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お土産を持って帰る

 ラモーナ様に「ラベンダーを摘みたいです」と言ったら、彼女は喜んで庭師さんを呼んでくれ、一緒に摘むように言ってくれた。

 旦那様とも顔を合わせたが、なるほどたしかにいい人だった。

 私はそれらを思い返しながら、自分家だとまずあり得ないほどのふかふかのベッドで眠る。


「……こんな生活していたら、きっと王都に帰りたくなくなるのに、でも……」


 それでも頭に浮かぶのは、シリルさんの顔だった。

 シリル型人形はたしかに彼そっくりにつくったはずの人形なのに、あの人の浮かべる表情は全然しない。

 眉間に皺を寄せたり、困ったり、怒ったり。人前でするような王子様のような騎士のような表情をすることは滅多にないけれど、私の手を取ったり髪を撫でたときの優しい表情は、あの人だけのものだった。


「……私、あの人のこと、好きだったんだなあ……」


 そばかすだらけ。真っ赤な髪。魔女。人形師として生活している。

 そんな私を「ダリアの花」と呼ぶような人は、あの人しか知らないし、多分他にそんなこと言われても困る。

 お土産を持って帰ろう。あの人に会いたい。

 そう思いながら、眠りについた。ラベンダーの香りを嗅いでいたせいなのか、その日はよく眠れた。


****


 それから私は、六日間滞在した。

 途中でラモーナ様は、人形師の仕事を見たいという彼女のお友達を紹介され、慌てながら人形を見せた。さすがに本格的な自律稼働式の人形はつくれないものの、燃やすこと前提の小さめなお守り人形くらいならつくれるため、それらを見せてあげた。


「王都では人形があちこち歩いているって、本当ですの?」


 郊外で商売をなさっているご婦人は、私が話したメイド人形に興味津々のようだった。たしかに流行り病が流行ったとき、使用人が全滅して屋敷全体が回らなくなった悲劇があるから、流行り病で使用人たちを隔離している間働き手が欲しいところだってあるだろう。


「そうですね。王都の婚前恋愛禁止条例、まだ解けていませんから。メイド人形だけでなく、恋人人形もいらっしゃいますよ」

「まあまあ……執事人形も不思議ねと思っていたけれど。王都って面白いことがたくさんですのね」

「そうですねえ……人形師自体数も少ないですから、そんなにたくさんつくれませんしね」


 実際問題、商家が人形人気に目を付けて、人形師を雇って大量生産しようと企んだことが一瞬あったけれど、自律稼働の魔法の再現だけは、大量生産の時代であってもできなくって頓挫したのだった。

 魔法石があればできるものでもないし、蒸気機関でどうにかなるものでもない。なによりもあまりに精密操作で人間に危害を加えないようにつくらないと、怪我人だって出るのだから、大量生産されて事故が大量発生しても、人形師だって困ってしまう。

 それに他の夫人も言う。


「家事以外はできませんの?」

「単純労働ですと、重量制限があるから、たとえば畑を耕すとかは難しいかもしれません。ただ、軽い荷物を運ぶ、子供と遊ぶくらいだったら、人形の本分ですね」

「いいわねえ……」


 近いうちに、人形の話をもっと聴かせて欲しいと、何度も握手をされてしまった。

 私がてんてこ舞いになって話を裁いている中、「お疲れ様です」とラモーナ様がシリル型人形と一緒にお茶を用意してくれた。

 その日出してくれたのはカモミールティーで、優しい味がした。


「いえ。私もまさかこんなところまで来て、仕事の話をするとは思ってもみず」

「執事を気にされている方が多かったから。わたくしが呼んだのに、それじゃああなたを扱き使っただけになってしまいますわね?」

「いえ。そんな。うちはこんなに快適な生活送ったことないですから。長期休暇のあとは、また人形つくらなきゃ、ですけど」

「まあ……うふふ」


 ラモーナ様に笑われてしまった。


「本当に……人形が大切ですのね?」

「そうかもしれませんね」


 ラモーナ様は、私が王都に帰る際には、王都で買うことが滅多にできないフレッシュハーブをたくさんくれた。

 ラベンダーだけでなく、メリッサも、ミントも、セージもたくさん。フレッシュハーブとして紅茶を楽しんで、残りはドライハーブにしてしまおう。

 ドライハーブにしたら、それでソーセージをつくって、シリルさんと一緒にスープにしていただこう。

 そう考えていたら、ラモーナ様ににんまりと笑われてしまった。


「な、なんですかぁ……」

「いいえ。エスター、あなた気付いてましたか?」

「はい?」

「初めてわたくしが店を訪れた際、あなたひどく陰気くさかったですのよ。それが取れて……まるで恋しているみたい」

「そ、そんなわかりやすいですか、私!?」

「ええ、とっても。王都で……そうね。王子様と仲良くね?」

「からかわないでください……っ!!」


 こうして私は、呼んでもらった馬車に乗って駅まで向かい、蒸気機関車で王都へと帰っていったのであった。

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