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ツケ

 店主が閉店のため店を掃除していると、一人の男が駆け込んでくる。


「わりぃ、少し隠れさせてくれ!」


 男は着ていたシャツに血がついており、お店の前をヤクザらしき男たちが駆けていく。


「アイツらあんたを探しているのか?」

「ああ、ちょっとわけありでな……」


 店主は暖簾のれんを外し、お店の入り口のシャッターをおろすと男の座っていたテーブルに水を差しだす。


「兄ちゃん悪いな。直ぐに出ていくよ……」


 男は気まずそうにしながらも店主が出した水を一気に飲み干す。


「お腹減ってませんか?」

「え?」


 男は唐突な店主の質問に驚くが、ずっと逃げ回りお腹が減っていた。


「いや、でも、いま金持ってなくてな……」


 男は敵対組織のボスを襲撃し、相手組織から追われていたところで、持っていた荷物も全て逃走用の車に置いてきたままであった。


「それ、物騒なんでしまってもらえますかね!」

「ああ、わりぃ……」


 店主に促され、男はテーブルに置いていた拳銃を懐にしまう。


 店主は無言のまま厨房に入ると、何かを調理し始める。


(いい匂いだ……。懐かしい匂いがするな……)


 五分ほど経って、店主が男に生姜焼き定食を持ってくる。


「いいのか?」

「だって、しばらくこういうの食べれなくなるでしょ?」

「ああ、そうだな……。何年かわからないが、しばらく食えなくなるな……」


 男は苦笑いしたあと、手を合わせ、定食を食べ始める。


(美味い……)


 男は一口食べた時にこのお店の生姜焼き定食に懐かしさを感じた。

 そして、男は子供の頃に母親が作ってくれた生姜焼き定食を思い出した……。


(なんで、こんな人生になっちまったんだ……。言われるがまま鉄砲玉になって相手の親分を殺ってしまうなんて……。俺はどの時点で人生を間違えた……)


 男は味噌汁を飲んでいると、自分の顔からもしょっぱいものが流れて口に入ってくるのがわかった。


 男が涙を流しているのに気づいた店主はそれに気づいていないように厨房に戻り、皿を洗い始める。


「お兄ちゃん、捲き込んじまって悪かったな。警察を呼んでくれ! 店に拳銃を持った男が押し込んだって言ってもらえば、あんたが俺をかくまったことにはならない」


 男は店主に迷惑をかけてはいけないと思い、自らが拳銃を持って店に押し入ったことにしようとする。


 店主は黙って皿を洗っていたかと思うと、電話器を持ってきて、自らかけるように促す。


「俺、無愛想ですし、口下手だから電話してもうまく説明できませんよ。自分で自首する電話かけてください! だって、無銭飲食なんだから」


「はは、そうだな……。何から何まで申し訳ない……」


 男は椅子から降りて店主に土下座すると、自ら警察に電話して出頭することを伝えた。


 五分くらいすると、角刈りでイカツイ外見の刑事が数人お店に入って来て、男を取り押さえ手錠をはめた。


「店主さん、大丈夫でしたか?」

「ええ、生姜焼き定食を一食分無銭飲食されただけです」


 店主はいつもどおり刑事にも無愛想に淡々と説明し、男は警察が店の前に止めていたパトカーへと連れていかれる。


「お兄ちゃん、悪かったな」

「ええ、今日の食事代はツケにしておくんで、出て来たら支払ってくださいね」

「ああ、必ず払いに来るよ」


 男は店主に笑みを浮かべると、車に乗せられ、警察へと向かって行くのであった。


『〇月〇日、生姜焼き定食1食分、後日支払予定』


 店主は厨房にかけられているコルクボードにそのメモ書きを貼って、男が支払いに来るのを楽しみに待つのであった。


 

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