こうみんなのとこへ」

ーーー

「もって…あと5年ですね…」

私は医師からそんな言葉を聞いて唖然としていた。横に居る紗倉は、無言でうなづいていた。

高3の秋、体調不良が続く紗倉を心配し、病院へ付き添った日、告げられた紗倉の病名と宣告。

「今はまだステージ1と小さいので、今のうちに治療を開始すれば、2年後には健康な身体に近づきます。」

紗倉は遺伝による肺がんと診断された。10代でがんと診断されるのはごく稀だと言う。その頃、私も紗倉も知識が浅かった為か、その時点での治療はしないという判断に至った。

私たちはその帰り、無言で帰宅していた。田んぼの上を飛ぶアキアカネの羽が、太陽に照らされ光っていた。

「ねぇ、紫乃…私、大丈夫かな」

私は紗倉の言葉に何も答えられず沈黙が続く。

「私…さ、将来…歌手になりたくて、紫乃も知っての通り…両親居ないからさ、おばあちゃんに話したんだ。私は歌手になるって、おばあちゃん認めてくれたんだよね…でもさ、この夢…叶えられないかもなって思ったら…おばあちゃんに申し訳ないなって思って…ねぇ紫乃…私…なれるよね?大丈夫…だよね?」

私は5秒ほど考えて言った。どう言えば、紗倉は傷つかないのか。

「私は紗倉のこと信じてるから、大丈夫…絶対なれるよ、めっちゃくちゃ有名な歌手になれるよ…!」

今にも泣きそうな声を押し殺して、私は笑顔で紗倉にそう言った。

「だよね!なれるよね!ありがとう…紫乃…私、頑張ってみる!応援してよね!」

紗倉は私の方を向いて、顔の近くに手を上げた。

「うん!」

私と紗倉は思い切りハイタッチをした。

夕陽に照らされた稲が、金色に光る。

ーーー

「おい、お前ら遅ぇぞ。もう始まるっつぅのに、ほんっと変わんねぇなあ…遅刻魔がっ!」

校門の前に居る金木が大声で言う。

「ごめんごめん、支度してたら遅くなっちゃって~」

紗倉が金木にそう言う。

「女って支度時間めっちゃかかるからめんどくせぇよなぁ、うちの嫁もそうだわw」

「ほんっと金木ってデリカシーないよね~紫乃もそう思わない?」

「え?…うん、そうだね」

紗倉は笑っていた。私はその表情を見て、この笑顔は守ってあげないといけないと思った。

「ほら行くぞ~みんな待ちくたびれてんだ。」

私は紗倉の手を引いた。

「紗倉、行こ?」

紗倉は少し驚いたが、すぐさま「うん」と言って、私と紗倉は走ってみんなのところへ向かった。

ーーー

紗倉の病気が判明する前の高二の秋…

「お前ら来月の文化祭の出し物は、どうしたい?」

梶野先生が教壇に手をついて言う。

「やっぱ男装メイドカフェとかいいっしょw」

と、真っ先に金木が口を開く

「は?有り得なーい、それなら女装メイドカフェでしょ」

そうやって金木に言ったのは紗倉だった。

「ちょっと紗倉、それ言い過ぎw」

周りの女子たちが紗倉に言う、

「でも面白そうじゃん、紫乃はどう思う?」

紗倉は私に意見を求めてきた。

「んー、面白そうだけど…飲食系って大丈夫なんですか先生」

私はすかさず先生に話を振った

「そうだな、なるべく火の使わない飲食系なら大丈夫だぞ」

「じゃあ男装カフェだな!」

「ちがう!アンタたちが女装してメイドカフェするのよ!」

それから数十分ほど論争があり、結局、私たちのクラスはお化け屋敷になった。お化け役はもちろん金木だ。その他にも何人かの男子が抜擢されて、その中には数人の女子もいて、私と紗倉もその中の一員だった。

