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不器用な父子

 ジャケットを着た身ぎれいな格好をした50代くらいの男性が来店する。


「生姜焼き定食1つ」


「……」


 店主は黙って調理に入る。


 男性は席に座り、店主も黙って生姜焼き定食を出す。


 男性は生姜焼き定食を食べながら、家を出て行った息子のことを思い出した。


 早くに父親を亡くし、母親一人に育てられた男性は必死に勉強し、いい大学に進学し、大手企業に勤めた。


 その後も順調に出世し、妻と息子と3人で安定した生活を送り、男性の中ではいい大学に入り、大手企業に就職することが正解なんだという偏った価値観に凝り固まっていた。


 ある時、息子が高校三年生の頃、大学には行かずに調理師学校に行き、料理人になりたいと言った時に男性は息子を罵り、言ってはいけないことまで口にした。


 一方の息子もバカ親父など父親を必要以上に罵倒し、家を飛び出した。


 その後、男性は息子と会っていない。


 ある時、息子が自分の母親が営んでいる定食屋で料理人として働いているということを聞くが、喧嘩した時のことを引きずって、なかなか会うことができないでいた。


 息子の方も家を飛び出したものの行く当てもなく、祖母の家を頼った。

 当時、祖母は黙って孫を受け入れ、調理師学校にまで通わせてくれた。


 祖母に悪いと思いバイトして学費を払うと言っても、中途半端な覚悟で料理の道を目指すなとよく叱られ、お店の手伝いをしながら調理師免許を取得した。


 男性が息子と会わなくなって5年くらい経った頃に母親が亡くなり、「孫と会ってよく話し合いなさい」と母親の遺品の中から男性あての手紙が出てきたが、男性は母親の葬儀の時も息子にかける言葉が見つからず、そのまま話す機会を失っていた。


 一方、息子の方も祖母が亡くなる際に父親も悪気があって喧嘩したわけではないから時期が来たら父親と会って話してみるように言われたが、意地を張って話さなかった。


「あの写真はお前が調理師免許を取った時の写真か?」

「ああ、そうだよ」


 男性はお店の壁にかけられている今の店主が調理師免許を取った際に先代の女店主と二人で並んで笑顔で写っている写真を見る。


「母さんが心配しているから、俺が居ない時で構わないからたまには顔を出してあげて欲しい……」

「……ああ、たまには顔出すよ」


 二人の間に静かな間が空くが、以前のような険悪な感情ではなくなっていた。


「それにしても、この生姜焼き定食はお袋の味だな」

「ああ、婆さんが一番基本で一番大事だと、よく閉店後に作らされた料理だから……得意なんだ……」


 不器用な父親と不器用な息子、壁にかけられた先代女店主の写真はまるで今の二人を見て微笑んでいるかのように見えるのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 決して長くはないお話なのに、3話ともそれぞれの味があり、とても楽しく読ませて頂きました。なにより生姜焼き定食が食べたくなります! ラストのお話のキーパーソンの正体が……というところも、お話の…
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