「叶えたい夢」
「今から向かう葵くんって、確かお医者さんだっけ?」
夕日に照らされた窓の外を肘をついて眺めている紗倉が聞いてくる。
「いや、あの子は大学四年生なはずだよ。」
「そっか、お医者さんって大学院もあるから6年制か…私なら絶対やだなぁw」
そう言って紗倉が笑う。
「まぁ、アンタも大変なんだから人の事言えないでしょうが」
私は握りこぶしを作って紗倉の肩を軽くどつく。
「いったwまぁそうだね~私も最低限やれることはやるつもりだよ」
力ない笑顔で紗倉は笑みを浮かべた。窓の外からガタゴトと車輪の音が聞こえる。少し先に見える菜の花畑がオレンジ色に染まり終わる。日が沈み始めている。東の空が紺色に染められていく。
「もう18時なんて、早いね」
紗倉が左手にしている腕時計を見ながらそう言う。
「ほんとだもうこんな時間」
私は時間を確認するため、スマホの画面を見た。するとそれに相応するかのようにひとつのメッセージが画面に表示された。それは向井 葵からの一通のメッセージだった。そこには『梶野先生も共にいらっしゃるのですか?』と書かれていた。私はすぐさま『もう葵くんの元に居るよ』と書いて、消した。すると、紗倉がスマホを覗いてきた。
「何見てるの?あ、例の葵くん?何送ろうか悩んでんの?じゃあ私に貸して?」
私は紗倉にスマホを渡した。
紗倉は淡々とスマホの文字を打ち終わり、私にスマホを返した。
「はい、コレでいい?」
そこに書かれていたのは、
『梶野先生なら、ずっと葵くんの傍で応援してますよ』と。
「これ…紗倉ってあの人のこと嫌い…だったよね?」
紗倉はうつむいてしばらく何も言わなかった。
そのまま電車は駅に着いた。
私は紗倉と共に電車を出た。その時、紗倉が耳打ちで喋ってきた。
「昔までは好きになれなかった…でも身を呈してまで生徒を守ろうとしたあのクソ教師が、少しかっこいいって思えて…今考えると、アイツにもっと叱られとけば良かった…そう思っただけだよ。」
紗倉の声は、少しだけ、か細く…
いつもの紗倉の声では無い。真剣な声のように思えた……