「ガッチガチにメイクしてやろうかなw」

「誰を驚かすつもりよ金木w」

「え?そりゃあ鬼梶野しかいねぇじゃんw」

「マジ笑うんだけどwそういうとこだよ金木の悪いとこw」

「え?wマジかww」

紗倉と金木が仲良さそうに会話をしている中、私はクラスの女子と飾り付けを手伝っていた。

「ねえ紗倉、こっち手伝って」

「はーい今行くー」

その日は、紗倉が残って作業をすると言って、私は早めに教室を出た。紗倉は、金木の事が好きなのだろうか、そんな事を考えながらひとり、田んぼ道を歩いていた。

ーーー

「そういやさ、あの時…結局土砂崩れで文化祭出来なかったよな。」

金木がそう切り出した。

「あれだけお化け役張り切ってたのにね」

紗倉が金木に言う。

この二人の関係は今でも続いているのだろうか、私はそんな事を考えながらビールを飲んでいた。

「紫乃はさ、文化祭もう1回やるってなったら…したい?」

「私は…そうだなぁ…したいとは思ってるよ。」

私がそう言うと、金木が突然立ち上がった。

「それじゃあ決まりだな!皆手伝ってくれ!知り合いがやってるスタジオ借りたから、そこでお化け屋敷しようぜ!」

私たちは飲み会のすぐあとに、急遽文化祭でするはずだったお化け屋敷をすることになった。

「鬼梶野の霊が出たりしてな!」

金木はスタジオに向かう途中、そんな事を言った。皆は何も言わなかったが、紗倉は笑っていた。

「よし、じゃあ準備を始めるぞ」

そこから私たちは着々とそれぞれの持ち場に着いて準備を進めて行った。

それから約3時間経って、簡素なお化け屋敷が出来上がった。お化け役は、当時のお化け役だった、金木と私と紗倉、それと数人の男女がすることになった。

「ちゃんとやってよ~金木」

「お互い様だろ?一ノ瀬」

金木は入口付近、私と紗倉は出口付近の場所についた。それからしばらくして続々と人がお化け屋敷の中に入ってきた。入口付近で大きな悲鳴が聞こえてくる。

「うわぁ…やってるね金木w」

「そうだね、…そういやさ聞いてもいい?」

私は暗がりの中、隣に居る紗倉に聞いた。

「アンタって金木の事…好きなの?」

「え?どういうこと?w」

紗倉の反応を見たところ違うような気がした。

「違うの?」

「違うよ?ただ、仲がいいってだけ…好きっていうのは無いよ~」

私は何故か安心した。この安心は紗倉への安心なのか自分の中での安心なのかは分からない。だが、紗倉が金木をそういう風に感じていないということは…金木が紗倉の病気を知って病むことも無いということ。私は…紗倉になにかしてあげることはできるのだろうか。そんな事を考えていると、近くに人が来始めた為、私たちは一緒に思い切り驚かした。その瞬間、とても楽しかった。そのあと何人か驚かしたあと、ブザーが鳴り、お化け屋敷は終わりを告げた。

「楽しかったね!紫乃」

「ほんと楽しかった~」

私たちが2人で話していると金木が話しかけてきた。

「俺に言うことないのかよー」

「ハイハイ、ありがと金木」

「その言い方おかしいだろw早乙女はどうだ?」

私は金木の言葉を聞いて今の感謝を伝えた。

「普通に感謝だよ、ありがとう金木」

「お、おう…」

金木が少し顔を赤くしてそむけた。

「何照れてんの?金木~やばw」

「照れてねーしwなんだよ一ノ瀬w」

金木は私の言葉に対して、照れたようだ。

その後、私たちは金木達に別れを告げ、電車に乗った。隣では咲良がスマホを触っていた。不意に咲良の笑った顔が見えた為、ふと咲良のスマホの画面を覗く…咲良が見ていたのは、当時高二だった咲良と私、その後ろでふざけている金木を含める男子達、それを見て笑うクラスメイトの映った動画だった。そこには先程と同じような笑顔が溢れていた。あぁ…そういえば、こんなだったっけ…。私は目をつぶって、しみじみと思い出を噛み締めた。もう…あの頃と同じ様にはなれないけど。みんなあっちで元気にしているだろうか。そんなことを考えながら、手の中にあるキーホルダーを強く握りしめた。

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