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また、桜舞い散るこの街で  作者: 紅茶 螺鈿
2/13

「懐かしい景色 2」

「ねえ紫乃、これこれ」

紗倉の声が後ろから聞こえた。

振り返ると、紗倉は何かを指差している。

「ほら、これ見て」

紗倉は私の足元にしゃがみこむ。

「何見てんの紗倉?」

私も紗倉と同様にしゃがみこむ。

そこにあったのは春雨に濡れた四つ葉のクローバーだった。

「ラッキーじゃない?これ、摘んで行こうよ紫乃。」

私は辺りを見回した。目の前にひとつの看板を見つけた。

「これ見てみなよ紗倉」

そこには子供の書いたような文字で『このクローバーはぜったいに触らないでください』と記してあった。

「あー、これ…誰かが育ててるクローバーなんだね。あちゃーアンラッキーだね紫乃。」

紗倉は少し残念そうな顔をして言った。…と、そこで私はある事を思い出した。私はセカンドバックから、(つい)になったクローバーのキーチャームを取り出した。

「これなに?」

紗倉は疑問そうに問いかけた。

「これ忘れてた。はい紗倉、アンタの分。」

私は片方のクローバーの欠片を紗倉に渡した。

「あ!これって…」

「そう。高校の卒業式の時、紗倉から預かってたキーチャーム。返すわ」

私は紗倉の手を取って渡した。すると紗倉は、そのキーチャームを太陽にかざした。

「これさ、私無くしたと思ってたんだよね…でも良かった。紫乃が持ってたんだね。」

紗倉は少し安堵の表情を浮かべていた。

「これ、私も要らないから、アンタが持ってて」

私はもうひとつ持っていたキーチャームを少し強引に紗倉に渡した。

紗倉は『へ?』とでも言うような顔をしてこちらを見つめてきた。

「紗倉がこれ持ってたら、また5年後…ここで会えるかなって思っただけよ」

私が少し照れながら言うと、紗倉はそれを汲み取ったのか嬉しそうな表情で

「うん!」と

元気よく言った。そして紗倉は勢いよく飛びついてきた。

「ちょっと紗倉、なにしてんのw」

「んー?ひ・み・つ・♪」

その時の紗倉の顔は、とても嬉しそうだった。

「あ、そうだ!」

紗倉は何かを思いついたように声を上げた。

「ここで写真撮ろう!」

「え、いま?」

「そう!もちろんあのポーズで!」

紗倉は、人差し指と中指と親指を立て、顎に近づけるようなポーズをした

「あ…あれね、いいよ。撮ろ撮ろ」

…『カシャ!!』

スマホのシャッター音が鳴り、写真が表示される。

そこには紛れもなく、高校時代と何ら変わらない笑顔が映し出されていた。

そうだ!ここは…どうして気が付かなかったのだろう。1番忘れちゃいけない場所なのに。

ここは…私達が日々通っていた高校の跡地。塀はあるが、更地になっているから気が付かなかった。

ここは紛れもない。

私たちの『懐かしい景色』だ。

「紫乃、どうしたの?」

紗倉が首を傾げて言う。

「ううん。なんでもない」

紗倉は不思議そうな顔をした。

「ほら紗倉、行かなきゃ!みんなが待ってるよ!」

私は紗倉の手を握る。

「へ?どこに?」

紗倉はまだここがどこだか分かっていない様子だ。

「登校の時間だよ!早く門ぐぐらなきゃ、あの鬼梶野に怒られるよ~」

紗倉はそこでやっとわかったようだ。

「うん!またアイツに怒られるのなんてゴメンだもんね!」

私たちは錆びて朽ちた門を走って通り抜けた。

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